妻の罠にはもうかからない
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記事:鹿内智治(ライティングゼミ・日曜コース)
「ね~、この3つのうち、どのバックがいいと思う?」
先日妻から質問された。
この質問を聞いたとき、私はハッとした。
すぐに苦い記憶を思い出したのだ。
それは去年の秋のことである。
「このコートのなかなら、どれがいいと思う?」
妻はスマホの画面を私に近づけなら、質問してきた。
妻のスマホを手に取ってみると、ネット通販のサイトで、女性用のコートを着たモデルがポーズをきめた写真が数枚写っていた。ベージュ、白、黒の色をしたコートが写っていた。
全ての写真を何度もスクロールしてみて私は妻の質問に対して本気で考えた。
妻が既にもっているコート、妻に似合いそうな色や形、妻が既にもっているインナーまで考えに入れて選んだ。
「この中ならば、これがいいと思う!」
かなり自信を持って答えた。
妻からポジティブな反応があると思って答えた。
「たしかに!ありがとう!」なんて言われることを想像した。
でも実際は、全く違ったのだ。
「え~、それは違うと思う。私はこっちの方がいいと思うんだけど」
まさか!
こんな返答があるのか!
正直驚いた。
だって、オレの意見を聞きたいんだよね?
なのに、最初から欲しいものは決まってたの?
なら、なぜ聞いた?
しかも、クイズに不正解のような言い方をしてなにこれ?
なら最初から聞くんじゃね~よ!!
心のなかで怒りが吹き上がってきた。
そのあと妻とどんな会話をしたか覚えていないほど頭に血が上った。
ただそのあと、ひとり反省したのである。
あんなことで本気でイライラしたのは良くなかった、と。
そもそも妻はあの会話から何を得たかったのかを考えた。
考えた末に、妻はあの会話からきこんなことを求めていたんだろうと思った。
妻はすでに決めていたコートを買うように背中を押してほしかったのではないか?
きっとそうだ。
最初から私の意見を聞くつもりはなく、応援してほしかっただけだったのかもしれない。
きっとそうだ。
妻の思いに寄り添えず、感情的になってしまった自分に深く反省したのである。
そして、先日。
数か月ぶりに似た場面がやってきた。前回はコートだったが、今回は普段使いのバッグだ。
「この3つの中で、どのバックがいいと思う?」
この質問を聞いて、私はハッと思い出した。
これは、旦那である私の意見は全く聞いてないパターン。
これは妻の罠なのだ!今度こそかからないぞ!
私の意見は聞いてないとすると今私は何をするべきか?
そうか!妻が良いと思っているものを聞き出そう。
「どれもいいね~、どのバックがいいと思ってるの?」
そう質問し返すと、
「あなたの意見を聞きたいの!」なんて言われることを少しだけ想像した。
でも、そんな素振りは全くなく、
「ん~このCのバックがいいかな!」
やっぱり決まってた!!やっぱりそうだったのだ!
既に欲しいものは決まっているのだ!
やっぱり、女の人はめんどくさいと思った。
でもよく考えると私も、買い物では妻と同じことをしていた。
1万円以上するような買い物をするときは、妻に「これどう?」と聞く。
でも、質問しながら妻の意見はほぼ聞いていない。
「似合うね!」「買った方がいいよ」という返事を期待している。
そんなとき、妻は、「似合っているよ!いいと思う」としか答えない。
大正解の答えだ。
そう、妻はすでに私の気持ちに寄り添ってくれていたのだ。
とても申し訳なく思った。
今度は私が寄り添う番だ。妻の背中を押す番だ。
「Cね~、これは今までに買ったことない形だね」
「そうなんだよ~」
ここで候補のバッグの悩みポイントを整理した。
「Aは今持っているバックに近くて、Bは初めて買う形で、Cは色も型も初だね」
「そうなんだよ~、悩む~!」
妻の嬉しいそうな表情ったらなかった。
何度かやりとりした結局、
「やっぱり今日、お店に行って見て決めることにする!話を聞いてくれてありがとうね!」
「い~え~」
よし!
妻の罠を回避できた!
妻の満足度をキープできた!
私は心の中でガッツポーズをとった。
妻の笑顔が何よりの証。
なんとか気持ちに寄り添えたと思った。
人はときに他人に背中を押してほしい時がある。
それは、不安や失敗したくない気持ち、自分の選んだものはハズレではなく、自分の選ぶ基準は間違っていないことを他人に保証してほしいと思う気持ちがあるのだ。
失敗は成功のもとなんて言うが、できるだけ失敗は少ない方がいいに決まってる。
失敗ではないと他人に言ってほしいことがあるのだ。
それに人は、意見を聞いているようで聞いてないときがある。
「いい感じじゃん!」とだけ言ってほしいときがあるのだ。
「これどう思う?」といった質問にまじめに答えるのが正しい場合もあれば、正しくないこともある。
「どれがいいと思っているの?」と質問を返したり、「いいと思うよ!」だけ返答したりするだけで十分な場合があるのだ。
判断に迷ったときこそ、相手の気持ちに寄り添い、そっと応援してあげればいいのだ。
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