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愛すべきトイレ近い民へ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:のぐちまりゑ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
拝啓
 
お元気ですか。
秋の心地よさが近づいたかなと思ったのは気のせいで、まだまだ死ぬほど暑い日が続きますね。
 
最近のトイレ近い具合はいかがでしょうか。
 
わたくしは大汗をかく夏であっても、水分を摂ると素通りしているかのように流れていってしまう体ですので、秋冬になってさらに拍車がかかるのが今からドキドキです。
 
1時間に2、3回お手洗いに行くのも恒例となってまいりました。
この体は水分を保持できないつくりなのではと何年も疑い続けてきたことは、そちら様におかれましても、あるあるかと思います。
 
「水分素通り」原初の記憶を辿ってみると、幼稚園まで遡ります。
 
先生が来る前にお手洗いへ行き、水道で水を飲んで戻りますが、出席を取っている間に再び行きたくなりました。
自分の名前が呼ばれる前にまた行って帰ってくる、という早業を会得したのは3歳の頃です。
 
小学生になると50分授業が始まりました。
ランドセルの喜びと共に「50分か……」という絶望感に襲われた入学式を思い出します。
 
百貨店のお手洗いに入った際には、個室の鍵が固まって動かなくなったことがありました。
 
「閉じ込められた……!」
 
と恐怖を感じたのも束の間、
 
「あ、トイレだから大丈夫か」
 
と開き直れたのは自分でも誇るべき部分だと思っております。
 
中学生になる頃、授業中にお手洗いに行きたくなったらどうするか、という議題で姉と話し合いをしたことがありました。
 
姉曰く、
 
「先生、お手洗いに行ってもいいですか」
 
ではなく、
 
「先生、お手洗いに行ってきます」
 
と言うべきだ、とのことでした。
 
これは先生に「ダメです」と言われないよう、行く宣言を事前にしてしまうことで、すでに行くことが決定している、という論理でした。
 
なるほど、と思ったわたくしは、今でも常にお手洗いに行く宣言を口先に準備している次第です。
 
高校生に上がって、さすがに50分授業にも慣れてきた頃、恐るべきシステムが導入されました。
大学入学に備え、試験的に90分授業を取り入れるというものです。
 
「おい、バカか」と思ったものです。
はたから見れば平然としておりましたが、まだ高校生なのだから50分でいいだろ90分も我慢できるかふざけるな、と心中穏やかではありません。
 
しかし、わたくしは耐えました。
1回か2回、先生に「お手洗いに行ってきます宣言」を振りかざしたこともありましたが、なんとか試験的な導入も終わり、通常どおり50分の素晴らしき世界に舞い戻ったわけであります。
 
大学生になると、いい加減我慢することがバカらしくなったため、教室をスッと出てスッと戻るという早業を上達させていきます。
実に自由。実に快適。
幼稚園の頃に戻ったような軽快な行き来を実現させました。
 
ちなみに、我が母校は山の上の上の方にあります。
教室とお手洗いの寒暖差には辟易しましたが、行けるに越したことはないのです。
便座がキンキンに凍っていようが、トイレットペーパーが湿っていようが、行ける利点には勝てないのであります。
 
さて、このように難儀な体ではありますが、水分を摂らないとミイラ化してしまうため、一応は摂取しておりました。
 
・ミネラルウォーター
・紅茶
・緑茶
・ほうじ茶
・麦茶
・ウーロン茶
・牛乳
・ハーブティー
・オレンジジュース
・スポーツドリンク
・コーヒー
・酒
 
あらゆる飲み物を試し、毎度へこみました。
お手洗いに行き過ぎることによるペーパーの消費量とお肌の炎症に悩む日々。
同志の皆様もきっと同じように、あらゆる水分を試したこととと存じます。心中お察しいたします。
 
そんな生活を送ってきたわたくしが、この度、素晴らしい水分と出逢いましたのでご報告させていただきます。
 
「白湯」です。
 
苦しみに耐えぬき、ついに見つけたのはなんとただのお湯でした。
冷たい水だと素通りするのに温かい水だと素通りしない。
これは史上最大の発見です。
 
類は友を呼ぶのでしょうか、わたくしの友人にはトイレ近い民が多く存在します。
その友人たちにもぜひ「白湯」の素晴らしさを教えてあげたい。
 
もしかしたら、わたくしだけの効果かも知れません。
しかし、白湯というのはトイレが近いか否かにかかわらず、体に良いとされるものですから、きっと損にはならないでしょう。
 
お湯を沸かし、少し冷まし、水筒に入れる。
喉が渇いたと思うより前に、こまめに飲む。
飲み過ぎると胃酸が薄まるので、1日に800mlを目安に飲む。
 
これを繰り返しても「あぁまたトイレ行きたい!」という衝動は訪れません。
なんという奇跡……!
 
今年はしばらく白湯生活を続けてみようと思います。
きっとわたしたちは胃腸の吸収力の弱い体質でしょうから、お医者さんに診てもらうのが一番です。
でもまずは試しに一日やってみるのもいいかもしれません。
 
パーキングエリアで「またか」と言われ、
試験前に「またか」と言われ、
映画の上映前に「またか」と言われる。
 
だって体が勝手にそうなるんだもん! という主張は「精神的なものでしょ」というお決まりのフレーズで片付けられます。
 
臓器や血管、体の生理現象は、自分のものであるにもかかわらず、自分の意識ではコントロールできません。
 
自分であって自分ではない。
いわば「自然」という他者を抱えて生きているのが人間です。
 
「トイレ近い」という「暴れる自然」を抱えながら社会生活を送り、鎮まりたまえ……! と内なる他者に祈りを捧げながら過ごす。
それが当たり前になってしまっているのが、愛すべきトイレ近い民です。
 
だからこそ、
 
「水を 飲んでも 大丈夫に なった!!」
 
それだけで、わたくしの目の前には色彩豊かな景色が広がるのです。
 
サウンド・オブ・ミュージックのように、歌いながら草原を駆け回りたくなりますが、あのあたりはお手洗いがなさそうですね。
どんな場所でもお手洗いを探してしまう長年の癖も、だんだん減っていくのかもしれません。
 
同志の皆様が少しでもハッピーな生活を送れることを願っております。
 
末筆ながら、ご自愛のほどお祈り申し上げます。
 
敬具
 
 
 
 
***
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 
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2019-09-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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