本、文字、音楽。ぼくは本当に好きなのか?
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記事:北 堅太(ライティング・ゼミGW特講)
ぼくは音楽が好きだ。ぼくは本が好きだ。
表向き、そういうことになっている。自己紹介の時に挙げる趣味は、音楽鑑賞と読書だ。とんでもなく詳しいわけではないものの、ある程度の知識もあるから、友だちはみんな、ぼくのことを音楽好き、本好きと認識している。
ところが数年前から、ぼくはぼくの音楽好きに自信がなくなった。本好きに自信がなくなった。いや、好きなことには好きなのだ。好きなのだが、本気で好きといえるか。本心から好きだといえるか。微妙である。
きっかけは就職活動。ぼくは昔から本が好きだからという理由で、最初、出版業界を志望した。出版志望の学生は今でも数が多い。しかし、採用枠は極端に少ない。試験もめちゃくちゃ変わっている。だから対策が必要だ。それも、かなり特殊な対策だ。先輩内定者の体験談を聞いて参考にしようと、出版志望の学生が集まるイベントに参加したのが3年生の秋。
そこで出会ったのは、本が大大大好きな同級生たち。それぞれ熱を込めて、作品や作者への愛を語る。誰々の新しいマンガを、どこどこの雑誌に載せたい。誰々のあの作品のあの箇所に救われた。誰々の作品は、ここがこうで、あそこがああだから、とても可能性を感じている。などなど。それはもう語る語る。
そう、彼らは特定のコンテンツを愛しているのだ。彼らの熱弁は止まらない。イベント後の懇親会でも、話は尽きない。一度語り出したら止まらない。ひるがえってぼくは、なにか特定のコンテンツについて語り続けられるほどの熱量がない。
子どものころ、母が絵本を読んでくれた。父の棚には本が並んでいた。祖母はよく本をくれた。それでぼくは、本を読む子に育った。小学校中学年の時には、大げさでなく、1日1冊は読んでいた。中学高校大学と自由に使えるお金が増えるたび、ぼくは本をどんどんと買っていった。部屋の本棚には、たくさんの本が並ぶようになった。
音楽も同じ。これは父の影響だ。父の部屋には大量のCDがある。ぼくの部屋には今では大量のレコードがある。たくさん聞いたし、たくさん買った。今でもその営為は続いている。
あの時。あの就活イベントの時。ぼくはふと考えた。本当にぼくは本が好きなのだろうか。目の前で熱い思いを語る同級生より、たくさんの本を読んできたかもしれないが、ひとつひとつに対しての熱意が、ぼくにはないんじゃないか。たくさん読んだぶん、個に対しての愛情がないんじゃいないか。棚に並べるのが目的になってしまって、作品の熟読と理解ができてないんじゃないか。本というメディアが好きなだけで、それぞれの内容には興味がないんじゃないか。本に対するリスペクトが足らないんじゃないか。音楽についても、同じ感慨をいだいた。
それで、ぼくには自信がなくなった。出版や音楽関連の業界を志望するのをやめた。だってかないっこない。ぼくには語るすべがない。特定の作品ファンではない。ぼくがやってきたことといえば、部屋に本やレコードを増やしたことだけ。
なかばヤケクソになって、ベンチャーやらIT業界やらを受けた。これまでまったく考えてこなかった業界だった。それまでの生活は、アナログ極まりなかった。本とレコードにおぼれる毎日。パソコンのことは詳しくない。それでもいくつか内定を得た。それで承諾した。ぼくは未知の領域に足を踏み入れた。
そこでわかったことが、ひとつだけある。ぼくはやっぱり本や音楽が好きだ。文字が好きだ。デジタルが好きかどうかはまだわからないけれど、少なくとも本と音楽は好きだ。文字が好きだ。好きだ。好きだ。好きでたまらない。一個一個に対しての熱量は高くないかもしれないけれど、本や音楽は大好きだ。離れてはじめてわかる。今ならわかる。ぼくはやっぱり好きだったのだ。自信をなくしてしまっていただけだ。
そのことに気づいた後、ぼくはまず、しがないライターをはじめた。大仕事はしていないが、生意気ながらライターを名乗っている。だって好きだし、ものを書くのは絶対に辞めない自信があるから。小学校の卒業文集に書いた夢、長らく忘れていたが、小説家。ぼくはやっぱり文字の世界が好きなのだ。いずれ、本の世界に帰還する。だって本が好きだから。絶対に文字のまわりで働いてやる。
今、デジタルの世界にちょっと足を踏み入れたことで、ぼくはアナログの世界を客観的に見れるようになった。しかももともと、特定の作品に肩入れしない、コレクター気質の客観的なファンだった。このぼくだからこそできる、本や文字、音楽への貢献があるんじゃないかと思っている。期待なんて望まないけれど、ぼくのこれからを見守っていてほしい。
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