友人と繋がっていないSNSアカウントを作ってみた
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記事:西元 はる香(ライティング・ゼミ土曜コース)
SNSは、べたべたと厚塗りをした化粧のようだと思っていた。
私がSNSを始めたのは2006年、大学生の頃だった。最初は何気ない日常の話を日記のように書き綴っていて、反応が来るのが嬉しくてSNSにのめり込んでいった。高校時代は大分の田舎町に住んでいたのだが、卒業と同時にみんなバラバラな街へとちらばってしまった。SNSにログインすると、遠くにいる友人たちと会っているような気がして楽しかった。故郷がすぐそこにある、そんな感覚だ。
しかし、そんな楽しいSNSを純粋に楽しめない時期がやってくる。
きっかけは、出産だった。
社会人2年目で結婚し、翌年には出産のため退職した。25歳。同級生たちがこれから仕事で活躍していく時期に、家庭に入ることになったのだ。慣れない育児は悩みの連続であり、何より孤独との戦いだった。一日中息子と二人きり、出かけるのは近所のスーパーかショッピングモールがいいところ。ほしいものも買えず、行きたいところにも行けない。好きだったアイドルのコンサートに行くこともなくなり、趣味だった漫画を読む時間も消えていった。
そんな時期のことだ。布団に降ろすと起きてしまう息子を、ソファの上で抱っこしていた。その間だけは暇になるので、何気なく携帯電話を開いた。すると、同級生や同期のみんなの楽しそうな写真がたくさん並んでいた。
飲み会の写真、おしゃれなカフェでお茶をしている写真、それから海外旅行の写真。旅行会社に勤めていたこともあり、独身時代は旅行が趣味だった。ところが今はどうだろう。旅行どころか、スーパーに向かうだけで大戦争なのだ。
なんだかモヤモヤしてきて、今度は主婦の友達のSNSを覗いた。すると今度は、綺麗に彩られた料理やお菓子たちの写真、そして「よく寝てくれて育てやすい」などの文面が目に入った。一方の我が子は抱けばのけぞり、おもちゃで遊ぶとかんしゃくを起こして泣いてしまう。夕飯を作ることが出来ない日もあった。私には友人たちの投稿が、自慢に見えて仕方がなかった。
私はそんな気持ちを化粧で隠すかのように、背伸びした写真をSNSに投稿した。
そんなある日、転機が起きた。昔ハマっていた漫画が完結し、それを読み返したのだ。たったそれだけのことで、私のSNS生活は大きく変わることとなる。
元々漫画オタクだった私は一気にのめり込み、グッズを買ったり原画展を見に行ったりとオタク活動にいそしんだ。それだけでは物足りずに、SNSで好きな漫画のタイトルやキャラクター名を検索してみた。するとそこは、自分と同じ趣味の人で溢れていたのだ。どうやら私が思っていたよりも、SNSの世界は広いらしい。
私は同じ趣味の人と交流してみたい気持ちに駆られ、専用のアカウントを作ることにした。友人たちには漫画オタクであることを隠していたからだ。「おすすめユーザーの表示」や「繋がりたいタグ」といった便利なもののおかげで、次々と趣味のフォロワーが増えた。そのほとんどが友人や家族にオタクを隠している隠れオタク女子で、中には同じ主婦の人もいた。みんな私と同じで、リアルな友人に伝えていないアカウントなのだという。
現実世界の友人と繋がっていないアカウントでは、何でもつぶやきやすい傾向にあるようで、話題が豊富だった。タイムラインに流れてくるフォロワーや知らない人の日常は、現実よりもリアルだ。言い換えれば、リアルよりもリアルだ。何ともおかしな話である。タイムラインを流れる日常たちは、「仕事を辞めたい」だとか「育児がつらい」、「二次元の押しキャラが好きすぎて何も手につかない」、「私の描いた絵を見てくれ」など様々だった。愚痴もあれば、楽しい話題もある。色々な考えをした、色々な立場の人がいた。私はそれに共感することもあれば、全く理解出来ないこともあった。そして、思ったのだ。
なるほど、人間ってみんな違うんだよなぁ。違って当たり前なんだ。そんでもって、みんな何かを抱えて生きてるんだ。それでいいんだ。きっと友人たちも、色んなものを抱えている。
そのとき、胸の奥のつかえがすっと取れた気がした。それから私は、友人と繋がっているSNSアカウントを開いた。そう考えたら、モヤがかかって見えた友人たちの投稿が、きらきらと輝いている気がしてきた。そしてそっと、漫画の原画展に行ったことを投稿したのだった。
以前の私は、人の投稿を見ては自分がダメな人間のような気がして、見栄を張っていた。おしゃれぶってみたり、料理が得意そうなふりをしてみたり、厚塗り化粧をするように自分を飾っていた。でも、違ったのだ。
どちらかというと、SNSは自分の個性を活かしたメイクだと思う。好きなことも苦手なことも、ぜんぶ集まってこその自分だ。ものでも人でも、自分が好きと思えることを好きだと言えればそれでいいと今は思える。
自分が自分らしく輝くために、今日も私はSNSでメイクアップをする。
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