事務職は、隠れた得点王
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記事:てぃーこ(ライティング・ゼミ夏休み集中コース)
「新しい人は雇わないことになったから」
申し訳なさそうに、そう言われた。どうやら、産休に入る社員の人員補充をしないと言うのだ。彼女が育休から早く戻って来るから、というのが理由だった。
「いやいやいやいや、それはないでしょ」
まだ産休前だが、聞いた時点でドッと疲れてしまった。なぜなら、今まで3人でしていた仕事だ。それを2人って! 今まで出来ていた仕事の何を削るべきなのか…… その間だけでも、人材派遣会社にお願い出来ないのかな。
同じオフィスで働く上司や営業の人たちは、事務が忙しいことを知ってくれている。私の仕事は、得意先と営業をサポートし、営業と本社を繋ぐ架け橋の役割だ。現場では求められていた。しかし、本社は認めてくれてはいなかったのだ。私の仕事は「その程度」だと遠回しに言われているようだった。仕事のレベルアップを進めていたのに、求められていないことも悲しかった。
事務の仕事は、野球で言う進塁の為のランナーコーチのような物だ。
「行けー! 走れー!」
良い当たりの時は、走者から見えるようブンブンと思いっきり手を回す。それを信じて、営業の選手達は、ホームベースまで猪突猛進! 一気に駆け抜ける。逆に、一塁で止める判断をする時もある。進めない時は、教えてあげないと気づかないからだ。
支社に勤める私達は、炎天下の中戦う、まさに高校球児だ。営業の選手と同じ気持ちになって、「頑張って!いってらっしゃい」と送り出す。サポートもするし、間違っていたら指摘もする。新人が出来たら、「やったじゃん!」って思いっきり褒める。目標を達成したら、ホームランが決まったかのように全員で喜び合う。
事務は、数字を追う役割ではない。バットを振って、塁を駆け抜けるのは華のある職種だし、さぞ気持ち良いだろう。だが、地道に一点、チャンスの時は豪快に満塁ホームランを狙いに行く気持ちは、こっちだって同じだ。
また、求められることに応えて行くのも事務の仕事だ。
いつもただ単調な仕事をしているように見えるかもしれない。しかし、いつも見ているからこそ気づく事も多い。
ゴルフのキャディーが、風や芝の目を読むように数字を正確に捉えることも必要とされる。コースを理解し、プレイヤーに教えられるのは、得意先の性格や行動を読み取って対策を考える姿と重なる。
だから、一緒に働く営業の人たちは「ありがとう!助かった〜」と言ってくれるのだ。
そうやって築いて来た仕事だが、ここに来て時代が変わり始めている。
AIの導入だ。
まだ実感はないが、新聞やテレビニュースの中では、AIは人間の代わりとなって作業をこなしている。人間よりも速くて正確に、だ。
事務の仕事はAIに取られてしまうのだろうか?
確かに、入力のような単純作業なら出来るかもしれない。それは、私達だってウェルカムだ。是非とも、お願いしたい。
なぜなら、その時間が空いた分、先送りしていたあれやこれ、出来ることが広がる。
長い長い坂道を想像して欲しい。
あなたは、今からその坂道を登る。自転車に乗るか電動自転車に乗るか、どちらかを選べるとしたら、どうだろう。キツイ方が良いという人もいるかもしれない。だが、電動自転車の方が速く登れることは容易に想像ができる。
これと同様に、AIは仕事を奪う物ではないはずだ。効率を上げる、パフォーマンスが上がる。そして、早く終わる。
今の取り組んでいる仕事がなくなったら、仕事はなくなるわけではない。
自分で仕事を改善することもできるし、新たな発見から仕事を創ることもできる。これは、暗に仕事を増やすという意味ではない。日常の中に眠る「こうしたら良いのに」が出来るなんて、良いチャンスだ。
甲子園を見ながら思う。
テレビにチラっと映るランナーコーチは、今日も一生懸命に手を回していた。監督の指示を見て、ボールを目で追う彼らの名前は、テレビには出て来ない。どんなに的確な指示をしようと、どんなに盛り立てようとも、スポットライトが当たるのは名前の出ている選手たちだ。
しかし、そんなことは、彼らには関係のないことなのだろう。
一緒に汗を流し、涙し、笑顔になる。
目標はただ一つ。勝つ為だ。
そうだ、事務職も得点を稼ぐことは出来ないんだよな……
表に出る数字は、いつもゼロ点だ。しかし、入った得点は、見えないところで全て関わっている。私たちだって、汗かいて働いている。
うん、求められていることを今は、実直にやろう。それが、事務職としてのプライドだ。
事務職って隠れた得点王だ。
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