[エピソード0]演劇未経験・小説家志望のど素人スタッフが、演劇の脚本を書くことになった理由。【旗揚げ公演実録ブログ】劇団天狼院「いぶき」
このブログは、演劇『極楽こたつ』の脚本担当・鳥井が書いています。一つの劇団が発足し、演劇公演にいたるまでを内側からルポルタージュしていきます!
心の内には夢や目標があるけれど、人にはなかなか言いづらい……
というか、理想と現状のあまりのギャップに、ちょっと途方に暮れている……
なんて人は、このブログに付き合ってほしい。
なぜなら、ちょうど二年ほど前の私も感じで、当時の自分にもこのブログをおくりたいからだ。
「なり方がよくわからない職業」というのがある。プロ野球選手、人気アイドル、宇宙飛行士とか、確かに存在しているけど、努力と、いくつもの確率が掛け合わされてやっと叶うような職業だ。それが、私にとっては「小説家」だった。
「小説家になりたい」と思ったのは小学生の頃だったけれど、口にする夢は小説家から、翻訳家、アナウンサー、編集者、コピーライターと変わっていった。それは気持ちが変わったからではなく、“現実可能な夢”を模索した結果だった。
もちろん、他の職業が小説家よりも簡単なんてことは全くないけれど、ただ、“本当の夢”から目を逸らしたかったのだと思う。
「そんなの、きっと無理」
あまりに遠い道のりを思えば、そういう諦めが出てきてしまいそうだったし、切実であるほど現実を突きつけられるのは痛くて怖い。
いや、今なら、人間は「ダメ」を一度突きつけられてからでないと、本気の全力では立ち向かえないんじゃないかと思うのだけど……
だって何の凸凹もなく、ストレートに夢や希望が叶うほど、世の中、上手くはいかない。それは自分よりも本気で時間も気持ちもかけて取り組んでいる人がたくさんいて、競い合っているんだから当たり前で、だからこそ、何事も進化するし、面白くなる。
だから、本当はなんだったら早めに「ダメ」を喰らった方がいいのだと思う。
「あぁ、やっぱりダメなんだ。そりゃそうだよね。だったら、全力でやるしかないな」
「すでに一回転んでるんだから、もう怖くないし、ここで恥ずかしがっても意味がない」
そう割り切って、0地点からまた目標を追いかけるのが、正しい成長の道筋だろう。けれども、そのプロセスを避けた私は、大学卒業後に広告代理店に就職し、四年ほど働いたときにようやくその問題に直面することになった。
「私が本当にやりたいことって、これなんだっけ?」
いつの間にか、夢をすり替えていなかったか。本当の失敗から目を逸らして、本当の目標を誤魔化していなかったか。このままで、いいのか………?
けれど今さら向き合っても、目の前には依然として、途方もない理想と現実のギャップが広がっていた。
小説家になりたいけれど、新人賞受賞なんて本当に狭き門。今の仕事は忙しくて、小説との両立なんて絶対無理。じゃあ定時で上がれる仕事に転職したらいいかもしれないけれど、人生の大半を占める「仕事」の時間もクリエイティブな要素が欲しい。でもクリエイティブ部門というと、広告・編集ぐらいしか募集がない。それだと現状と変わらない…………どうしよう……進むべき方向が見えない!
登録した転職サイトの求人にも全くピンとこず、日々同じようなことをぐるぐる考えていたとき、ふと「面白い書店があるんだよ」と人から聞いたのを思い出した。小さな路地に入り込んで、細い入り口から階段を登った先に『福岡天狼院』はあった。そして、そこには求人募集のポスターが貼ってあったのだ。
絶対に、このチャンスを掴みたい、とどこか本能的に思っていたような気がする。磨けるだけ磨いた履歴書と志望理由を提出し、採用面接は本当のところめちゃくちゃ緊張していた。
だって、それまでに求人はいくつも見てきたし、だからこそ、こんなにあらゆる分野の知識やクリエイティブに囲まれて、自分も企画に携わり、さらには小説についても学べる場所は、ここおいて他にはないということが分かっていた。
「えっと、入社したい?」
天狼院書店 店主の三浦さんは、いくつかの質疑応答を交わした後にそう尋ねた。
面接の中で「小説家を目指している」と話すと、「それなら演劇の脚本をやったらいいよ」と言う。そんなことができるんだろうか……? 内心、半信半疑だったけれど、まぁ、それを差し引いたってこの環境は魅力的だ。しかし、「入社したい?」と聞かれるとは……
「えっと。もちろん、入社したいので採用面接に……」
「そうだよなぁ。じゃあ、採用で!」
え、本当に?
