「本当の姿」がなくなる国
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記事:安居潤(ライティング・ゼミ 日曜コース)
「本当の姿」がなくなる国が中南米にある。
僕がキューバと聞いてイメージするものは、野球しかなかった。
根っからの高校球児とは程遠い学生生活を送った僕の関心を引くには、キューバの手持ちのカードは残念ながら少なかった。
しかし、ひょんなことから、大学卒業を控えた2017年の年越しをその国で過ごすことになった。
「キューバの本当の姿がなくなってくんすよ!」
と後輩に熱弁されたのが、2017年の夏。「そうなのか」、とやけに冷めてその話を聞いていた。キューバの本当の姿がなくなったとしても、僕の東京での生活には何も影響はない。高円寺の居酒屋で安酒を飲んでいても、山手線に乗っていても、残念ながら僕の生活にキューバを感じる瞬間は、なかった。気づいてないだけかもしれないが、気づかせるほどの存在感はキューバには、なかった。まるで彼みたいに熱くなれない。おそらく彼は、野球部出身で、その色眼鏡をかけているから、あそこまでキューバに熱くなれるのだろうと思った。
でも、本当の姿がなくなるってどういうことだろうか。気になって調べてみる。すると、「アメリカとキューバの国交が回復する」とのニュースが2015年あたりに出てきた。「キューバ危機」という用語が、世界史一問一答にあったことを思い出したが、なんのことやら思い出せない。単語だけを答えられて満足をしていた時代を恨む。
ザクッとした概要で許してほしい。キューバとアメリカは1959年までは仲が良かった。アメリカ人の富裕層の別荘もたくさんあるくらいだった。しかし、その年にできた革命政権が、国を牛耳っていたアメリカ人を追放。そして、アメリカと国交断絶。ソ連の支援を受け、社会主義としての性格を強めていく。といった歴史があったようだ。
つまり僕が見たニュースは、約50年を経てその国交が回復するかもしれない、というニュースだった。これが「キューバの本当の姿がなくなる」ということを意味しているようだった。
じゃあ、それは具体的にはどういうことなのか。キューバは、1959年を境に、アメリカのものが入ってきていない。逆に言うと、1959年まではアメリカのものが入ってきていた。そのため、その年以降キューバは世界の発展から取り残されている、という実にアメリカ中心な世界の見方もされているようだ。街には50年代のクラシックカーが走り、スタバやマックなどのアメリカ資本のお店が全くない。それが、この国交回復により、変わっていく可能性があるということだ。
あれ、面白い。面白いと思いませんか?
国が徐々に異物だったものを取り入れて、変わっていく姿。日本のように文化が醸成されきっていては、そんな融合はなかなか見られない。それを体感できるなんて、チャンスでしかない。あれだけ、キューバの姿が変わることに無関心だったのに。自分が生まれる前の世界を見られるのかもしれない。そして、それは今後見られなくなるのかもしれない。
気になってきませんか、こんな国?
居酒屋でも電車でも感じることのなかったキューバが、日に日に頭の中を占めるようになった。そして、僕は年末年始にキューバに行くことにした。
現地で見るもの全てが、たしかに、「キューバの本当の姿」だった。クラシックカーは街を走り、スタバやマックをはじめとした、チェーン店は街にない。そこで見たものは、間違いなく、ネットや本に書かれていた、「キューバの本当の姿」だった。求めていた姿だった。
それでも、「キューバの本当の姿が見られなくなる」、という焦燥感にも似た、当初の僕を突き動かした感情は、日に日に消えていった。
クラシックカーが走る街並みは綺麗だ。大衆向けチェーン店のない街も、僕たちからしたら非日常でいい。でもキューバ国民にとって、国が変わっていくことは、とってもおおごとなんじゃないかと思う。
もしかしたら、実際には、低燃費で排気ガスの少ないエコカーに興味があるかもしれない。もしかしたら、実際には、マックのハンバーガーを食べることもやりたいことの一つなのかもしれない。逆に、クラシックカーのタクシーだからこそ、それに観光客が乗ってくれることで、生計を立てられる人もいる。また、ファストフード店がないからこそ、生計を立てられる個人商店があるかもしれない。
わからない。どっちの暮らしが、キューバにとって良いかなんて僕にはわからない。
でも、一つだけ言えることがある。それは、僕のような観光客が、「キューバの本当の姿が変わってしまう!」と面白がって、国をサーカスとして観客席から見ることは、なんか違う気もした。
僕が日本で暮らすことと同じように、そこでは生活をしている人がいて、幸せを求めている人がいる。その人たちのことを度外視にして、キューバが変わっていくことを面白がるのは、なんかずるい。「本当の姿」は見られなくなっても、別に良いかもしれない。
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