今目の前で、人が胸を押さえて倒れたら。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:なつむ(ライティング・ゼミ日曜コース)
「ブッ」「ピーッ」「キュッ」「ピーッ」「キュッ」「ブッ」「ブッ」「ピーッ」……
子供用スリッパのような、ブーともピーともキュッキュッとも言える音が、部屋じゅうで鳴りまくっている。
階段を抜けて、上のフロアまで聞こえるほどの大音量、事情を知らなければ何事かと思う音だっただろう。
都内某所、台風の迫る週末。
運動をしに集まった大人が、運動の前に、とある講習を受けた、その一幕。
講習のテーマは、「AED」。
止まりかけて脈のリズムがわからなくなってしまった心臓に、電気ショックで脈動を思い出させる器械だ。
講師は現役の救命救急医の先生。つまりはあの人気ドラマ「コード・ブルー」を地で行くプロということになる。
危険を伴うスポーツこそ、安全であれと、仲間が設けてくれた、講習の機会だった。
「年間7万人。
何かというとこれ、日本で、“心臓突然死”で亡くなる人の数です。
心臓に突然異変が起きて、倒れて、なくなってしまう人の数。
交通事故で年間4000人ですから、どうでしょうか?多いですよね」
「心臓が一度止まった場合、処置が1分遅れるごとに、救命率は10%ずつ下がります。
人が倒れて、気づいた人が救急車を呼んだとします。
さて、救急車って、どのくらいで来ると思いますか?
平均で、8分後、なんです。
早いと思うか、遅いと思うか、あるかと思いますが、1分で10%、助かる率が下がるということは?
そう。
待っていては、救命率は、大きく下がってしまう。
だから、“居合わせた方で正しく対応できるかどうか”で、助かる可能性が全然変わってくるんです」
「おかしくなってしまった心臓は、心室細動という不整脈で、ブルブル震えています。
これではポンプの役割が果たせない。血液の回らなくなった脳や体は死んでいきます。
その心臓に電気ショックを与え、元の脈に戻してやるのが、AEDです」
「心臓マッサージとAEDを合わせると、救命率は6倍に上がります」
先生の話は、とてもわかりやすかった。
昔は人工呼吸も習った気がするが、その点は、医学的に見直されて、気道確保と人工呼吸よりも、まず心臓マッサージ(今は「胸骨圧迫」というらしい)を優先したほうが、救命率が上がるということで、ガイドラインも変わったらしい。
助けるためとはいえ人工呼吸というのは他人にやるにはハードルが高く、実際できる自信がないと昔から思っていたので、そういう最新の知見を知れたこともとても良かった。
そして、ショックだけれど知ってよかったかなと思ったこと。
それは、AEDが普及しこういう一般向けの講習会が少しずつ進んでいる背景に「救えなかった命があった」という事実だ。
いや、言われてみれば、人の歴史を考えれば「当然、それはそうだろう」ではあるが、やはり、知れば、無念で悲しい思いというのは拭えない。
「あの時AEDがあれば、その子は助かったかもしれない」
「もっと早く、AEDを一般の人が使えるようになっていれば、その人を助けられたかもしれない」
「そこにAEDの使い方を知っている人が一人でもいたら、あの人は今日も、生きていたかもしれない」
でも……。
そういう厳然たる現実や過去があって、その上に、今がある。
亡くなってしまった方は帰ってこないのだから、それを知って、ならばAEDを使えるようになってやろうではないかとこちらが思えれば、少しでも報われるのかもしれない。
講習の中では、実際に、胸骨圧迫、昔心臓マッサージと呼んでいたそれや、AEDの使用手順も交えて、実習をした。
胸骨圧迫は実際にやってみると、それ自体は難しくはないが、「やり続ける」ことの負荷がとても大きい。すぐに疲れてしまう。
どのくらい大変なのかというと、今回、日頃から筋トレをする大人2人が、2セット交代して、そろそろ汗をかく頃、
「今でどのくらい?」
「開始から2分」
「……え!?」
それが現実だった。部屋中にキュッキュッブーブーピーピーと鳴り響かせても、まだ5分も経っていなかったのだ。
普段、心臓という筋肉の塊が自律的にやってくれていることを、外からの圧力で再現しようと思うとこんなにも大変なのかと思い知った。
「まず声掛け、反応がなければ呼吸の確認。
呼吸なし・普通の呼吸ではないなら、119番とAEDを大きな声で周りに頼む。
胸骨圧迫を開始し、AEDが来たら電源を入れてAEDの指示に従う。
本人の呼吸や動きが戻るまで、あるいは救急隊員や駅員さんなどに引き渡すまで、続ける」
今まではざっくりしか知らなかったが、「勇気と少しの知識」があれば、「現場に居合わせた一般の人」の誰もが、突然倒れた人の命を救うことに貢献できるということが、よくわかった。
最後に、一つ知っておいてほしいことがある、と、先生は告げた。
「関わったとしても、助からないこともある」
助からなかった場合も、咎められることや罰されることはないので、その点は安心してほしい。
でも、助からなかった場合に、大きなストレスを負ってしまうこともある。
もしそうなったら、まずは周囲の人に話してみるなど緩和を試みてほしい。
それでダメなら、ケアする体制もあるので、必要なら、頼ってほしい。
会場はしんとした。でも、それが現実なのだ。
どう振り返っても、良い講習だった。
具体的に、実際的に、あぁ、こういうふうにやると、場合によっては人が助かるかも知れないのか、と、実感を持って、命を救う方法を習ったのは、生まれて初めてかもしれない。
実際に今すぐ助けられるかと言われたら、一人でなかなか自信はないが、自分の周囲にも伝えていって2人3人、同じ知識と勇気があれば、助けられる人の数は、ぐんと増えることは間違いないと言えそうだ。
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