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私の歯を救った運命の人


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:よくばりママ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
シャカ! シャカ! シャカ!
穏やかな音楽が流れる一室で響き渡る歯磨きの音
あれが、私の運命の瞬間であった。そう、私の歯の人生の。
 
歯医者が好きな人間は、この世にどれだけの数いるのだろうか。
例にもれず、私も大人になるまでずっと歯医者が苦手であった。
何が嫌かと言えば、まずは無防備に口の中を見られることである。さぞかし間抜けな面白い顔をしているのだろうなと思うだけで、何やら足が遠のく。
そして、あのキーン! と削る音。ゴリゴリゴリ! と削る音もたまらない。先の尖った器具で、虫歯をチェックされたり、虫歯の治療で埋めた歯の詰め物をグイっと取るあの感覚も考えるだけでそわそわする。
 
そんな歯医者に対し苦手意識満載の私だが、こと歯磨きに、ブラッシングに関しては別だったりする。治療ではなく、定期健診で訪れる歯医者は、実は嫌いではないのだ。
 
そのきっかけとなったのは、忘れもしない大学3年生の冬の出来事だ。
 
大学に入学すると同時に、私は一人暮らしを始めた。
親元を離れ、慣れないながらも自由で、気ままな学生らしい生活を過ごしていた。
若さと勢い、そして将来に怖いものが少なかった無鉄砲だった私は、ありがちなことに歯の違和感にも気づかず毎日を謳歌していた。
しかし、気にしないふり、気づかないふりにも限界が来た。
そろそろこれは歯医者に行かないといけないのでは? 観念して、私は近所の歯医者へと足を踏み入れた。
親に連れられてではなく、一人でいく歯医者はもしかすると初めてだったかもしれない。
一般の歯科だけでなく小児歯科も力を入れていたその歯科医院は、こどもの扱いにも慣れているらしく先生もスタッフも物腰がやわらかく、優しい雰囲気を醸し出していた。
 
ここなら痛くないかも。
 
そんな期待とともに、さっそく診察に入る。
まずは、歯の状態のチェック、虫歯と歯ぐきの確認だ。
 
「あー、ここ虫歯ですね」
「うん、ここも虫歯になっていますねえ」
「あとはここも虫歯ですね……」
 
あれ? 先生、今何回虫歯って言いました??
 
「この奥にも虫歯があるなあ……」
「この歯とこの歯の間も虫歯ですね……」
 
先生の口から虫歯という単語が次から次と出てくる。
ひととおり目視を終えた先生は、うがいをどうぞ、と声をかけ、横になっていた椅子の背もたれがゆっくりと起き上がってきた。
私は口をすすぎ、ドキドキしながら先生に向き直った。
 
「虫歯が全部で8本ありました。結構ありましたね!」
先生はさらっと笑顔で告げた。
 
8本?!
虫歯が??
口の中にたくさんの虫歯があるという衝撃の事実に、当時21才の女子大生であった私は穴があったら入りたい気持ちでいっぱいになった。
うう、親に知られたら怒られる……。
恥ずかしさと情けなさで胸がいっぱいになっている私をよそに、先生は「じゃあ、いつものブラッシングを見せてもらえますか?」と続けた。さっと歯科衛生士の若い女性が開封したれての歯ブラシを私に一本手渡してくれた。
 
虫歯だらけの事実は変わらない。けれど、私だってちゃんと毎日歯を磨いているんですよ? とどこか釈明したい気持ちがあったのだと思う。私はいつもと同じくらい、いや、もしかするといつも以上に気合を入れて歯を磨いた。
 
シャカ! シャカ! シャカ!
穏やかな音楽が流れる歯科医院の診察室に、私の歯磨きの音が響き渡った。
それは時間にしたら1分もなかったのかもしれない。
先生は、「はい、結構ですよ」と私の動きを制止した。
 
どうです? そんな気持ちで先生をみると、意外なことに先生は笑っていた。
周りにいた歯科衛生士さんも笑っていた。
「そんなに力いっぱい磨かなくてもいいんですよ。部屋中に聞こえるくらいの力加減だと、むしろ強すぎです。鉛筆をもつように歯ブラシをもって、やさしく、やさしく歯の表面や歯と歯の間をみがきましょうね」
 
そのとき、初めて私は自分のブラッシングが間違っていたことに気づいた。
よくよく考えれば、まともにブラッシングの仕方について学んだり、考えたりはしたことはなかった。
恥ずかしさはあったけれど、目からうろこの思いで、私は先生から正しいブラッシングを教えてもらい、8本の虫歯の治療と並行してブラッシング指導も継続して受けた。
そして、この出会いが、その後の私のブラッシング生活を変えていった。
 
まずは、歯磨きの時間が長くなった。
簡単に表面をなぞるのではなく、ちゃんと歯の汚れをやさしく除去するとともに、歯ぐきのマッサージを行うのだ。もちろん、音が大きく立つことのない力加減で。
歯ブラシのメンテンナンスも重要だ。毎月頭には歯ブラシの毛先の広がりをチェックして、ちゃんとブラッシングをできるコンディションであるかどうかを確認している。自分の口の大きさ、歯並びにあった歯ブラシの選定も大事なポイントだ。
 
こうして、私はあのときの恥ずかしい思い出と引き換えに、快適な歯磨きライフを手に入れたのだ。
 
 
とはいえ、やっぱり、久しぶりにいく歯医者は緊張する。
 
先日、かれこれ6年ぶりに定期健診のため、歯医者を訪れた。
流石にみえない虫歯がたくさんあるのでは……と内心穏やかではなかったが、肉眼では見えない隠れたところに虫歯が1か所あった、という結果にとどまった。
そして、虫歯が少なかった以上に嬉しかったのは先生の一言だった。
「6年ぶりですが、しっかりブラッシングできていますね。歯は綺麗ですよ」
 
21才のときの出会った先生の教えが、今でも私の歯を守ってくれている。

 
 
***

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2018-12-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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