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英語を話せるように「なりたい」歴は止まるのか? いつだって、何を始めるにも、遅すぎるということはない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:戸田タマス(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「Excuse me. Tsukiji station?」
 
 
観光客の外国人カップルが、駅の案内板を指差して
私に話しかけてきた。
築地まで行きたいと言っているのだろう。
 
「わ、私? えーと~、ジャスト、モーメント」
 
どぎまぎしながら案内板を確認すると、
どうやら築地まで行くには、反対側のホームに行かなければならないようだ。
 
反対側のホームに行くには、一旦改札くぐって、階段を下りて……。
でも、階段って英語でなんて言うの!?
反対側ってなんて言えばいいの!?
 
「あのね、カイサツ、goして、カイダン下りて、ムコウのホーム~」
 
それっぽく言っただけ、ほとんど日本語の説明を、
向こうのホームを指差して、ジェスチャーを交えて話す。
 
「Over there? Thanks」
 
ジェスチャーの方で分かってくれたのだろう、
2人は、笑顔で改札を通って行った。
私は、しばらく冷や汗が止まらなかった。
 
 
 
 
学生の頃からずっと、英語が苦手だった。
 
 
自分でも、なぜ英語だけがこんなに出来ないのか分からない。
暗記できる言い回しや単語などは覚えてしまえばよかったが、
長文解読やリスニングは、てんでダメだった。
 
あまりに苦手すぎて、大学受験でも
センター試験の英語で大コケしてしまい、国公立大学を諦めたほどだった。
 
次第に、
「私は英語が出来ない人間なんだ」と開き直るようになり、ずっと避けてきた。
そんな私が、
英語で道案内など聞かれた日には、もうパニックである。
 
 
 
ところが、
ここ数年、英語に関しての意識が大きく変わり、
いつかは話せるようになりたい、とは思うようになっている。
 
なぜかというと、
数年前に夫婦で訪れたオーストラリアで、ちょっとした体験をしたからだった。
 
 
 
 
 
その日は、グレートバリアリーフ内にクルーザーを一時停泊させ、
シュノーケリングを楽しむツアーに参加していた。
目的地の珊瑚礁の海は穏やかなのだが、たどり着くまでの海がとても荒れており
私はひどい船酔いをしてしまった。
 
旦那に、ちょっと吐いてくると言い残して、
トイレに駆け込み嘔吐を繰り返した。
戻ろうにも歩けなくなって廊下にしゃがみこんでいたら、
 
「キモチワルイ、デスカ?」
 
顔を上げると、アフロヘアーの白人男性と、金髪の白人女性が私を見下ろしていた。
揃いのポロシャツを着ていたので、スタッフなのだろう。
 
涙目で頷く私。
 
すると、
男性は持っていたタッパーから、
一口サイズの氷を数個、紙コップに入れて渡してくれた。
女性は私の手を取って立たせ、外のデッキまで連れ出してくれた。
 
彼らは、気持ち悪がる私のそばに座り、背中をさすってくれたり、
女性が男性のアフロを引っぱり、男性が痛がる真似をしたりして
励ましてくれた。
私は英語が分からず、彼らも日本語はほぼ分からないようで、
その場に言葉はなかったが、私の気持ちはとても落ち着いた。
 
数分後、かなり気分も良くなった頃、
彼らにまだお礼を言ってないことに気づいた。
 
すごく助かった!
本当にありがとう!
優しくしてもらえて嬉しい!
 
伝えたい言葉はたくさん浮かぶのに、
私の英語力では、
この感謝の気持ちを言い表すことができない。
 
結局、
 
「サンキュー、ベリーマッチ」
 
しか言えなかった。
 
 
彼らは、私が元気になったことを確認すると、
笑って手を振り、去っていった。
 
 
 
 
 
彼らは船の仕事の一つとして、私を介抱してくれたのかも知れない。
でも、そうだとしても、
あの時、彼らに介抱してもらわなかったら、
きっと廊下でも嘔吐していただろうし、
とてもシュノーケリングなんて出来なかったと思う。
 
そして、こうも思う。
あの時、もっと私に英語力があったら、
もっと丁寧に感謝の言葉を伝えることができたのに。
 
そのことが、心にずっとひっかかり、忘れられないのだ。
 
 
 
なのに、である。
 
帰国してすぐは、いくつかの英会話教室の体験に参加し、
本気で通うことを考えていた。
しかし、
「料金高いなあ……」「通う時間がないなあ……」など、
考えている間に時間が経ってしまった。
話せるように「なりたい」とは思うものの、
ずっと先延ばしにしているのだ。
 
駅で外国の方に道を聞かれるたび、思い出しはするけれど。
 
我ながら、いつまで英語から逃げ続けるのか? と呆れてしまう。
結局、
英語が話せるように「なりたい」歴だけが
どんどん長くなっている。
 
 
 
 
そして最近、
とうとう事件が起こった。
 
2歳になるかならないかの娘が、
突然、英語の歌を歌いだしたのだ。
 
「エービーチーディーイーエフジ~」
 
と、聞けばなかなかの完成度である。
 
保育園の先生によれば、週に一度の英語の時間で歌っているとのこと。
娘は、英語がかなり気に入ったようで、
毎週とても楽しそうに聞いているらしいのだ。
 
自分のことを棚に上げて、
娘が英語に興味を持ってくれたことが嬉しかった。
 
そして思った。
私も、ずっと逃げてきた英語の勉強を始める
いい機会なのではないか。
調べてみると、親子で通える英会話教室、なるものがあるのだ。
 
 
今回に限っては、娘というライバルもいるし、
本気で続けられそうな気がする。
母のプライドにかけて、やはり2歳児に負ける訳にはいかない。
オーストラリアでの出来事から、かなり時間が経ってしまったうえ、
こんな形で機会が訪れるとは思いもよらなかった。
でも、
いつだって、何を始めるにも、遅すぎるということはない。
 
とうとう、
私の英語を話せるように「なりたい」歴は止まるのか?
 
 
私は、楽しそうにABCの歌を歌う娘を横目に、
英会話教室に電話をかけた。

 
 

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2018-12-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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