クレーム対応の秘訣は友達だと思うこと
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:岡筋耕平(ライティング・ゼミ特講)
「これどういうこと!!」
今日もお客様の不満が電話越しで爆発する。僕はコールセンターで働いていた。二次受けと言われる部署に所属していたので、一次受け担当から炎上して手のつけられない案件が上がってくる。もちろん一次受けが上げてきた案件は引き受けなければならない。
「申し訳ございません」
「すみません」
1日何回その言葉を発しただろうか。仕事だから仕方ないとも思いつつも、自分が火を付けたわけではないお客に罵詈雑言を浴びせられるのは流石にキツい。その部署に配属されてすぐの頃は、いつもストレスで頭がおかしくなりそうだった。
お客さんが感情的に訴えてきているケースで一番やってはいけないことは自分も感情的なってしまことだ。しかし中には個人攻撃とも受け止められる言葉を発する人もいるので流石に頭に血がのぼる事もよくあった。つい、カッとなってしまって言葉を返してしまった後ハッと気がつく。そんな押し問答みたいになってしまった案件はもちろん解決せずに持ち案件かする。挙句の果てには上司対応にまで発展することもあった。
僕の職場ではすぐにサーベイと呼ばれるお客様満足度アンケートが電話後に届く。さっきの対応が良かったか悪かったかは、すぐに返ってくるわけだ。アンケートは5段階評価で5が最もよく1が最も悪い。アンケートは3以下は全て低評価という厳しい基準だった。給料にも響く。だからクレーム対応は細心の注意を要する。
一次対応から上がってきた時点でお客様の不満度は上がっており、言えばマイナススタート。初めからハンデを背負っていることになるのだ。そこをなんとか納得させて、かつ満足評価にまで持っていかなくてはならない。
最初の頃は全くダメだった。怒り狂ったお客様をどう対応していいのか分からない。コールセンターという性質上、顔が見えないから人は好き勝手に言う。一応受付マニュアルらしきものはあるにはあったのだが、対応はほとんど個人スキルに委ねられていた。
5時間近く罵詈雑言を浴びせられ、上司対応にまで発展してしまい、情けない話だが涙したこともあった。コールセンターでは泣いている人は珍しくない。むしろ職場で泣ける人の方が向いているのかもしれないと思うことさえあった。結局上司対応になって、最後は直接謝罪を求められてその案件は終了した。最後まで屈辱的な言葉を浴びせられ、敗北感と一緒に終話することになった。
「どうにかしなければならない」
そんな危機感や燥感がふしふしと湧いてくる。クレームの対応ができないとこの部署で生き残ってはいけない。僕は戦略を練ることにした。
まずは感情的になっているお客様には徹底的に傾聴の姿勢を崩さない。タイミングよく相槌を入れる。絶対にお客様の言っていることを否定しないなど。心の持ちようを変えることにした。徹底して傾聴することで、一体相手が何に不満を持っているのかどうして欲しいのかを汲み取る。実際にその不満が解決できないことでも納得してもらえる話術を準備しておく。解決できなくてもな何とかしようとする姿勢は見せる。など。
その意識を持って取り組むことでだんだんとクレーム対応にも慣れてきた。しかも炎上しているクレーム案件でも高い満足度のアンケートが帰ってくるようになったのだ!
アンケートの中にはコメント入りで「また何かあったら〇〇さんにお願いします。今回は本当にありがとうございました」のような仕事冥利に尽きるようなものまであった。
最初は低かった上司の評価もうなぎ登りに上がっていった。
何が変わったのか?
それは電話に出る前の意識の持ちようである。人は初対面の第一印象で9割方の印象を決めてしまうという。それは電話対応でも同じだ。怒っている、どうしよう……。だとか、怒られる、嫌だなといった気持ちで電話口に出るとそれが相手に伝わってしまうのだ。そして第一印象を後々覆すのは至難の技である。
どんなお客様にもまるで友人や家族の悩み事や不満を聞くようなスタンスで取り組むのがコツである。親切に対応してくる人に人は中々悪意を向けられないものだ。当初あった悪意は別の矛先に行くことになる。ここが大事で怒りの矛先さえ変えてしまえば、あとは要望や不満を聞くだけだ。人は自分の話を聞いてくれる人に行為を持つ。それがクレーム対応の秘訣だった。
クレーム対応が苦手な僕も数をこなしていくことで、お客様を社内の信頼を勝ち取ることができた。その1番の理由は、
「お客様は友達なんだ」
と思うことができたからだろう。
クレーム対応のテクニックは生活の至る所で応用できる。クレーム対応の仕事を経験したことで人が怒るにはそれなりの背景があり、それをわかってもらえないもどかしさからクレームに発展することがわかった。
ささくれた人の気持ちを収めるには、少しの優しさで十分なのだ。
世の中の争いも、ほんの少しの他人の優しさと思いやりで、少なくなるのかもしれない。
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