『プロフェッショナル仕事の流儀』宮崎駿 1000日の記録 新作誕生 知られざる舞台裏
チーム天狼院の榮田です。
通常、この天狼院書店は、店主・三浦がお送りしておりますが、
今後私たちチーム天狼院のメンバーも書かせていただきます、よろしくお願いいたします。
私が大好きな映画『風立ちぬ』。
主人公:堀越二郎氏のまっすぐな仕事と夢への情熱に、
そしてヒロイン菜穂子氏との切なく悲しくも美しい愛に何度も涙した映画です。
今日の『プロフェッショナル仕事の流儀』はその『風立ちぬ』特集だったので食い入るように見て、
宮崎監督の深い意図と覚悟を感じると、私はまたもや涙を流してしまいました・・・!
「戦争の道具をつくった人の映画をなぜつくるのか?」
『風立ちぬ』をつくるにあたり、宮崎監督は何度も周囲から聞かれたようです。
映画の中で、カプローニ氏が堀越氏に戦争の覚悟があるのか問うシーンがあります。
この時代に飛行機をつくるというのは呪われた仕事、その覚悟はあるのか?
堀越氏はカプローニ氏に言います。
「ぼくは美しい飛行機をつくりたいと思っています。」
これは、映画の中でも私が大きく感銘を受けたシーンのひとつです。
そこには、純粋な夢への情熱と、覚悟があると感じました。
それは、イコール「なぜこの映画をつくるのか」という問いへの宮崎監督自身の答えなのだと思います。
「この人たちにとって時代というのは戦争というのは選択できない、今と一緒です。」
「やっていることの意味なんてわかんない、やっているときはわかんないの。」
「ゼロ戦がどうのこうのっていう映画じゃない、どういう風に生きたかって言うのが大事。」
「なぜこの映画が難しいかという理由ならいくらでも出る。
結局自分がつくりたいからつくるんだという理由しかない。
アニメーションは子供に向けてつくるべきだ、これは完全に子供向けでないという葛藤。
自分が今まで持っていた方程式とのつじつまがあわなくなる。」
この映画はとても美しいと感じていましたが、その美しさは何から来るのだろう?と思っていた
疑問が私なりに晴れました。
純粋な情熱と覚悟、それが主人公堀越氏をはじめ、あの時代に生きている登場人物から感じられ、
そして何より実際にそれをつくっている宮崎監督自身がその純粋な情熱と覚悟を持ってこの映画をつくっているからなのだ、と。
そして、今回の『プロフェッショナル仕事の流儀』で私が心ゆさぶられたポイントが
もうひとつ。
宮崎監督と周囲との絶妙な関係性です。
まず、宮崎監督にこの『風立ちぬ』の映画化を打診した鈴木プロデューサー。
鈴木氏いわく、「宮崎監督はすごい人だった。その花がしぼむのはいや。」
「戦争を題材にしたらこの人どういう映画をつくるんだろうって。苦しんで葛藤するでしょ、そしたら若くなるんじゃないかなぁっていう。」
鈴木プロデューサーの本気を感じました。
そして、宮崎監督が「血を流しながら映画をつくるようだ」と評し、今回主人公堀越二郎氏の声優も務めた庵野秀明監督。
宮崎監督は『風立ちぬ』製作中に謎の体調不良が続いていましたが、時間がもったいないと病院に検査に行かなかったようです。
「 庵野にも言われたから。死ぬなら絵コンテを完成させてからにしてください、僕が映画を完成させるからって。」
そう言う宮崎監督の横顔はどこか楽しげに見えました。
それから、75歳を超えてもなお衰えを見せず精力的に次作:『竹取物語』の製作に取り組む高畑勲監督。
「パクさん、今頃どうしてるかな。」
今では良きライバルとしてお互い励ましあうということはないけれども、
宮崎監督が親しみを込めて「パクさん」と呼ぶ、その高畑監督の存在自体が心の支えとなっているようです。
もちろんこの映画を支えているのは、監督と一緒に限界まで追い込まれた総力戦で臨む精鋭のスタッフ陣。
2時間の映画で1,500カットを300人のスタッフが2年がかりで仕上げて行く。
市井の人たちをしっかり描くのが宮崎流。
「群集というのは、主人公じゃないどうしようもない人たちではなくて社会を支えている人々。」
地震後の混乱の群衆の4秒のカットは完成までに1年3ヶ月を要したそうです!
ああ、だからあんなにも生き生きとそれぞれ命を持った動きをしているんだ、ととても納得しました。
こうやって上に挙げた関係性だけでも、それぞれの人との信頼関係やそれぞれの覚悟を感じ取って感動したのですが、
きっと、この番組中に出てこなかったほかのたくさんの方とのつながり・ストーリーも加わって『風立ちぬ』は完成したのだと思うと
本当にそれは奇跡のような出来事だなと思いました。
「風立ちぬとは、
激しい風が吹いている、吹きすさんでいる
その中で生きなければいけない、そういう意味です。」
「映画ってつくっていないとさみしくなるの、またつくりたくなるんだ。」
製作中に何度も苦しみながらも、そう言って微笑む宮崎監督の姿が、映画の中の堀越二郎氏と重なりました。
私も情熱と覚悟を持って、チームで良い仕事をして行きたいと思いました。