生きるのが楽しみじゃない日には《川代ノート》
ねえ、一つ、聞いてほしいことがあるんだ。何いきなり、って思うかも。いや、別に大した話じゃないんだけど。
なんかさー、最近よく思うんだよね。
生きるのが楽しみじゃないなあって。
次の日が来るのが、全然楽しみじゃないなあって。
むしろ、あー明日にならなければいいのにって思う日の方が、たくさんあるんだよね。
生きるのが楽しみじゃない日があるよ。
朝起きるのが嫌な日があるよ。
明日が来るのが怖い日があるよ。
誰とも話したくない日があるよ。
ずっと部屋の中に閉じこもって、ただひたすら寝ていたい日があるよ。
こんなに忙しなく動いてないで、ただ大好きな人とずっと一緒にいて、抱き合って、甘やかされるだけの無駄な時間を過ごしたい、って思う日が、あるんだよ。
生きるのが楽しみじゃない日が、こんなにあるんだよ。
ねえ、毎日朝起きて、顔を洗って、歯を磨いて、シャワーを浴びて、家を出て、働いて、いろいろな人と話していることが、不思議だって思うこと、ない?
まさか自分がこんな風に、毎日毎日社会と関わっていられるの、本当にすごいなと思うんだよね。
自分でもよくわからないけど、なんで他人とこんなに話せてるんだろうって、いつも思う。
本当はさ、誰とも話したくないくらい、引っ込み思案なの。
丸一日、誰とも話さなくても平気。できればずっと口を開かずに生活していたいくらい。
外に出たくないし、家の中にずっといたい。誰とも話したくない。
子供の頃から人見知りだったからさ。教室の隅っこでずっとお絵描きしてるような子供だった。誰にも相手にされてなかったし、半分いじめられてたようなときもあったかなあ。
おとなしかったから、なんか、いじめやすいというか、いじりやすいというか、とにかく弱いタイプだった。反論もしないし、じっと我慢してる。でしゃばってわーっと自分の意見を言うことなんてまずないし、だから、損な役回りとかもつい押し付けられちゃったりして。
でも、別にそういう生き方にそこまで不満があるわけじゃなかった。私は私で、部屋の隅っこで絵が描けるのは楽しかったし、むしろ集中が途切れるから誰にも話しかけないでほしいくらいにお思ってた。もともとどこか、コミュニティの中心にいたいようなタイプじゃない。友達も少ないし、それよりも好きなことに没頭していたい。そんな感じ。
だから、もしかしたら学生の頃は、無理をしてたのかもしれないね。なんか、いわゆる「リア充」みたいなのに憧れて、頑張って飲み会に行ったりとか、ライブに行ったりとか、みんなでドライブしたりしてた。わーっと騒いで、その写真をSNSにアップして。「楽しかった!」とか、「最高の仲間」とか言ってみたりね。そうやって、一体どこの誰に向けて発信してるのかわからないけど、とにかく、誰かに「私の生きてる世界は幸せなんだよ」って知って欲しかった。誰かに「楽しそうだね」って言って欲しかった。自分の向かっている方向が間違ってるんじゃないかっていうことが常に不安だったから、発信していないと不安だったんだと思う。自分は大した人間じゃないってわかっているからこそ、周りから「大丈夫、あなたはすごい。あなたの世界は幸せ」って言って欲しかったのかなあ。ふとしたとき、なんだかむなしくなることがときどきあって、そんなときには自分のタイムラインを見て安心した。ああ、そうだ、よかった。私は幸せなんだ、って思い込むことができるから。
でも、それってやっぱり、どこかで無理をしてるんだよね。自分じゃない「リアルが充実してる誰か」を演じてる。理想の大学生像みたいなものが頭の中にあって、それを忠実に演じてるっていうイメージ。仮面をかぶってる。仮面をかぶって一生懸命、自分を幸せにしようとしてる。
ただ、そんな毎日が続いてるとさ、なんかときどき、ふっと変な気持ちになるんだよ。ならない? なんだろうね、あれ。ふわっ、っていうのか、すーっ、っていうのか、なんかよくわかんないけど、何かしらの大きな穴が、自分の心臓のど真ん中に空いちゃったようなイメージ。自分がどっかいっちゃったような、気持ちの悪い穴がぽっかり。なんなんだろう、あれ。いきなり、正気に戻るっていうのかなあ、仮面かぶって頑張って素敵な人生演出してたけど、あ、そういえば自分って全然たいしたことない人間なんだった、みたいな、そんな感じ。
もっと素晴らしい人間だったらよかったのにね。もっと、もっと、もっと、頭がよくて、努力家で、才能があって、人から好かれて、誰とでも仲良くできるみたいな、そういう人だったらよかったのに。こんな人間じゃなかったらよかったよ。私だって私として生まれたくなかったよ。私だって好きでこんなやつとして誕生したわけじゃない。選べるもんならもっと素晴らしい人として生まれてきたよ。え? 本気だよ。本気で言ってるんだよ。好きで選ぶわけじゃないじゃん、こんなやつ。
でも仕方ないんだよね。仕方ない。やめたくたって自分っていう人間はキャンセルできない。チェンジもできない。だったらなんとかうまいこと、こいつと折り合いを合わせて付き合っていくしかない。めんどくさいけど。心の底からめんどくさいけど。
どうしたらいいんだろうな、っていっつも思ってる。こんなやつに生まれてきちゃったのが運のつきだったかもしれない、もしかするとね。わからない。でもなんとか……なんとか、やっていくしかない。
わかってるよ。わかってるんだよ。それが大人としての生き方だってことも、みんなそうやってうまいこと仮面をかぶって、理想の人間を演じて、そうやってとり繕いながらも毎日社会で働いているのが大人だってことくらい、わかってるよ。大人になるってことは、そういう嫌な自分ともちゃんと折り合いをつけて、人の……社会の役に立てる人間にならなきゃいけないってことだって、わかってるんだよ。
でも。でもさ。でもね、それでもやっぱり、どうしても、きついときってあるんだよ。
ああ、やっぱりしんどいって思うことだって、あるよ。
ねえ、どうしたらいいのかな。教えてほしいんだ。
生きるのが楽しみじゃない日には、どうしたらいいの?
