メディアグランプリ

お休みの正義はリンパマッサージ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:Hanao(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「週休2日にしようかと思ってるんだよね。売上、そんなに変わらないし」
 
最近よく行っているビアバーのマスターがそう言った。住宅街にあるカウンターだけの小さなお店は、びっくりするほどいつも満席だ。お店はバイトも雇わず、マスターがたった1人で切り盛りしているのでピークの時間帯はとても忙しそうだ。
お客さんが来てくれて、お店が繁盛する。それは、とても素晴らしいことだ。飲食店がこんなにたくさんある中で、選ばれるお店をつくるなんて決して誰にでもできることではない。ましてや2日休んでも売り上げが変わらないなんて、きっと経営努力もしているんだろう。通い始めたばかりの私にもそれはちゃんと伝わってくる。
私は、このお店がなくなったらきっと困る。たぶん本当に困る。ようやく見つけた自分にフィットするお店。あの繁盛具合を見ると、そう思っているお客さんは私以外にもきっとたくさんいるはずで、だから、私はマスターの週休2日案に大いに賛成した。
 
ちょうど最近「休む」とか「一度離れる」ということを、ぼんやり考えていた。
 
いきものががりというアーティストが「放牧」という2年の充電、個人活動期間を経て、再始動するというニュースを見た。2年前に聞いたときは、「へー、休むんだ」程度に見ていたけど、「放牧をやりきった」彼らの顔はとてもすがすがしく見えた。特別ファンというわけではないけれども、晴れやかな表情は見ている私の気分も上げてくれた。
そして、少し前、私の勤めている会社もトップがオーストラリア人に代わった。彼も夜遅くまでは働かない。彼が主宰する社内イベントも昼間の時間を中心にして行うように変化した。家族との時間を大事にしているから、夜の時間は家族に充てたい、ということらしい。そういえば、彼はいつもはつらつとしていて、疲れを感じさせない。きちんとプライベートな時間を確保して、充電している。上手に休むことの意味を見たような気がした。
 
会社員の私には、きちんと所定の有給がある。その範囲内で休む分にはお給料が減ることはない。
それでも、以前は私も休むことに抵抗があった。ほかの人が働いているときに自分だけ休むのは何だか悪いような、罪悪感、のようなそんな気分。時代のせいもあったのかもしれないけれど、休みなしに働くことが美徳という空気感は確かにあった。その証拠に、私が社会に出たころは、1週間連続して夏休みを取るという習慣はあまりなかった。残業だって、しているほうが「仕事ができる、やっている」そんな感じもあったと思う。
 
だけど、若いころのように体力が続かなくなってきたり、現に病気をしたりして、体の無理がきかないと感じることが多くなってきた。無理をすると「ちゃんと」病気になってしまうので、働くためには休まないといけないということが徐々にわかってくる。
それと、もう一つ。休まないとアイディアが湧いてこない。勘も働かなくなってくる。アーティストやクリエイティブな職業に限らず、どんな仕事でもクリエイティブな要素は必ずあって、全ての仕事には何かしらの創造性が必要だ。仕事の組み立て方や人間関係、経営などは実はとてもクリエイティブだといえるのに、何かが滞ってアイディアが湧かなくなるのは、働くうえで大きな障壁となる。
 
そうやって総合して考えていくと、ちゃんと働くため、いろいろな流れをよくするためにも「休む」とか「一度離れる」ことはきっと大事なのだ。滞りをスムーズに流すため、リンパマッサージをするように。
 
私は書くことに行き詰まると、iPhoneとお財布だけ持って、近所に散歩に出かけたり、自転車を走らせたりする。何も考えずに歩いたり、走ったりしていると、ふっといい単語やフレーズが浮かんだりする。不思議なことに、PCに向かって長時間考えているよりも、一度思い切ってPCを離れてみると、脳の回路が流れ出して、今までのインプットが急に湧き上がる感覚になる。いろんなことが一気に流れ出す瞬間を味わえる。同時に心や気分もリフレッシュして、かえって短い時間で書けたりする。
 
本来、休むことに罪悪感や怖さは必要ない。最初は休むことに抵抗があっても、一度やってみたらだんだんと慣れていく。怖いと思っても一度その壁を破ると、人はわりとその恐怖を簡単に手放せるものだから。
肩こりを感じたらマッサージにいくように、お休みは、私たちに必要なリンパマッサージ。だから「疲れた」という体のサインが現れたら、いや本当はサインが現れる前に、休むのが正義だ。
 
マスターは今週、Twitterでさりげなく週休2日の宣言をしていた。
どうしよう! マスターがちゃんと休んでもっといいお店になって、これ以上お店が混んでしまったら。
 
「私の座る席がなくなってしまうかも!」
 
そんな思いが一瞬頭をよぎるけど、大好きな場所がそこにずっとあること。
その事実の方が、今の私にはもっとも大切なことだ。

 
 
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2018-11-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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