メディアグランプリ

本には食べ物と同じで旬がある、らしい

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:あおい とり(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
大学生の時「本には読み時がある」とゼミの先生が言った。
 
読み時って何?
出版されたらすぐ読めってこと?
 
心に引っかかったけれど、バカな学生だった私は、その言葉を頭の中にメモするだけで、大事にしまっておくことにしたのです。
 
先生は学生時代から年間300冊は読む読書家。漫画から論文集まで、幅広い範囲を読み漁っていました。一つ聞くと、2、3は本を引用した例が出てくる「人間インターネット」のような人です。でも、私を含め7人のゼミ生はあんまり本を読まない学生の集まりでした。
 
刑事法のゼミで、本をベースにゼミを進めていました。先生もこれくらいならお前たちも知っているだろう、とゴルゴ13などを例に使ってくれるのですが、漫画以外は読んだことのない本がありすぎて、度々話は行き詰まってしまう。
 
すると、先生がトントンとコーヒーの缶を触り始めます。
最初は緩やかに、でもイライラがたまるとだんだんと早くなり、私たちゼミ生の心拍数も速まります。いつ先生の堪忍袋の尾が切れるか……怒るとめちゃくちゃ先生は怖かったのです。
 
あまりの読書量の少なさに「お前たちとは共通言語が少なすぎる」と先生も呆れていました。おかげで最初の夏休みの宿題は「何でもいいから読書10冊」。これ、小学生じゃなくて、大学生の宿題です。
 
そんな状態で、本を読むということすらハードルが高かった学生時代の私はとりあえずゼミの単位を取得するために、必死に本を読むようになりました。
 
本を読むのが苦手な私たちがやったのが「とりあえず買ってみる」。
 
読もうとした時に手元にないと読めない! だからとりあえず興味のある本を買っておく。話題の本もとりあえず買っておく。おかげで、表紙やタイトルが気になった「ジャケ買い本」や、数ページ開いただけで読まずに積み上げられる「積ん読本」の山が部屋に築かれました。
 
本の山の数が増えた時「この読みたくなった時」っていうのが「読み時」なのかも。そんな風に思ったりもしていました。
 
しかし、「読み時」を知るのはこのずっとあと。
社会人になってからでした。
 
久しぶりに読む小説に、なぜか心がザワザワするのです。時に、読みながら大泣きしたり、大笑いしたり、登場人物に怒りを感じたり。だけど、面白かったからその半年後にまた読んでみると、また元に戻っていて……、それを繰り返していると「旬の食べ物」に出会う感覚に似ていることに気づきました。
 
旬の時期、同じ物を食べ続けていると日に日にその味が変化します。例えばイチゴ。出始めは酸っぱくて、味はちょっと固め。日にちが経つとだんだん甘くなっていきます。でも、それをすぎると実が熟れすぎて食感が失われたり、身をつけても酸っぱいままになってしまうのです。「旬」に出会えたとき、その美味しさにものすごい衝撃を受けるのです。
 
おそらく、初めて読む本でも「旬」であればこの素敵な読書体験は味わえるはずなんです。
 
どうしたら、この「読み時」に出会えるのか?
 
とりあえず、読みたい時に読める状況を作っておきます。私は推理小説が好きなのですが、好きなジャンルだからといって必ずしも「読み時」を迎えられる訳ではないようです。ただ、たとえ犯人やトリックを知っていようと「読み時」であればいつもと違う世界観が味分える。
 
最近では、1年以上「積ん読本」に入れられていて、なんならいつでも読めるようにカバンの中によく入っていたのにも関わらず、なかなか読み進められなかったノンフィクションの「殺人犯はそこにいる」が読み時だったらしく、読んで、警察やら裁判所にイラっとして周りに熱く語るほどのめり込んでいました。でも、数ヶ月たったら、それも過ぎ去った。
 
色々試してみたのですが、おそらくこの本の「読み時」を迎える要因には「自分の置かれている環境」が大きく関係しているのではないかと思うのです。そんなの日々変化するから、先生みたいに年間300冊読まないと、めったに味わえないじゃないか……。でも、仕事だって忙しいし、そんなに読んでいられない! 一時期この「読み時」というキーワードを私の中に植え付けた先生をちょっと恨んだりしました。
 
それでも「読み時」の感動や衝撃を味わうため、忙しい毎日で1日1ページでも読むようになった私。仕事でどんなに打ちのめされていても、辛いと思っていても、本の中にポツリ、ポツリと力をくれる言葉が浮かび上がることが多くなりました。でも、相変わらす次に読んだ時には、なんでこの言葉に感動したんだろうとか思うことも多々ある。
 
どうやら、その「気になる言葉」は自分のことを知るヒントのようです。確かに、推理小説で感情移入するのはどこか自分と同じように、恋をしていたり、仕事に悩んでいたりする立場の人物が多かったし、「殺人犯はそこにいる」の時はちょうど法律関係を調べていてモヤモヤしている時期だったり。
 
本を読むことで、登場人物と自分を重ねて喜んだり、悲しんだり疑似体験して現実では乗り越えてなくても、乗り越えた快感とか補っていたんです。それで、なんか元気になる。美味しいもの食べた時に嬉しくなるような感じ。本で、心の栄養を補給しているようです。
 
正直、まだ本を読むのは苦手。それは大学の時から残念ながら変わっていません。でも、前より前向きに読書をすることができるようになりました。そして、転職活動中の今、どうも「転生物」と言われる小説がとても気になっています。
 
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2019-01-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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