スマホを捨てよ冒険へ出よう
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記事:大友ぎん (ライティング・ゼミ夏休み集中コース)
その日、私は会社を休んで病院の待合室にいた。
朝から、ひどい頭痛に見まわれていたのだ。
目の奥からおでこにかけて、ぎゅーっとした痛みが広がっていく。今まで感じたことのないタイプの痛みに、これはやばいのではないかと焦って来たのだ。
診断の結果は「眼精疲労からくる頭痛」だった。
「ずっと同じ距離で画面を見続けていると、血流が悪くなるんですよ。パソコンもスマホも、休憩しないともっと痛くなっちゃいますからね」
そう言って、先生は簡単にできるマッサージのやり方と、その場しのぎの薬を出してくれた。
「私、そんなにパソコン見てるかな?」
あまり自覚がなかった私は、それから数日間、パソコンやスマホをどれくらい見ているのか意識するようにした。
結論、パソコンはほぼ一日中見ていた。これは仕事だからしょうがない。ただ、ノートパソコンを机に置いて作業をしているので、かなり姿勢が悪く、首に負担がかかっていることがわかった。
そして、さらに首にダメージを与えているのがスマホだ。これも今まで気が付かなかったのだが、パソコンを見ていない間、私はほとんどの時間をスマホを見て過ごしていた。
この事実には驚いた。全く自覚していなかったからだ。
私は一日の大半を、小さな四角いモニターを見て生活しているのだ。
きっとこれは私だけではなく、現代を生きるサラリーマンのほとんどがそうだろう。電車に乗ると、その車両に乗り合わせた全員が、一様にスマホとにらめっこしている、なんて光景も珍しくない。
たしかに、パソコンもスマホもとても便利だ。手持ち無沙汰な空き時間を、きれいに埋めてくれる。ぼーっとモニターを眺めているだけで、自分が興味のある情報を次々に受信できる。秒単位で情報は流れ、消費され、消えていく。
ふと不安が頭をよぎった。
私は本当に、自分の意思で決断しているのだろうか?
2日前に行ったランチのお店を、教えてくれたのはグーグルマップだった。昨日買った漫画は、ツイッターで話題になっていた。アマゾンでの評価も高かったから、私は最終的にポチったのだ。
私は急に怖くなった。
自分がプログラミングに逆らわずに動く、ロボットになったような気がしたのだ。クチコミを見ずに、お店を決めたのはどれくらい前だろうか。私はアマゾンの星の数に惑わされずに、物を買えるのだろうか。私は想像以上にデジタルデバイスに支配されていたのだ。けっこう危ないかもしれない。
「一旦、パソコンもスマホも捨ててみよう」
私はそう決意して、週末の休みをデジタルデバイスなしで過ごしてみることにしたのだ。
朝、まず起きられなかった。時計を見るともうお昼前だった。スマホで目覚ましを設定していたため、いきなり出鼻をくじかれた。気を取り直して、昼ご飯を作る。冷蔵庫をあけて材料を確認し、そこで困った。冷製パスタのレシピがわからない。昔買ったレシピ本を本棚から引っ張り出し、なんとか作った。
パスタを食べながら、ふと来週開催されるイベントの詳細が気になって、無意識にスマホを探している自分に気が付いた。ハッとして、パスタに意識を戻した。普段、私は無意識でスマホを見ているのか。
お腹もふくれたので、出かけることにした。新しいカフェを開拓しようと、前から決めていたのだ。いつもだったら、ここでスマホを取り出して、食べログかRettyで検索し、星の数が多いところにするのだが、今日はスマホがない。
しょうがないので、近所の大通りをあてもなく歩いてみた。よく行くパン屋さんの前を通り過ぎ、いつもは曲がらない角を初めて曲がってみた。すると見慣れた町がすこしちがって見えたのだ。古い洋食屋さんや、小さな花屋さん、苔むした神社。まるで知らない町に迷い込んだような気分だ。
知らない角を2つほど曲がったところに、カフェがあった。メニュー看板にはおいしそうなケーキの写真が並んでいる。私は木の扉をゆっくり開き、店内に入った。クチコミを見ずにお店に入るのは久しぶりだ。
人懐っこい笑顔の店員さんにオススメを聞き、本日のケーキとレモンティーを頼んだ。ほどなくして運ばれてきた紅茶のシフォンケーキは、見るからにおいしそうだ。スマホがないから、半分義務と化していた写真を撮る必要もない。
私はたっぷりとケーキとレモンティ―を楽しんだ。きちんと目で見て、香りをかいで、味わった。「おいしい」が体に沁みわたっていく。
こんなに集中して味わったのは久しぶりだ。いつも片手にスマホを持っていたからか、食事に集中できていなかったのだ。
私はごちそうさまを言って、カフェを後にした。いいカフェだった。私の中では星4つ。また来よう。
夕暮れを見ながらゆっくり歩いていると、一瞬で家に着いた。こんなに近かったのかと驚いた。まるで、知らない町から帰ってきたような気分だったからだ。
スマホがないと、半径1キロも冒険になる。
これは新しく、嬉しい発見だった。
また、今度の週末もスマホを捨てて、小さな冒険に出ようと思う。
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