センス良いね、は最高のほめ言葉!
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:奥 寛子(ライティング・ゼミ夏休み集中コース)
「君は、センスが良いね!」
私は世の中のどんな言葉よりも驚いた。「あなたのことが好きです」と言われるよりも驚いた。
それは会社での出来事。1年に1回行われる支店長との面談。上司の更に上司との面談の時だ。
普段、毎日コミュニケーションを取る訳ではない。私の仕事を全部知っている訳でもない。
そんな支店長からかけてもらった言葉が「センスが良いね」だった。
なぜ私がこんなにも驚いたか?
それは、子どもの頃から「センス」という言葉にアレルギーがあったからだ。
言い換えれば、私のコンプレックスの部分だ。
このコンプレックスと出会ってしまったのは、中学一年生の頃。
休みの日に友達と遊びに行った時のことだ。普段は制服で過ごしている友達と、私服に着替えて出かけるというシーン。
オシャレに目覚め始めた年頃の女の子の服装は、それはもう可愛らしいものだった。
私の目の前に現れた友達は、りんごの形をしたヘアクリップで前髪を留め、白いTシャツの上に花柄のキャミソールを重ね、膝下ぐらいの細見のジーンズをはいている。足元は、つま先が見えるミュールという靴を履き、全身で個性を表現している。
一方、私はどんな姿だったかというと……ああ、本当に思い出したくない。
「BAD BOY(不良少年)」と書かれた挑発的な顔がプリントされたTシャツに、不要なポケットが6個も付いている10分丈のカーゴパンツ、そしていかにも早く走れそうなデザインをした蛍光色のスニーカー。目指していた訳ではないが、どこからどう見ても少年なのだ。不良少年にもなれないぐらいダサかった。当時流行っていたプリクラを撮るにも、私のBAD BOYが一緒に映り込む。
センスない。ダサい。
そんな自分に自信が持てなかった。
この美的センスは、美術の授業でも発揮された。
「今日は、花の絵を描いてもらうぞ。しっかり心を込めて描くように!」
恐らくもう予想はついているかもしれないが、私は美術の授業が苦手だった。美的センスはゼロだった。
「うーん。君の絵には絵心がないね」
見回りをしていた先生が、私の絵についてこう指摘した。
「絵心、えごころ、エゴコロ……」
私は、頭の中で絵心とは何かを必死で考えた。
これだ!
私が取った行動、これも今考えると本当に恥ずかしい。
途中まで書いていた花の絵に、目と鼻と口、そして眉毛を描いて擬人化させたのだ。もはやそれは美術ではなく、限りなく落書きに近づいた。
美術の先生は言葉を失い、笑うこともせず、その日からマンツーマンで指導が始まった。一度だけ5段階評価で4が付いたこともあったが、先生が9割助けてくれた陶芸の作品が評価されただけだ。
実力ではいつも5段階の2の評価。この成績もまた、私のコンプレックスを強固なものにした。
月日が流れ、恐れていた時がやってきた。
その名も「華の大学生活!!!」
制服で過ごしていた高校生活から、毎日私服で出かける生活が始まる。友達に自分の服を見られる。
私が最初に取った行動は、「女子大生」という言葉から連想されるものを身に着けることだった。
これだ! ピンク色のアイテムだ!
しかしその時はまだ分かっていなかった。世の中の女性全員がピンクが似合う訳ではないことを。
安直な発想の結果、違和感で溢れたコーディネートが完成。
私のコンプレックスセンサーが炎上してしまった。しかし、これが転機だった。
その日から私は、毎日、本屋に通った。
性別も年齢も関係なく、あらゆるファッション雑誌に目を通し、流行を理解する努力を続けた。
勝手にファッションチェックと題して、友達の服装をじっと観察した。勿論バレないように。
友達が好きな店に一緒に通うようになり、気に入ったものは自分も買ってみるようにした。
そして、自分が格好良いと思う人の行動と持ち物をとことん研究したのだ。そしてとことん真似をした。
すると、2つの変化が起きた。
1つ目は、自分に似合うものと似合わないものの区別ができるようになった。
2つ目は、物の価値の指標ができた。
簡単に言うと、「みんなが持っているから自分も」という考えが無くなり、なぜ自分がそれを良いと思えるかを説明できるようになったのだ。
そしてこの考えは、ファッションを通り越して自分の生き方にも影響してくるようになった。
たくさんの選択肢があるとき、「自分が何者」で「何を指標」にして判断をしていくか?
そこにも「センス」が問われる。
それはもう感覚の違いではなく、経験と知識の量の違いなのだ。
ダサかったあの日の自分に言ってあげたい。
あなたはセンスが悪かった訳ではなく、ただ良いものを知らなかっただけ。
知らないことが多すぎただけ。
今よりも良くなりたい! の気持ちを持ち続けて、その道の知識と経験を増やせばいい。
20年後、「君はセンスが良いね」と褒められてしまう日が来るから。自信を持って!
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