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カミングアウト


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記事:斎藤多紀(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「私生理になりました!」
ある女の子が、小学校の教室でみんなの前でこう発表した。
 
これが私の通っていた小学校の朝のホームルームの日課のひとつだった。クラス担任の先生の提案で、生理になるというのはおめでたいことだから、なった女の子はみんなの前で発表し、祝福を受けなくてはならなくなったのだ。
生理になるなんてちっともうれしくない。面倒だし、プールの授業は休まなくてはいけなくなるし、何でよりによって男子生徒もいる前で発表などしなくてはならないのだ。私は憤りを感じていた。しかし、そんな風に思っていたのは私だけだった。翌日から、ポロリポロリと、初潮がきたことを発表する女子生徒が出始めたのだ。しかも、みんなうれしそうに言うのだから、驚きだ。羞恥心というものがないのか、それとも単に素直なだけなのか。私にはまったく理解できなかった。そのため、私はとっくに初潮を迎えていたのだが、半年以上そのことをひた隠しにしていた。
 
しかし、ある日ランドセルを開けたときに、生理用ナプキンが転がり出てしまい、それを周囲の生徒に見つかってしまったのだ。
「何これ、○○ちゃん(私の名前)も生理になったの? みんなに言わなくちゃダメじゃない!」
と散々せめられた。そして、
「先生! ○○ちゃんも生理になったそうです!」
とおせっかいな生徒のせいで、先生にもクラスのみんなにも私が生理になったことを知られてしまったのだ。みんなにおめでとうと言われ、拍手をしてもらったが、ちっともうれしくなかった。それどころか、このクラスは狂っている。みんな担任に洗脳されているのだと思った。
 
しかし、この日から私は隠し事をしなくてもいいという開放感から、とても楽になった。プールも生理の時には堂々と休めるようになったし、生理痛がひどいからと保健室で寝ていることもできることになった。生理用ナプキンが入ったポーチも、堂々と持ってトイレに行ける。他の女子もそうだった。生理のことをからかってくる男子もいなかったし、クラスのみんなが生理をごく普通のこととして受け止めていたのだ。
これが担任の狙いだったのかと、ようやく私は気付いた。小学校を卒業するまで、生理になったことをずっと隠しておこうと思っていたけれど、完全に私の負けだった。小学校の卒業式の日、私は担任の先生に
「先生、生理のこと隠しててごめんなさい」
と謝った。そうしたら先生は、
「恥ずかしかったんでしょ。いいのよ」
と笑っていた。
 
ただ、これは私が小学校を卒業したのが30年以上前で、しかも田舎ののどかな学校だったから成り立ったことなのではないだろうか。いじめ問題もなかったし、不良もいなかった。みんな素直で純粋な田舎の子どもだったのだ。だから、こんな奇抜なやり方が通ったのだと今は思う。今の小学校でこんなことをしたら、セクハラ、パワハラ、いじめなど、さまざまな事件の火種となるだろう。
 
今、中学校の女教師とその教え子の恋物語を扱ったドラマが放送されているが、教え子の中学生役の男子が大人っぽいことに驚く。私が通っていた小学校でも、中学校でも、高校でも、先生を好きになる生徒というのはいた。そう、生理になるということは、大人の女の仲間入りをしたということ。大人の女の体になり始めたのだから、先生からひとりの女として見られる女子がいるのもあり得ないことではないのかもしれない。中には、付き合う寸前までいった人たちもいたし、卒業を待って結婚したカップルもいた。
 
生理に限らず、思い切ってカミングアウトしてしまうと、気が楽になることはある。私の通っているスポーツジムのトレーナーの男性は、ちょっと小柄だけどマッチョでいい体つきをしている。しかし、最近知ったのだが、もともとは女性だったそうだ。そのことを今周囲の人たちに、次々とカミングアウトしているのだ。そのせいで、離れていった人もいないし、逆に「隠しているのつらかったでしょう」と同情されることのほうが多いという。何にせよ、隠し事をしているのはつらい。できる限り、悩みや弱みもオープンにして、「私ってこんな人なの。だから許して~」といった感じに生きているほうが気が楽だ。私が初対面の人にまず言うのは、
「私、すごく口下手ですけど、人の話を聞くのは大好きなんです」
「占い師やってますけど、霊感商法とかはやってないですよ」
「いい年して独身ですが、何かわけありということではありません」
などだろうか。これ以外にも、さらけ出してしまったほうがいいなと思ったことは最初に会った段階で言うようにしている。
このことを、私は小学校の担任の先生に生理を通して学んだ。これは、実は一生の財産をもらったのかもしれない。
 
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2018-11-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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