最強の記憶術はスポ根だった
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:和田恭子(ライティング・ゼミ日曜コース)
「最近ほんと覚えていられなくなっちゃった」
長い付き合いの友人たちと会うと、記憶力の話題になることが増えてきた。
よく「スポンジのように吸収する」なんて言い方があるが、二十代までは、まさにそんな感じだった。好きなアーティストの新曲を聞けば一度か二度で歌詞もメロディーも覚えていたし、旅行の思い出や、観た映画の感想など、メモも写真も、すべて頭の中にあることを引っ張り出す手がかり程度のものだった。
今は「覚えよう」と思っていたって抜け落ちていくことばかりで、楽しかったことを共有したくても「あれ観た? ほらあの、なんだっけ」なんてなることが多い。あんなに楽しかった旅行も写真を見ないと細かいところが思い出せなかったり、見ながら泣いたシーンを忘れてしまって、他の人の感想を読んで「ああそうだった!」とようやく思い出したりといったことが増えてきて、悲しくなってしまう。
先日など、電話を受けて相手の会社名と名前を聞き、「お世話になっております」と口にしつつボールペンを探している間に名前を忘れた。取り次ぐ相手に「〇〇会社の……男性からです」なんて告げなければいけない時の情けなさときたら! 大きなミスをした時よりショックだった。
それは、幼い頃に「大丈夫かなあ」と心配しながら見ていた、祖父母の言動そのものだ。
まだまだ年齢的には追いついていないのに、当時、還暦を過ぎていたはずの彼らと同じ行動を取っている私こそ、大丈夫なのだろうか。
近年、わりと真剣に「物忘れ外来に行こうか、若年性アルツハイマーではないか」などと思うことが増えていた。
昨年、イベントに一緒に参加しようとしていた友人が、インフルエンザで行けなくなってしまった。
欠席することになった友人は、私よりよほど熱心なファンで、参加できないと分かった時は本当に残念がっていた。
イベントは、終了後にBlu-rayが発売されるとか雑誌にレポートが掲載されるといったことが絶対に望めないレベルの小さなもので、参加者も三十から五十人程度しかいないため、ファン同士のレポートもほとんど期待できない。
私は、せめてもの土産として、できるだけ詳細にイベントの内容を伝えようと決意してイベントに臨んだ。
イベント中、私自身が楽しんでいなかったわけではない。別にメモを取ったり、「覚えておかねば!」と必死になったわけでもない。
それでも、イベント終了後、ぼろぼろと零れ落ちて消えていく記憶を必死に思い出しつつ書きなぐったレポートは、一万四千字にも及んだ。
写真もなく、イラストを描けるわけでもない私が、どう表現したら見ていない人に伝えられるのだろうと頭を掻きむしった当日の会場の様子や出演者の表情。
この場で直接耳にしていたら友人がどれだけ喜んだだろうとじれったく思った抱腹絶倒のエピソードや、それを語る声の調子。
最初は忘れていたことも、書いていくうちに「そういえば、こんなこともあった、あんなことも言っていた、このコーナーはあの前だった」などと思い出して、どんどん膨れ上がっていった。
書き終わった文章は、熱意ばかりが空回りしていて、おせじにも読みやすいとはとても言えなかっただろうが、友人は「目に浮かぶ!」と喜んでくれた。
あの時の達成感は、ちょっと忘れがたい。
該当のイベントは、その後に見たり聞いたりした様々なものを忘れても、今でも強烈に頭に残っている。
他となにが違うのだろうと考えたが、「最初から記録に残そうという心構えでその場にいた」ことと、「頭を使って文章に残した」ことではないかと思う。
学生時代、「単語は何度も書いて覚えろ」としょっちゅう言われたものだ。また、同じものでも「写真を撮ったからいいや」と思っていると自分の目だけでしっかり見た人よりも忘れやすい、なんて話も聞いたことがある。根拠は知らないが、やはり「誰かに聞けばいい」「後で写真を見ればいい」という気持ちなのと、「私が覚えておかねば!」という気持ちでは、残り方が違うと実体験からも感じる。
また、ああでもない、こうでもないと表現に悩んだことで、その時の場面を何度も何度も頭の中で繰り返すことになったので、一度見ただけ、聞いただけの時よりも記憶が定着したのだろう。
映画の感想を友達と話し合っても同じように覚えていることが多いので、アウトプットをすることが重要なのかもしれない。
日常のすべてのことに対して「忘れるもんか!」と身構えたり、何度も書いておくのは、さすがに疲れてしまうので実践は難しい。
けれど、ここぞ、という時に使える切り札があるのは有り難い。
それが「気合と手を動かすこと」という、なんともアナログな方法なのは私だからかもしれないが、今後も、忘れたくないことを自分の言葉で記録していく、ということを続けたいと思っている。
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