『ことば』はエアコンの風みたい
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:植田ゆみ(ライティング・ゼミ平日コース)
あなたは誰かと会話をするときに、どんな思いでしゃべっていますか?
「相手に良い印象を与えたい?」
「怒っていたり笑っていたり、その時の感情で違う?」
「その場のノリで話しているから、考えたこともない?」
その答えは色々だと思います。私もある出来事を体験するまで、深く考えたことはまったくありませんでした。それが変わったのは20年以上前、夏の日の出来事がきっかけでした。
私は15歳の時に母を亡くしました。8歳の時に両親は離婚しており、母は大阪府に一人で住んでいました。私は父と共に鳥取県に住んでいました。兄弟はおらず、ひとりっ子です。夏休みや冬休みなど長期の休みのたびに、母のところへ会いに行っていました。そして毎回、2週間ほど滞在していました。
母は優しい人でした。ですが身体も心も弱く、お酒に逃げてしまう人でもありました。ですから会えないときも定期的に電話をして、母の悩みやグチを聞いていました。そして私も、母に負担をかけない軽い悩みを相談していました。
その母が私との電話の最中に意識を無くし、そのまま帰らぬ人になりました。
当時の私は母が亡くなったことが信じ切れず、ショックで泣くこともできませんでした。
連絡を受けてすぐに、父と共に母の側に向かいました。命の消えた母と対面しましたが、真っ白な顔を見ても実感がわきませんでした。
母親が死んでも涙を流さない、そんな私の姿が冷たく見えたのでしょう。お葬式の最中に一人で座っているとき、ある男性に言われました。
「冷たい子だな。お前の母親もそう言っていたぞ」
その男性の言葉を否定できませんでした。
母が本当に「冷たい子」と言っていたかは、亡くなった後なのでわかりません。
実は、離婚してすぐは母といっしょに暮らしていました。ですが母はアルコール中毒で入退院を繰り返し、毎日のご飯も食べられないほどに生活が苦しくなりました。見かねた近所の人たちが父に連絡して、私は鳥取県で暮らすことになりました。
そんな事情を「冷たい子」と言った男性は知りません。その男性から見れば、心も身体も不安定な母親を捨てて逃げた子供だったのでしょう。とても否定なんて、できませんでした。
仕方ないと、ただその言葉を受け入れました。母を亡くしたショックで感情が動いていなかったのに、身体が寒さで震えました。
そんな硬直していた私を、救ってくれた人たちがいました。
小さいころから可愛がってくれていた、近所の人たちです。苦しい生活の時も、ずっと母や私を助けてくれていた人たちです。今でも頭は上がりません。
当時は気づいていませんでしたが、きっと「冷たい子」という発言が聞こえていたのでしょうね。必ず誰かがずっと側にいてくれました。
「気を落としなや」
「元気出しや」
「冷たいジュースでも飲むか?」
皆さん、こちら事情は一言も聞きませんでした。ただお葬式が終わるまで、ずっと温かい言葉をかけてくれました。こわばった身体の力が抜けたのを、今でも覚えています。
この日を忘れることは一生ないでしょう。
『ことば』ってね、とても大きな力を持っています。人の心を温かくすることも、人の心を凍えさせることもできちゃいます。
それはまるでエアコンの風のようです。
あなたはこんな経験はありませんか?
例えば寒い日に……
間違って冷房のスイッチを入れてしまって、冷たい風で身体が芯から凍えるような冷たさになったこと
いつも通り暖房のスイッチを入れて、冷えた体が温まってポカポカしたこと
例えば暑い日に……
間違って暖房のスイッチを入れてしまって、熱い風にぐったりしたこと
いつも通り冷房のスイッチを入れて、熱くなった体がスッーとしたこと
母のお葬式での体験をしてから、私はしゃべる『ことば』に気をつけています。会話する相手の心がホッと温まるような、ふわっと軽くなるような『ことば』を伝えようと心がけています。
これがとても、とても難しいです。
相手の心にうまく共感できず、失敗をたくさんしました。より落ち込ませたり、激怒させたり反省だらけです。たまに思い出して冷や汗が出るような、大失敗をしたこともあります。まだまだ優秀なエアコンには、ほど遠いようです。
せめて相手を気づかう気持ちだけは忘れずにいよう、それだけは決めています。
その場にいる皆さんの心を
そして周りの環境を間違えることなく的確につかみ
その場の空気を快適に、より楽しいものにする
ついでに健康の手助けまでしてくれる
最新のエアコンのような人になれたらいいなと、日々考えています。
あなたはどんな気持ちで『ことば』を話していますか?
*** この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。 http://tenro-in.com/zemi/66768
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