明日の朝起きるのが怖い日には、どうしたらいいかな。
もう誰とも話したくない日には、どうしたらいいかな。
何もしないで、ただただ動かないでじっとしていたい日には、どうしたらいいかな。
誰の役にも立ててなくて、自分のことが嫌になって、こんな自分やめてしまいたいって思った日には、ねえ、どうしたらいいのかなあ?
わからないよ。自分じゃ答えを出せないよ。だから教えてほしいんだよ。
ねえ、どうしたらいい?
辛いときは、悲しいときは、死にたくなるときには、誰かに支えてほしいときには、もうこの世の中から消えてしまいたくなるときには、どうしたらいいの。
書けばいいんだよ。
私は、心の中でつぶやいた。そう、書けばいい。書いたらいい。
こんな風に、自分の気持ちを正直に吐き出して、苦しさを文字にぶつけて、吐き出してしまえばいい。
答えをくれる誰かを想像して、その人に伝えるつもりで、思いっきり、書いてみたらいいよ。
書くことは、自分を救ってくれる、最強の武器。
私はこの4年間で、つくづく、それを思い知った。
大学を卒業し、社会人になり、様々な変化が私を通り過ぎていった。環境が変わり、人が変わると、自分の道を失って、どうしたらいいかわからなくなることもある。誰に相談しても、わかってもらえない。アドバイスをくれたとしても、結局そのあと答えを見つけなければならないのは私で、色々な人のアイデアをちょっとずつ分けてもらいながら、自分の、自分だけの答えを見つけていくしかない。たとえ牛歩だとしても。
ただ迷っていて不安になっているとき、私のそばにいてくれたのは、いつだって、書くことだった。
母親よりも、親友よりも、恋人よりも、大好きな本よりも、私の一番の味方であり、私を救ってくれるヒーローは、間違いなく、書くことだった。文章だった。
自分の手を動かすと、自分の感情が、想いが、考えが、言葉に変換されて出てくる。私はこういう人間なんだ、私はこういうことがしたいんだ、私は今こういうことで怒ってるんだ。私が私を理解する一番の方法は、何でもない、書くことだ。
大学生の頃、書くことの面白さに気がついた。書いた文章を発信しする楽しさを。それを読んだ誰かと繋がれる喜びを知った。こんなに身近に、自分の人生をガラリと変えてくれる武器がいるだなんて、思ってもみなかった。
苦しいな、と思うことがよくある。
生きるのが楽しみじゃない日は、もしかしたら、生きるのが楽しみな日よりも、ずっと多いかもしれない。
でもそれでも、この苦しみを、怒りを、悲しみを言葉にすることを想像すれば、私はわくわくすることができる。
マイナスの要素すらも、プラスに変換できる。面白さに生まれ変わらせてくれる。それが、文章の力だ。
もしも今、私が書く人間じゃなかったなら、どんなにか、つまらなかっただろう。
心の底から「面白い」と思えることは、どれだけ深い苦しみも吹き飛ばす、武器になる。
もう何もしたくない、と思う日もあるだろう。
誰とも関わりたくないと思う日も。
本気で死んでしまいたいと思う日も。
「自分」という人間をやめて、まったく別の人間に生まれ変わりたいと思う日も、あるだろう。
そんな日が、あってもいい。
いくらでもあっていい。
辛くても、何も間違っていない。
毎日、生き生きと暮らさなくてもいい。リアルが充実していなくても、どれだけダメ人間でも、何もおかしくない。
大丈夫。
生きるのが楽しみじゃない日には、そうだ、文章を書こう。
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*この記事は、人生を変える「ライティング・ゼミ《平日コース》」フィードバック担当でもあるライターの川代が書いたものです。
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❏ライタープロフィール
川代紗生(Kawashiro Saki)
東京都生まれ。早稲田大学卒。
天狼院書店 池袋駅前店店長。ライター。雑誌『READING LIFE』副編集長。WEB記事「国際教養学部という階級社会で生きるということ」をはじめ、大学時代からWEB天狼院書店で連載中のブログ「川代ノート」が人気を得る。天狼院書店スタッフとして働く傍ら、ブックライター・WEBライターとしても活動中。
メディア出演:雑誌『Hanako』/雑誌『日経おとなのOFF』/2017年1月、福岡天狼院店長時代にNHK Eテレ『人生デザインU-29』に、「書店店長・ライター」の主人公として出演。
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電話:03−6812−1984
*「WACCA池袋」の2Fです。WACCA池袋へのアクセス
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