メディアグランプリ

27才で転職を決断したわたしの、めくるめく涙days


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:Amy(ライティング・ゼミ夏休み集中コース)
 
 
忘れもしない、2016年12月1日。
わたしは、初めての転職を経て、出社初日を迎えた。
それまで専門としてきた教育業界とは、何もかもが異なる編集業界への挑戦。
学生時代にアルバイトで入社した企業にそのまま就職したわたしにとって、この転職に向けての毎日が「初めての就職活動」であり、迎えたこの初日が「本当に社会人になった瞬間」のように感じられた。
 
 
それまでのわたしの仕事といえば、英語を教えることだった。問題集を見つめながら、すでに分かっている正解に向かって、生徒たちに勉強を教える。その繰り返しの毎日。クリエイティブを発揮するチャンスがあるとすれば、文法の説明をするときの例文を作るときくらいだ。でも、そこには誰も面白さなんて求めていない。というか、どんな例文をわたしが作ったかなんて、ホワイトボードを消した瞬間に忘れられるものだった。
 
 
ところが、新しい仕事は、ゼロからコンテンツを生み出す編集の仕事。「雑誌の記事を書く人になる」という、幼かったあの日のわたしが憧れた仕事である。採用が決まった当時のわたしは、「夢が叶う!」と浮かれた。入社日をとても楽しみにしていた。
 
 
立派なビルの入り口には一揃いの制服を着た受付の女性たち。ピッと社員証をかざすと、開く透明のゲート。それまで、なんてことないマンションの1室を借りただけの小さなオフィスで働いていたわたしは、「ドラマに出るOLの出社風景みたい!」と、そんなことからテンションが上がった。
 
 
でも、嬉しかったのは、ここまで。
 
 
研修が始まるとすぐに、わたしは、大きな勘違いに気づくことになった。研修の中に「ライターにテキストを依頼する」という項目があるのだ。編集者は、ライターではなかったのだ。つまり、記事を書くことはないのだ。編集者=記事を作る人だから、当然、自分でテキストも書いているのだと思っていた。この衝撃は大きい。
 
 
ただ、ほどなくしてわたしはまた希望を取り戻すことができた。それは、依頼するライターの中に、元々はいまのわたしがいる編集部の出身で、会社を辞めたあとにライターとして独立している人たちが多いと知ったのだ。「わたしにもまだチャンスはある!」。そう思って、編集の仕事をがんばっていくことに決めた。
 
 
入社3ヶ月目のある日。
上司と「面談」するというスケジュールが広報された。どうやらこの会社では、数カ月に一回、直属の上司とふたりきりで話す場が設けられるらしい。緊張の中、面談スペースへ向かった。仕事に慣れたか、困っていることはないか、趣味は何かなど当たり障りのない話をする中で、上司が1つの質問を放った。
 
 
「今、仕事で何しているときが一番楽しい?」
「……」
 
 
わたしは、何も答えられなかった。
答えられなかった代わりに、涙が溢れた。
溢れた涙が、止まらなかった。
 
 
これまでの人生、わたしは卒業式でも泣いたことがなかった。あまりに泣くことがないせいで、「心がないんじゃない?」とからかわれたこともあるほど、涙とは縁のない人生だった。それがまさか、都会のど真ん中で、周りにたくさんの人がいるカフェの中で号泣することになるなんて。自分でも信じられなかった。
 
 
「楽しいことなんて何もない」
「毎日辛い」
「仕事に終わりが見えない」
「わたしに編集は向いてない」
いろいろな気持ちが心の中に渦巻いた。
 
 
面談のあと、わたしが泣いていたことを察した先輩から、「この半年で、あと3回泣くと思うよ」と言われた。なんの慰めにもならなかった。
 
 
「半年で3回泣く」なんてウソだった。
 
 
1ヶ月で3回泣いた。
1週間で3回泣いた。
1日で3回泣いたこともあったかもしれない。
 
 
先輩の言葉を思い出して、半年を過ぎれば楽しい毎日が過ごせることだけを信じてがんばった。
 
 
でも、半年を過ぎても、まだ泣く日々は続いた。
チームが変わっても、上司が変わっても、まだ泣く日々は続いた。
 
 
涙はいつも、辛い涙だった。
 
 
でも、辛いだけの日々でもなかった。
 
 
仕事に慣れてくると、自分に向いている部分と、向いていない部分を客観視できるようになってきた。自分の強みを生かしながら、苦手なところでは人の力を借りることを覚えた。そしてある日、社内のもう1つの「編集部」なら、わたしの苦手な仕事は圧倒的に少ないということに気がついた。それは、雑誌ではなく、Webコンテンツの編集部だ。わたしは、思い切って異動希望を出した。
 
 
希望が通り、無事、異動を果たしたわたしは、天にも昇る気分だった。
「もう泣かなくて済む!」そう思った。
 
 
でも、相変わらず、泣いている。
 
 
でも今は、「涙が溢れるほど感情を揺さぶられたり、悔し泣きをするほど自分を懸けられる仕事があるのは幸せなことだ」と、少しだけ前向きに思えるようになった。
 
 
かの有名な曲の歌詞ではないが、わたしはきっと、涙を流した分だけ強くなれた。涙を流した分だけ、「きっと人の心を動かせる記事を作れるようになった」と、そう思えるようになった。涙を流しながらでも作り上げた記事が、読者の方に支持される嬉しい経験も得られた。わたしが作った記事が、社内で「優秀な記事」として表彰を受けることもあった。自信も持てた。
 
 
ありがたいことに、新しい編集部では、大きな仕事を任せてもらえるようになった。社内でも前例がなかった、新しいタイプの編集タイアップ商品の制作を担当している。同時に、また紙の雑誌の記事を作る機会も与えてもらえている。
 
 
わたしは今、「この3年間のわたしは、誰よりもたくさんの涙を流しました」と、胸を張って言える。それは、その涙が、確かに自分の糧になったと認めることができたからだ。

 
 
 
 
 

***

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2019-08-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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