スタッフ山中のつぶやき

ただ「居る」ことがこんなにも辛いとは思わなかった。《スタッフ山中のつぶやき》


記事:山中 菜摘(天狼院スタッフ)

なんだか、とてもそわそわする。

なんで今日に限って、スマホの充電を忘れてしまったのか。

読んでいた文庫本を読み切ったからと家に置いてきてしまったのか。
アイデアを書き留めるノートを持ってきたのはいいものの、書くためのペンのインクがなくなってしまったのか。

事前準備を怠った自分を悔やむものの、なすすべはなし。

長い時間電車に揺られながらやることがなくて、なにか、とても居心地の悪い。
みなさんも一度はこんな経験があるのではないでしょうか?

こんにちは、天狼院書店「湘南天狼院」店長の山中です。

#28歳独身女子#ブックカフェ店長#フリーカメラマン#湘南在住……etc 天狼院に勤めているうちに、おかげさまで様々な肩書きがつくようになりました。

ありがたいことに興味範囲が日々、広がっていくばかりですが笑 
そんな中で今回は#イベント・コミュニティ運営 強いては #店舗運営に大きなヒントを得た本をご紹介したいと思います。

私は現在、店の近くである湘南エリアに住んんでいるのですが、イベントの開催のために週に2回ほどは東京の店舗まで足を運んでいます。

約1時間半の移動時間は自分の時間。
いつもならば、スマホで動画を見たり、本を読んだり、何かしらをしながら過ごしているのですが、たまーにこんな手持ち無沙汰な状況になると、至福だったはずの自分の時間がなんとも言えず、苦行の時間になってしまいます。

何もすることがない!!となると
まずは掲示してある広告を一つ一つじっくり眺めてみたり。
車窓から見える景色の中から意味もなく赤い屋根のお家を探してみたり。
挙句、全然眠くないけれど目を閉じて、しばらく過ごしてみたり。

気がつけば何か「する」ことがないとどうも居心地が悪い。
ただ「居る」ということは実は、とてもとても難しいものなのかもしれません。

居るのはつらいよ: ケアとセラピーについての覚書東畑開人/著(医学書院)

  はそんな居心地を確保していくためには一体どうしたら良いのか。「する」と「いる」について、考えるきっかけとなる一冊でした。

「この本、最近読んだ中で一番面白かったかも」
と週に7冊も9冊も読む友人からおすすめされたのがこの作品。

ジャンルでいうと学術書で、普段まったく触れてこなかったジャンルに最初は腰が引けてしまいましたが、読み進めていくほどにその語り口の楽しさと、さすが学術書と言わんばかりの説得力にどんどんと引き込まれていきました。

主人公は著者である臨床心理学者の東畑開人さん。

彼が京都大学大学院を卒業して就職に苦戦するところから物語は始まります。(そうこれは学術書といいつつ、小説のようでエッセイのような物語なのです)
大学院を出たはいいもののなかなかの就職難。
なんとか、沖縄のデイサービスの臨床心理士として働くこととなります。

そこでのデイケアの経験から、「ケア」とは「セラピー」とは何かを読み解いていく。しかし、専門的なごく一部の話としてではなく、私たちみんながコミュニティの中で過ごしていく上での「居心地」について、いくつものヒントをもらうことができました。

「いる」がつらくなると、「する」を始める。逆を言うならば「いる」ためには。その場に慣れ、そこにいる人たちに安心して身を委ねられないといけない。(本書より)

居心地が悪いというと、私はいつもアルバイトを始めた頃のことを思い出します。

大学時代にやっていたアパレルのアルバイト。世のイメージ通りにいらっしゃませー! と声を大きく出しながらお客様へ接客をしていくお仕事だったのですが、最初の頃は緊張もしているし、話しかけるにも勝手わからないし、でも店頭には立っていなくてはいけなくて、何をしたらいいかもわからず、とにかく最初に教えたもらった服をたたむという業務をひたすらに繰り返していました。
少しでもズレてたらたたみ。
綺麗なものもまたわざわざ崩してたたみ。タタミ。tatami……。
ベテランの先輩が生き生きと働いている中で。自分だけが役立たずのように感じ、早く時間が経って退勤の時間になってほしいとと、服の袖を熱心に揃えながらそんなことばかり考えていました。
しかし、時間が経つにつれ、接客、在庫管理、レジ打ち、掃除など「する」ことができるようになればなるほど、その場は自分にとっても心地よい居場所となっていきました。何か怖さを感じていた先輩とも早々に打ち解け、数ヶ月も経てば大学を終えて早くバイトに行きたいとすら考えるようになっていました。

