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「ほめるマネジメント」の落とし穴 〜「ひとり断食」化を止めろ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:鴻池 亜矢(ライティング・ゼミGW特講)
 
 
「じゃあ、とりあえずダメなヤツでもほめればいいんですかね?」
「それしかないんじゃないですか?いまの時代は……」
「でも、ほめる、ねぇ……」
どこか投げやりな感じのやりとりが聞こえてくる。
私の目の前には、苦々しい表情のマネジャーさんが4人膝を付き合わせて座っている。
先週に担当した、企業内でのマネジメント研修の一場面だ。
 
このようなやりとりを聞くのは、めずらしいことではない。むしろ日常だ。
企業で働く多くのマネジャーさんが、部下とのかかわりに悩んでいる。
どうやったら部下にうまく動いてもらえるのか。
何をすれば、彼らのモチベーションが上がるのか。
悩みは尽きない。
で、多くの人が冒頭の「ほめるマネジメント」という解決策に行き着く。
 
かくいう私も、過去にこの「ほめるマネジメント」に行き着いた。
それは初めてチームリーダーになり、部下を持ったときだった。
私の、キツい口調と直接的な物言いから、部下はバタバタとうつを発症した。
休職で欠員が出ても、補充をしてもらえない。
人が減り、どんどん忙しくなる中で、私の口調もどんどん先鋭化する。
結果部下の半数を失った。
私は、焦ってマネジメントの専門書を読みあさった。
そして行き着いたのが、「ほめるマネジメント」だ。
ほめて、ほめて、ほめ倒す。なんだ、簡単ではないか、と。
 
この「ほめるマネジメント」解決法を仕事場で聞くたびに、いつもある人の顔が心に浮かぶ。
私は毎年、年初に1週間ほどかけて伊豆にある専門施設で断食をしている。
彼女と出会ったのはその場所だ。
こういうところのお風呂でちょっと世間話をしていると、私の職業柄かよく人生相談に発展する。
彼女の話を聞いたのもそんな感じの場面だった。
彼女は、身長160cm。以前は体重が80kgあったそうだ。
様々なダイエットを試し、最終的に断食にたどり着いた。
しかし、当時は何も知らないまま自己流でただ単に「食べない」ということをやっていたそうだ。
いわば、「ひとり断食」だ。
結果、彼女は拒食症になり、その後過食症になった。
そして最終的には救急車で搬送され、1年ほど入院したそうだ。
職を失い、お金を失い、婚約者を失い、健康を失った。
いまも、「食べない」「食べたい」という衝動と付き合う必要があるため、適切な断食や食事療法を学びにこの専門施設に通っているとのことだ。
 
彼女がやった「ひとり断食」は、悩んだ末に、痩せるための方法としてやったことだろう。
それになにしろ、「食べない」のは一見シンプルだ。
しかし、やり方を間違えると、致命的なダメージを、自分や周囲に残す。
 
で、「ほめるマネジメント」だ。
これが「ひとり断食」とそっくりなのである。だから彼女の顔が浮かぶのだと最近わかった。
 
メンタル休職により部下の数が半分に減った私は、残った部下をほめまくった。
なにしろ、「ほめる」のは一見シンプルで簡単だからだ。
しかしそれは、「ひとり断食」と同様に、致命的なダメージになった。
私の態度が急に変わったために部下は却っておびえた。
加えて、どうでもいいことでほめるので、部下はほめられたなんてもちろん思っていない。
むしろ、けなされた、バカにされている、と思うのだ。
さらに部下は離れていき、仕事はまわらず、私はドツボにはまった。
 
なぜ、「ほめるマネジメント」が機能しなかったのか。
マネジメントの専門書にはそんな失敗について、これっぽっちも書いていなかった。
でも、いまは、わかる。
そこに、「OK」がないからだ。
 
私はいま、イギリスでTransactional Analysisという心理学を学んでいる。
その中に、「OKness」という考え方がある。
直訳すると、「OKであること」になる。
ここでいう「OK」とは、「人はその人として価値があり,ユニークな存在である」ということだ。
そして、「ほめる」とは、人に対する「OK」な感じがあふれ出て、行動に表れ出たもののはずだ。
しかし過去の私の「ほめるマネジメント」には、「OK」な感じがセットになっていなかった。
だから、「ほめる」ことになっていなかった。
心理学の理論を使うと、こうやってスパァっと理由がわかる。
 
でも現実はそんなに簡単ではない。
ヘマばかりして何もできない割には自分勝手でわがままで偉そうで、仕事が残っていても定時にさっさと帰ってしまうような部下に対して、簡単に「OK」な感じは持てないだろう。
そうじゃなくても忙しくて、人をほめる気分になんてならない。
それが現実ではないだろうか。
 
ではどうすればいいのか。
私が提案したいのは、まず自分に「OK」を出すことから練習しませんか、ということだ。
多くのほめベタの人は、自分に対して「OK」を出すことが苦手である。
日本人は特に、謙虚という美徳があるため、この傾向が強い。
「自分なんて……」とへりくだることや、「自分なんてまだまだダメで」と、自分の価値を目減りさせるような声かけを、自分に対して毎日無意識にやっている人は多い。
まず自分に対して「OK」が出せるようになっていけば、他人にだって「OK」は出しやすくなる。
 
私たちは、失敗をしても、部下から総スカンでも、上司からなじられても、それでも会社に行く。
そうやって自分を動かしている理由が、私たちそれぞれにあるからだ。
家族を養っていきたいから、趣味がやりたいから、人間働かないとダメだと思っているから……。ひとり一人に固有の理由が。
それらひとつ一つの理由は、論理的にはグダグダでも、自分としての価値があるのである。
それから、その理由にもとづいて動いている私たちには、価値がある。
だから、一日が終わるとき、「毎日お疲れさま」「今日もがんばったねぇ」「よくやった」と声をかけてあげてほしい。自分に対して。
そして、これが1ヵ月も続けることができれば、部下に対してだって、「OK」な感じを持つことができるはずだ。
シンプルだ。そして誰にも迷惑をかけない。
これが、「ひとり断食」にならない「ほめるマネジメント」ができるようになる、確実な第一歩だ、と私は思う。
 
 
 
 
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2019-04-30 | Posted in 記事

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