あまりに即決だったのでにわかには信じられなかった。でも、この人が社長だということは正式に採用ということでいいのだろう。ひとまず、やった……! チャンスを掴んだんだ! 安堵と興奮で胸のうちをぐるぐるさせながらも、平静を装いながら部屋を後にしようとすると、
「あっ、鳥井さんちょっと!」
呼び止められて、ドキッと振り返る。今さら、何か言われるんじゃないよね?
「チャック! 後ろのチャックが開いてるよ!」
なんと、全く気がついていなかったが、スカートの後ろのチャックを上げるのを完全に忘れていたらしい。
「うわっ! 恥ずかしい。ありがとうございます……!」
「あ、大丈夫、大丈夫! 僕、普段から女子の『秘めフォト』撮ってるから」
この後、外へ出ていく私のこと想像して、教えてくれたんだろう。思えば、そんな会話をした最初から、店主 三浦さんは率直で、さりげなく他人へ配慮する方だと思う。
まぁ、そんな感じで、最後はしまらない採用面接から2年。
私は福岡天狼院で新劇団・劇団天狼院「いぶき」を立ち上げ、旗揚げ公演をしようとしている。
まさかこんなに早くチャンスが巡ってくるとは思っていなかった。
日々の業務の中であらゆる分野のプロの意見を見聞きし、ときには自分も手を動かして取り組み、仕事とは別の時間で小説を書き、天狼院書店のライティング講座にも参加して小説を書き続け……
そうして気がつけば、ひょんなところから話が広がって、今日に至っている。
この後に及んでも、途中まで「本当に、私、演劇やるのかな?」と思っていたけれど、どうやらこれは現実らしい。
「なり方がわからない職業」というのは確かにある。
けれど、夢を叶えた人でさえ、もしかするとその道筋が明確に見えていたわけではないのかもしれない。この道を進むと覚悟を決めて、高みを目指しながら今をひた走って、振り返ったらその距離まで進んでいただけなのかも……
もしそうなら、やっぱり、最初から失敗を怖がらなくてよかったんだ、と改めて思う。
「本気でやったのにもし失敗したら、自分が否定されるから傷つくし、諦めなきゃいけなくなって辛い」と思っていた自分はなんて浅はかだったのか……
ただ当時の自分を少しだけ弁護すれば、夢を口にすることは、ある段階では勇気がいる。
自分の切実な気持ちだからこそ、それを表に出すことは、心臓を取り出してみせるような気分になることもあるし、だから誰にでも言う必要はないけれど、その夢を現実に引き寄せてくれるような人や場所、例えばここ天狼院書店などでは、安心して口に出してほしいと思う。
お客様だって何か口にすれば、チャンスの糸口がふっと横を通り過ぎていくような場所だからだ。(むしろこういう場所では、自分の目標は積極的に言った方がいいと思う)
さて、この【実録ブログ】では、劇団天狼院「いぶき」の旗揚げ公演『極楽こたつ』の裏側を率直に書いていく。
何と言っても初挑戦! 私も脚本を書くのは初めてだし、演出・演技での劇団FOURTEEN PLUS 14+ とのコラボも初めて。
ストレートに大成功とはいかないだろうけれど、初めてだからこその凸凹を綴っていきたいと思っている。
よく「舞台は総合芸術」というけれど、確かにこの「演劇」というものは多くの人が色々な場面で活躍する“舞台”になるというのを感じる。
だから、私自身が「小説家になりたいから、脚本を書きたい!」という面はあるけれど、舞台を一緒に作るメンバーにも、何か次のステージへの兆しやチャンスを掴むきっかけにしてもらえたらと思っている。
そして、そんな公演までの様子を赤裸々に語ることで、こうして見守ってくれている皆さんにも、何か感じてもらうものがあれば嬉しい。
さぁ、
演劇未経験・小説家志望のど素人スタッフはちゃんと脚本が書けるのか!?(実はまだ完成してない)
そもそも、ちゃんと、席は埋まるのか!?
演劇練習はどんな風に進んでいくのか!?
あの狭い福岡天狼院が、ちゃんと舞台になるのか!?
などなど、今後に乞うご期待!
〔エピソード1に続く〕
※次回からのブログはここまで長くないと思うので、どうぞついて来てください……!よろしくお願いします!
このブログは、劇団天狼院「いぶき」の旗揚げ公演『極楽こたつ』の脚本担当・鳥井が書いています。
脚本と同時に、企画運営担当でもあり、一つの劇団が発足し、演劇公演にいたるまでを内側からルポルタージュしていきます! どうぞ、お付き合い、よろしくお願いいたします。
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