メディアグランプリ

決断が迫られる船の上での緊急事態 


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記事:渡邉翔太(ライティング・ゼミ夏休み集中コース)
 
 
船のお医者さんとの出会いは、
僕の物の見方を大きく変えてくれた
 
 
入社して5年。
その頃、僕は仕事に飽きていた。
製薬会社に営業職として入社し、医師を訪問しては薬の情報を伝え、その反応は薬の処方量・購入額によって反映される。それなりに努力や工夫をし、それなりの営業成果を出していた。しかしそんな毎日に飽きていた。なにより僕は営業成果よりも「人との出会い」に興味があった。テレビドラマに出てくるような凄腕の外科医、漫画のキャラクターのような志の高い医者。そんな医者は僕が担当している地区には1人もいなかった。深い海の底に沈みこんだような毎日だった。
 
 
そんな時、新しく病院を訪問することになった。
そこにいたのが内山先生だ。見るからに穏やかで、患者さんや看護師さんとの接し方もマイルド。そして優しい顔に対して大きく違和感がある真っ黒に日焼けした肌。聞くと2か月程『船医』として、とある島に行っていたらしい。
 
 
「船医ってなんだろう」
 
 

家に帰るとすぐさまネットで検索していた。
大がかりな島の開発や遠洋漁業などの船に専属の医者として乗船。数か月に渡って何十人、何百人もの健康を1人で守る職業とのこと。そして調べていると衝撃の事実が……。なんと内山先生が自身の体験を基にした本を出していたのだ。興味が先行し気が付くと書店で手に取っていた。
 
 
そこにはあの優しい顔からは想像がつかない
とんでもない冒険の記録が記されていた
 
 
医師になってわずか3年目で『船医』として乗船。ただ単に病院や診療所が船の中にあるイメージであったが実状は異なる。船に積める医薬品や治療用器具の数は限られており、まかない料理を作るシェフのような感じで「いまあるもので、なんとか治療をする」という技術が求められるのだ。そして船の診療所にくる患者、船員も一筋縄ではいかない。大がかりな縫合が必要な切り傷を負った船員もいれば、我慢に我慢を重ねて傷が化膿してくる船員など様々だ。何度も言うが、それをわずか3年目の医者が1人で対処するのだ。
 
 
とはいえ船医は厳しい時ばかりではない。真っ黒になるまで船上から釣りを楽しみ、見たこともないサイズのマグロを釣る。夜は釣ったマグロを捌いて大宴会。またある夜は満点の星空を眺めながらカラオケ大会。そのような毎日を過ごしていく中で、段々と船員達との関係も構築していくことができ、診療にも良い影響がでていくのである。
 
 
ある台風の日、緊急事態が起きる。船員の1人が腹痛を訴えて受診してきたのだ。腹痛にも色々な種類がある。食あたりのようなものもあれば直ちに処置が必要な重いものまで。見るからにこの患者の腹痛は重症で、他の症状も含め「重症急性膵炎」の可能性が高い。早く専門の医療機関で治療をせねば死に直結する状態だ。しかしこの台風という状況、船は明日の朝までは動かない。緊急時に医療用のヘリコプターを呼ぶことが可能だが、数百万単位でお金がかかるので簡単に呼ぶことは出来ない。そこで内山先生がとった行動は……。
 
 
普段あまり本を読むタイプではないが、一気に読み進めてしまった。仕事が終わり夜の9時から読み始めたが、夕食も食べずに気が付くと日を跨いでいた。
 
 
「ヤバい人と出会ってしまった……」
 
 
そこからは毎日が充実していた。僕の中で内山先生は漫画の主人公として認識、会う時にはいつも以上に入念な準備をし、キラキラした憧れの眼差しで面会、終わった後は興奮を隠せないという異常な状態に陥っていた。内山先生も、さぞ気持ち悪かっただろう。しかしそこは内山先生も『船医』として培った臨機応変さで優しく対応をしてくれたのであった。特段この出会いで営業成績が伸びた、というようなことは無かったが、とにかく毎日が充実していた。
 
 

振返ってみると内山先生との出会いがきっかけで、もっと相手のことを知りたいと思うようになった。そこまでしっかり調べるようになると、今まで「テレビドラマに出てくるような凄腕の外科医」や「漫画のキャラクターのような志の高い医者」がいないと思っていたのは自分の物の見方に問題があったことに気が付いた。内山先生のように『船医』という面白い肩書きがない医者でも、話していくうちに尊敬できる考え方を持っていたり、ユニークな経歴を持っていたりするのだ。
 
 
皆さんは毎日の生活が充実していますか?
仕事は楽しくできていますか?
冒険する気持ちを忘れてないですか?
年齢や職業、そんなもの関係なく、全ての人に『ひとりぼっちの船医奮闘録』を読んでほしい。

 
 
 
 
 

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2019-08-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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