アスパラとライティングゼミと私
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:吉田陽子(ライティング・ゼミ日曜コース)
「うるさいなぁ、もう。おせっかい」
久々の感覚だった。
毎年この季節になると、北海道の実家の母からアスパラが贈られてくる。とはいえ、自分の家で採れたというわけでも何でもなく、生協の『季節のギフト』のようなものに申し込んでくれているので、贈った側も、いつ送られるのか正確な日時はわからない。
「宅配の方から、何度も配達に行っているけど荷物を受け取ってもらえないと連絡がきたの。申し訳ないけど、宅配の方に連絡してもらえるかな?」
久しぶりの母からのLINEはそんな内容だった。
ちょうど、そのLINEが来る直前に宅配の方からの着信が残っており、再配達のお願いをしたところだった。
月曜日、一人暮らしの家に帰るとポストに届いていた不在届。再配達依頼をしなくちゃ。電車の中でやろう。と思いつつ、ついついSNSを見ては後回し。それを5日も繰り返した金曜日の出来事だった。
さすがにそろそろやばいかな、と思っていたところに案の定の連絡。
おまけに、宅配の方からだけではなく母からも連絡が来てしまった事で私は苛立ちを感じていた。言われなくてもちゃんとやったのに。そんなに大げさにする事ないのに、と。
「今電話したところ」
そっけなく返す私に、すぐに返信がきた。
「忙しいのにお手数かけちゃって、ごめんね。」
……何で謝らせてしまってるんだろう。母は何も悪くない。北海道の美味しいものを、東京で一人で働く娘に食べてもらおうと、毎年欠かさずに贈り続けてくれる。どうしてこんな態度を取ってしまうんだろう。悪いのは私なのに。なんだか急に悲しくなって、情けなくなって涙が出た。
こんな思いをするのは初めてではなかった。
母が、良かれと思ってかいがいしくやってくれるあれやこれやに、いつも応えられないのだ。
なんなら少し鬱陶しくさえ感じてしまう。別に農家じゃないのに、北海道ってだけでアスパラ。単純。なんて、本当にかわいくない最低な事を心に思う。
でもその度に、悲しい気持ちになって落ち込んで、涙が出るのだ。
それなのに、思考はいつもそこで停止してしまっていた。仕事が忙しかったからな、とか、タイミングが悪かったな、なんて理由をつけては、その先を深堀りする事をさぼっていた。
けれど、最近の私はほんの少しだけ変わった。このライティングゼミを受けて、日々の生活の中で心が反応した事を留めておこうと思うようになった。何を書いたらよいかわからず題材を模索する中で、日常の中でも心が反応する事象が少なからずある事に気づいた。その度に、立ち止まって少し考えるようになった。何が引っ掛かったのか、どうしてそう思うのか。
本当は、贈り物をしてくれるその気持ちと、私に費やしてくれる労力と時間に対して、心の底から喜んでありがとうと言いたいのだ。
一人暮らしを始めたばかりの大学生の頃は、実家や地元の友達から送られてくる手紙や贈り物が嬉しくて仕方がなかった。可愛い便箋を探してはすぐに返事を書いたし、不在届が入っていようものなら、1日も早く受け取れるように努力をした。受け取れる日が待ち遠しくてたまらなかった。
その頃はお金もなかったので、生活に最低限必要な物しかなかったし、買えなかった。飲み会だって月に1度しか行けないので、行く時は思い切り楽しんだ。一緒に居たい人、自分にとっての大切な人は誰なのかもはっきりとしっかりと見えていた。
今は、どうだろう。とにかく余計なものが多くなってしまったと思った。
それなりに不自由のない生活が送れるようになるにつれ、何が大切なのか、わからなくなってしまったように思う。
欲しいと思ったものはたいていすぐに買えてしまうし、飲みたい時には誰かが付き合ってくれる。誰かといるのが面倒くさい日は一人でぶらっと飲みに行く事だって出来てしまう。
大切な事は何か。なんて考える必要もきっかけもない生活を送ってしまっているものだから、ふいに届く母からの、私への愛しかこもっていない贈り物に突然心を揺さぶられて、うまく反応ができなくなってしまうのではないかな、と思った。
親も66歳になり、いつまでも甘えていられる歳でもなくなった。
ちょうど母の誕生日も近い。じっくり母の事を想い、感謝を伝える日にしたいと思っている。
今気付けて本当にラッキーだった。
今週は、本当に自分に大切なものは何か、じっくり見つめ直してみたいと思う。
そんなきっかけをくれたアスパラとこのライティングゼミに、心から感謝している。
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