その場にただ「いる」と言う不安を拭うためにまずは「する」を始める。
これを繰り返していくうちにそのが自分の居場所となっていく。 

今は店長として、働く環境を整えていく立場ですが、お店で働くスタッフにとって天狼院が居心地の良いものにしていくためにはどうしたらよいかと日々考えています。

スタッフ一人一人一人ががその場に貢献しているという意識と、そこからの成功体験の繰り返してもらう。私がここにいないと!という良い意味で店舗に依存してもら状況を作ることがスタッフの居心地の良さに繋がってくるのかもしれません。
*もちろん、居心地が良すぎて「する(働く)」をしなくなってしまうことは問題! 働くという場所については適度な緊張感はやはり必要ですね。

誰かの助けることが、自分の助けになるということだ(本書より)

ここで、私の天狼院での試行錯誤の話を一つ。
立ち上げから7年で、今現在累計3300名様にご参加いただいている天狼院のフォト系イベントコミュニティ、フォト部ですが、私がその担当となった頃は参加人数まだま10名程度の出来立てほやほやのコミュニティでした。活動としては店の周りをカメラ好きで集まって写真を撮る。今でいうフォト散歩とよばれるイベントがメイン。
当時大学生インターンだった私はカメラを始めたばかりの超初心者。人に教わることはあっても、教えられるカメラの知識はほとんどありませんでした。それでも、参加される方の満足度はあげていきたい。その場をどんどん良い雰囲気にしていきたい。常連さん、5人。初参加5人。総勢10名程度で隔週行っていく中で、自分で教えるということはできなくても、初参加の方、常連の方それぞれ居心地が良い雰囲気にしていくためにはどうしたらよいかと考えを巡らせる中で、一つの方程式が見えてきました。

「Aさん!Bさんが同じメーカーのカメラ持ってますよ!どんなふうに撮れるか教えてあげてください!」
「Cさんってとっても素敵なお写真撮られてますね!Dさん、同じレンズ持ってましたけどどうですか?」
「Eさんお住まいお近くなんですね。Fさんもお近くでしたよね?おすすめの撮影スポットってどこかですかね」

会の中で「常連さん」×「初参加さん」の共通項を見つけて繋ぐ。
知っている方が知らない方に知識を「教える」「共有する」という状況をとにかく作るようにしていました。
そうすると自然と決まった人だけで固まるということがなくなり、会全体として満足度が高まってく感覚があったのです。

誰かを助けることで、自分の存在意義が見つかる。教えている側が昔は私もこうだったなと、教わる側に過去の自分を投影し、それを助けることで自分自身が助けられている。と本書では書かれていました。
もちろん、今はレベル別のクラスも多くありますが、1つのイベントに初心者の方からベテランの方まで混在する状況およびコミュニティにおいては、会の中で「常連さん」×「初参加さん」の共通項を見つけて繋ぐという意識は今でも私の中で大切にしています。(フォト部の方はヘラヘラしながらそんなこと考えてたのかと思われてしまいそう。すみません。笑)
運営する側が「教える」という一方的なべクトルだけではなく、お客様含めその場にいる人全員が他の誰かを助けられる状況を作り出す。それぞれのベクトルがそれぞれに向かう可能性を見出していくことが、コミュニティ、イベントの満足度を高めていくためには必要なのかもしれません。

これはケアをされたり、しながら生きている人たちについてのお話だ。あるいはケアをされたりする場所についてのお話だ。そう、それは「みんな」の話だと思うのだ。(本書より)

ケアとセラピー。一見専門的で私には関係のないことと思っていた分野でした。
しかし、家族、友人関係、職場など、自分自身、様々なコミュニティの中にいる中生きてくということは今までもこれからも変わりません。その場をを自分にとっての居場所とするためにはどうしたらよいか。
また、お店、コンユニティ、イベントという小さいながらも場を作り出し運営していく立場としても、
そこに「居る」人たちにそこを「居場所」としてもらうためにはこれからどんなことができるのか改めて考えていかなくてはいけませんね。

ps.と、そんなことを考えつつ、明日こそは

スマホの充電よし!
読みたい本もジャンル別に2冊カバンに入れた!
ノートもペンも万全!

そんな状況でも「する」とこがあるように、前日夜の指差し確認から初めていきたいと思います。笑



書籍詳細

居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書
シリーズケアをひらく東畑開人/著

出版社名 医学書院
出版年月 2019年2月
ISBNコード 978-4-260-03885-0
4-260-03885-0
税込価格 2,200円
頁数・縦 347P 21cm

 

 

❏プロフィール

山中菜摘(Natsumi Yamanaka)

神奈川県横浜市生まれ。
天狼院書店 「湘南天狼院」店長。SONYプロサポート会員。雑誌『READING LIFE』カメラマン。天狼院フォト部マネージャーとして様々なカメラマンに師事。天狼院書店スタッフとして働く傍ら、カメラマンとしても活動中。

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雑誌『Oz magazine』/雑誌『週刊文春』/雑誌『Hanako』/雑誌『月刊京都』など
WEB:ダイヤモンドオンライン/サントリーWEB/マガジンハウス/ことりっぷ/『&premium web』など

 

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