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マラソンによる膝の痛みは自作の靴で治る?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:akko(ライティング・ゼミGW特講)
 
 
「膝が痛くて、もう走れない!」
 
私は走ることを諦めて、路肩に腰をかけた。
悔しくて涙が頬を伝った。
 
今日はずっと前から楽しみにしていた、故郷でのマラソン大会だった。沿道の応援を受けながら走るマラソン大会の心地よさは格別だ。
遠くに小学生の列が見えた。
 
「頑張ってください!」
「頑張るよ」
「イエーイ」
 
とハイタッチをしまくった。小さな子どもたちの応援に励まされ、テンションが上がりまくっていた。そんな最中、特に何をしたわけでもないのに着地する度に膝に痛みを覚えた。
 
「おかしいな」
 
何か膝にトラブルが起きているに違いない。私の頭には不安がよぎった。平坦や登り坂はまだいい。下り坂になると膝が悲鳴をあげた。
 
「イターイ」
 
激痛だった。諦めるしかなかった。
こうして運動音痴の私が手に入れたマラソンという趣味が、ある日突然、終わりを告げた。
 
「リタイアバスか……」
 
リタイアバス。
それは制限時間内に定められた距離の関門を通過できなかった人や、怪我などにより自主的にリタイアした人をゴールまで運んでくれるバスでのことだ。
ついに、乗ることになってしまった。
俯きながら乗ると、まばらに数人が座っていた。誰一人、口を開く人はいなかった。まるで葬儀会場に行くような重々しい空気が流れていた。
 
マラソンを始めたのは、ひょんな会話がきっかけだった。50歳を過ぎ、身体のラインのぼやけが気になるようになり、ダイエット話をしながら食べ放題のランチに行くことは、私と幼馴染みの定番コースだった。
 
「パン、食べ過ぎないようにしなきゃ」
 
と言って、食べた個数を正の字でつけたりするのもいつものことだ。一応、太ることへの抵抗は示した。すぐに正の字を書くのを忘れた彼女がパンを頬張りながら、
 
「PPKって知ってる?」
「何それ」
「ピンピンコロリ、と死ぬこと。マラソンしたらPPKできるよ」
 
と言って笑った。
 
「目指せ、PPK!」
 
こうして、50メートルが10秒代だった運動音痴の私がマラソンを始めることになってしまったのだ。
 
はじめは歩いている人にも抜かされる速さだった。2キロなんて夢のまた夢だった。でも次第に距離が延びた。それが嬉しくて、気付けば毎日走っていた。
1年後には体重も5キロ減り、夢の9号の洋服が着られるようになった。マラソン大会にもいくつか参加した。完走賞のタオルや賞状をもらえるのもたまらなかった。
 
だからこそ、リタイアはショックだった。その後も膝の痛みは一向に取れなかった。
 
「所詮、運動音痴の私にはマラソンなんて無理だったんだ」
 
ランニングシューズを下駄箱の奥深くにしまい、また運動とは無縁の生活に戻った。それでいいと思った。こころの疼きも感じたが、見て見ぬ振りをした。
 
「また走ろうよ」
「このシューズなら、膝の痛みともさよならできるから」
 
友人は見たこともない変な形の靴を履いていた。
 
「シューズじゃないでしょ、それ草履じゃないの?」
「草履でもないんだよ。ワラーチって言うの」
 
手渡されたワラーチは、どこからどう見ても草履だった。いや、草履でもなかった。靴底の部分とあとは何か所か靴底に通された紐しかないのだ。
時代はナイキの厚底シューズではないか。プロも一般人も厚底ばかりだ。それなのにこのワラーチとやらは、薄っぺらな底の部分しかない。
 
「おしゃれでもないし……」
 
乗り気でない私をよそに、友人は熱心にワラーチの魅力を語った。史上最強の走る民族であるタラウマラ族とか、ベアフット走法とか、いくつかのことばしか記憶に残らなかった。
 
「でもさ、シューズは買えば1万円以上するでしょ。でもこのワラーチは自作できるから2千円もしないんだよ」
 
マラソンシューズが自作とか、意味がわからなかった。でも、
 
「どうせ走れないんだから、工作でもして楽しもう」
 
ビブラムシートという靴底の部分とキャンプのテントに使われる紐、それから紐を通す穴を開けるパンチを購入した。紐は可愛さを出してピンクにした。50歳にしては派手だったが、足だから許してもらえるだろう。足形を鉛筆で取り、挟みで切って靴底が完成。これでシューズだなんて可笑しすぎる。
 
作ったからには走ってみたくなるのが性だった。靴底しかないのだ。今まで履いていたようなクッションがない。
 
「ふくらはぎがピクピクする」
「それ、良い走り方なんだよ。だから大丈夫」
 
どうやら膝に響く走り方は靴底がないとできない、という原理らしい。つまりワラーチにはクッションがないから、どうしたって着地の仕方をかえなければいけないのだ。
また運動音痴の私のランニングが再開した。今回もまた、歩いている人に抜かされる速さからのスタートだった。
 
「今のところ膝が痛くないかも」
「底いらずでしょ」
「ワラーチはPPKだね」
 
今日は10キロ走れそうだ。来年は故郷の大会で完走を目指せる気がしてきた。
 
 
 
 
***
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2019-05-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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