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イチゴ1粒のバランス


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記事:秋田梨沙(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「なんで誕生日じゃないのにプレゼントもらってるの?!」
 
お兄ちゃんの怒りは凄まじかった。
今日は彼の7才の誕生日。プレゼントにお目当てのおもちゃを買ってもらい、ホクホクした顔で包みを開けていた。こちらもツラれて笑顔になるくらい全身から喜び大放出。包装紙を破く時間すらもどかしそうだ。あぁ、可愛い。母である私もニマニマとしていた。家族団欒、平和平和。
 
……だったはずなのだ。
さっきまでは……。
 
空気が一変したのは、続いてパパがもう1つ包みを取り出した時だった。
「こっちは弟くんにどうぞー」
パパの声がするや、お兄ちゃんが顔をガバッと顔を上げた。やっと手に入れた念願のおもちゃで遊ぶ手も止めて、弟の手元を凝視している。眉間にはどんどん深いシワが刻まれていく。
あぁ、これはヤバイぞ……。
慌ててパパに目配せするも、時すでに遅し。
 
「ずるい! 弟は誕生日じゃないのに!」
 
一家団欒は突如として戦争状態に突入した。
 
あんなにご機嫌だったお兄ちゃんはすっかりムクれてしまい、大激怒。弟のプレゼントを羨ましがり、もう自分のプレゼントはいらないとまで言う始末であった。せっかくの誕生日なのに、怒りに震える目は涙目である。どうしたものか。
 
パパの名誉のためにお伝えしておくと、弟にもプレゼントを買ったのには、理由がある。
この頃、とにかく兄弟喧嘩が多いのだ。
 
弟が1歳くらいの頃はまだ良かった。3つ上の兄は、「弟はまだ赤ちゃん」と思っていたようで、彼なりに優しく接してくれていた。出産にも立ち会ったせいか、とても弟を可愛がっていて、たぶん、男の子にしては面倒見のいい方である。ところが、弟が大きくなってくると、だんだん雲行きが怪しくなってきた。3歳になった今では、よく口が回り、いちいち張り合うので、さすがのお兄ちゃんも穏やかではいられないらしい。
 
毎日、お迎えの車の中からくだらない喧嘩は始まり、玄関の鍵を開けるのはどっちだの、iPadでYouTubeをみるのはどっちだので、帰る道中ずっと揉めている。最終的には帰って先に手を洗った方の勝ち! などという競争が始まり、結果、負けたどちらかが泣くのである。
「お兄ちゃん(弟)ばっかり、ずるい!」
と言って。
 
終始そんな調子で張り合っているので、うっかり、どちらかだけに得になるようなことをすれば大炎上なのである。
 
そんなわけで、プレゼント担当だったパパは、片方にだけプレゼントがあったら、絶対に揉めるに違いないと、弟にもプレゼントを用意してくれたのだ。平和のために。もちろん、弟の方は金額的にもサイズ的にもささやかなものであった。
 
しかしである。みてもらえば分かるように、これは完全に大失敗だった。
弟はともかく、せっかく主役だったお兄ちゃんの機嫌を完全に損ねてしまった。
 
兄弟のバランスを取るのは、親にとって結構、難しい。
生意気なことを言われて腹の立つ時には、もう一方の可愛い仕草や言葉にたまらなく癒されるし、ワガママだらけでちっとも言うことを聞かない時には、もう一方のさりげないお手伝いに心が救われだりする。一瞬一瞬、グラグラに傾いている。
 
けれども、いくら比べてみたところで、やっぱりどちらも同じように愛おしい。
そう思っているのも事実である。
 
だから、子どもから「ずるい!」って言われてしまうのは、親としてはとても悲しいのだ。
なんとか、「ずるいずるい」と言わせてしまわないよう、天秤の両側に重りを乗せてバランスを取ろうとしたのだけれど……。そういうことではなかったらしい。
 
なんでもかんでも同じにすることが、平等ではないのだろう。
 
弟が眠ってしまった後、お兄ちゃんをこっそりとベッドから連れ出した。
夜の大人の時間に誘って、「弟には内緒だよ」とジュースとポテトチップスを出してあげる。改めて、3人だけで「おめでとう」を伝え、生まれた頃のお兄ちゃんの話を話して聞かせる。
 
どんなに嬉しかったか。どんなに大変だったか。どれだけ好きか。
 
同じことをするのではなくて、ちゃんと時間を作って、等しく「特別扱い」することが大切なのかもしれない。
 
内緒だよ
と、残してあったショートケーキのイチゴをお兄ちゃんの口へ運ぶ。
あなたは大切な存在なのだよと、伝わるように。ママが大事に最後にとっておいた特別なてっぺんのイチゴをまるまる1つ。
 
あなたのことをちゃんと見てますよ。
大切に思ってますよ。
 
そしたら、パパも張り合ってイチゴを口へ運ぶ。
 
まだまだ小さいその口へ。
 
***
 
 
 
 
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2020-11-08 | Posted in 記事

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