ミニチュアシュナウザーと暮らすということ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:佐々木 ヨーコ(ライティング・ゼミ特講)
「ワンワン! ワンワン!」
日曜日の朝6時、静かな住宅地に我が家の犬の鳴き声がひと際大きく響き渡る。
家の掃除をしている間、庭に出ていて貰ったのだが、おそらく通り過ぎる自転車か何かに鳴いているのだろう。
あー始まっちゃった、スイッチ入っちゃったよー。
(せっかくの日曜日、皆さんゆっくり寝ていたいでしょうに、起こしてしまって、本当に本当にごめんなさい!)
私は心の中で、隣近所の人にひたすら謝る。
我が家の犬は、今年7歳になるミニチュアシュナウザーの女の子、いや、もう熟女か。
「鳴きスイッチ」が入ってしまうと、なだめても叱ってもしばらくは止まらない。自分が納得するまでは外に向かってひたすら鳴いている。長い時は10分ほどは鳴き続ける時がある。あの小さな体全体が拡声器なんじゃないか、という位、びっくりする様な音量だ。
1歳になる頃から鳴き癖がついてしまい、しつけの本を買ってみたり、犬の小学校なるものに入学させてみたり、ごほうびで釣ってみたり、私に思いつく手段を試してみた。果ては、アニマルコミュニケーターという動物と話せるスキルを持った方の所に犬を連れてお邪魔して見て頂いた事もあるが、その後も犬の行動に変化は無し。今となっては諦めモードで、ただただご近所の迷惑にだけならないようにと願う毎日である。
こんなはずじゃなかったのに、なあ。
今の犬を家族に迎えてから、何度となく呟いた言葉である。
私のしつけが下手だった事もあるのかもしれない。こんなに鳴き声がうるさいと知っていたら違う犬種にすれば良かったのかも、とさえ考えた。
だって、友達の飼っているトイプードルなんて、会う度にいつもつぶらな瞳でニコニコご機嫌な顔をしていて、およそ大きな声で鳴いている所なんて想像もつかないではないか。
今の犬の事では、同居している両親からも「犬の声で頭が痛くなる」「電話をしている時に相手の声が聞き取れない」と何度かクレームを受けた。
もちろん、一緒に暮らしてこそ感じる可愛さや利口さなど、良い所は数えきれないほどある。見た目は縫いぐるみの様に愛らしいし、毛も抜けなくて家の中が汚れない。外では他の犬に対しても人に対しても落ち着いて接する事ができマナーが良い、車酔いもしないので一緒にドライブも楽しめる。
何より私は、彼女の事を家族として愛している。
どんな人にも欠点があるように、家族なのだから欠点も含めて大好きなのだ。
しかし、時々こうして欲しいなと思うことが上手く伝わらない。
人間の家族なら話して分かる事も少なからずあるのだろうが、多少はこちらの言っている事も理解しているものの、人間ほどスムーズに言いたい事が伝わらない。
相手の言わんとする事も、表情や仕草から推測するだけである。
何とも歯がゆい。まるで自己主張の強い外国人と片言で会話しているような感覚である。
こちらはやきもきしていても、彼女は存外けろっとしてスリッパと戯れていたりする。その無邪気な姿を見ると、私は怒るに怒れない。
そんなある日、駐在さんが家に来た。
何でもこの辺りに空き巣が増えているから、気を付けて下さいとの事。
玄関で話をしていたら、私の後ろから犬が飛び出してきた。
駐在さんに向かって「ワン! ワンワン!」と大きな声で吠える。
私はいつもの様に、効き目が無いと知りながらも犬に向かって怖い顔を作って言う。
「コラ、鳴かないの! すみませんうるさくて。この子、無駄吠えが多くて」
いつも近所の人にするように謝る私に、駐在さんが笑って言った。
「いやあワンちゃんが居てくれて助かりますねえ。これだけ声が大きいと、良い防犯になりますよ。空き巣は面倒くさそうな所には入りたがらんですからね」
駐在さんは、可愛いワンちゃんですね、と犬の頭を撫でて帰って行った。
私は、はっと驚いて犬の顔を見た。
自分が彼女の短所だと決めつけていた事が、駐在さんの魔法のような一言で類まれな能力に変化したのだ。それも人間の生活にも十分に役立つ長所として。
私は家族なのに忘れていた。この子が普段どんなに私たちの生活に幸せを与えてくれているかを忘れて、自分にとって都合の良い性質だけを見ようとしていたのかな。
「誰か来たよって教えてくれてたんだね、ありがとう」
ミニチュアシュナウザーと暮らすということは、よくしゃべる、自己主張の強い異文化の外国人と同居するようなものなのだ。
相手の主張や行動が理解できない事も沢山あるけれど、お互いの言葉も、価値観も、考え方も全く違う存在と、お互いの違いを認めて楽しみながら暮らして行きたいと思う。
これって、人間関係にもいえる事かもしれないな。
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