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映画「引っ越し大名!」の高橋一生さんを見て私は(※一部ネタバレを含みます)


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記事:緒方愛実(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
なんだこいつは?
 
私はテレビの前で仁王立ちし、眉間に皺を入れて渋い顔をした。
目の前のテレビでは、ドラマ「凪のお暇」が映し出されいる。
人気漫画が原作のこのドラマは、第一話の放送が始まる前から、世間の注目度が高かった。私の一番の目的は主人公の凪を演じる女優の黒木華さんの姿を見ることだった。すばらしい演技力、やわらかい物腰と、知性と気品が滲む姿がとても好感を持て、女性としてもすばらしい人だと思っている。
しかし、ドラマが始まってみると、別の人物が視界をちらつく。
 
俳優の高橋一生さん演じる、凪の彼氏、いや元カレの慎二だ。
 
慎二という男、とにかく最低だ。プライドばかり高く、プレイボーイで女性を道具の様に扱う。女性の敵の様なやつだった。そして、第一話の終盤、凪さんを傷つけることをやらかす。
 
純情な凪さんをいじめるなんて、この男、ぶっとばしたい!
 
第二話以降は、仕事などが忙しく見ることはできなかったが、噂に聞く限り、やはり慎二は嫌な奴だった。
高橋一生さんと言えば、甘いマスクに、穏やかな物腰。表紙や特集が組まれれば、あっと言う間にその雑誌が書店から消える。世の女性を虜にする人気俳優、という情報しか私は知らず、今まで特に興味も持っていなかった。
 
その日、私はうきうきとした足取りで、映画館に向かっていた。
随分前から楽しみにしていた、映画「引っ越し大名!」をやっと見ることができるからだ。時代劇も好きだが、何たって、主人公の春之助を星野源さんが演じているのだ。
私は星野源さんが大好きだ。CDは新作が発売の度に購入している。今年のライブツアーに運よく当選し、生きて動く姿を肉眼で拝むことができた。あの落ち着いた声とやさしく弾むような歌詞がすてきだ。ライブ会場では、うれしくてうれしくて30分おきに、号泣していた。
彼は多才だ。俳優、声優、文筆家、多くの事に挑戦し、やり遂げている。人としても尊敬している。そして、今回久しぶりに俳優としての姿を拝むことができるのだ。
 
だが、少し不安なことがある。
 
映画の告知ポスターに、高橋一生さんの姿がある。
 
春之助の幼馴染、鷹村の役らしい。
「凪のお暇」の慎二のあの姿が脳裏をよぎる。嫌な予感がする。
 
映画が始まった。時は江戸時代。偉い方の命令で、姫路藩は国替えをしなければいけなくなった。一時の参勤交代ではない、藩士、その親族郎党全員が、遠く離れた別の県に引っ越す大事態。しかも、2か月ですべてを行わなければならない。失敗したら、即首が跳ねられる。それを取り仕切るよいう大役を担う引っ越し奉行。やりたい人などいるはずがない。
すると、城に務める鷹村に白羽の矢が立ってしまう。焦った鷹村はとっさに、書庫番を務める春之助の名前を出してしまった。
春之助は、大人しい書物好きの青年。一日中城の書庫にこもって、仕事をしながらお気に入りの軍記を読んで平和に暮らす引きこもり侍だ。
その春之助を、鷹村は書庫から文字通り引きずり出して、無理やり引っ越し奉行に仕立て上げるのだ。泣き叫びながら板張りの廊下を荷物のように引きずられ、最後には肩に担がれる成人男性。哀れすぎる。
 
おのれ、鷹村。春之助さんになんてことしてくれているんだ!
 
思わず、手の中のハンカチを、ギリギリと握りしめる。
鷹村という男、自分の保身のために幼馴染を売ったのだ。そして、天真爛漫な女好き。誰かと重なる。
 
こいつもイラっとするやつだ。
 
そう、高橋一生さんは、人をイラっとさせるダメな男の演技が大変上手い。
 
演劇は抹茶・オレだ。
俳優としての個性や演技力とその演じる役とのマリアージュ。俳優の我ばかりが目立てば、役の存在が消え失せて渋くなる。上っ面だけで役を演じれば、白々しくなり、観客は感情移入できず作品自体が薄くまずくなる。
どちらが多くても少なくてもいけない。絶妙なバランスで保たれている。
慎二も鷹村もこの世に存在しない。
物語の中にだけ生きている人物だ。
その幽霊のようなあいまいな存在に、俳優は自分の個性と演技力を肉づけることで、地に足がついた人物に仕立て上げるのだ。
私たちは、そんな架空の彼らが織りなす物語を見て、泣いたり笑ったり怒ったり、心を揺さぶられている。勇気づけられ、人生を変えられる人も中にはいるかもしれない。
 
私たちの心が動くのは、彼らが真剣に演じているからだ。
真摯に巧みに、やさしい人、馬鹿な人、嫌な人、怒りっぽい人、それぞれの役を、それぞれが実直に演じるからこそ、私たちの心に響く。どの役が欠けても物語は動かない。主演も助演もわき役も、どの人も大切な存在なのだ。
その才能は天性の物かもしれないし、努力の賜物かもしれない。
何て難しく尊い職業なのだろうか、俳優とは。
 
鷹村を演じる上で、高橋さんは、演技だけでなく、肉体強化にも力を入れたという。物
語終盤の戦い、彼は20㎏もの長槍を振り回して戦う。自身の体が吹き飛ばされそうな遠心力と闘いながら。
だが、軽やかに槍を使う姿からは、その苦労は微塵も見れない。
 
目の前にいるのは俳優、高橋一生ではない。
 
天真爛漫で、女好き、武芸の達人の鷹村だった。
不敵に笑う幼馴染に、笑顔で駆け寄る春之助もまたそこに存在したのだ。
 
実にあっぱれな抹茶・オレを私は飲み干した。
 
映画館を出た私は、実に困ってしまった。
また好きな俳優が増えてしまったかもしれないからだ。
好き、と認めたら最後、私の性格上どこまでも追いかけて、応援したくなるだろう。
次は、何曜日、どこの劇場で会えるだろうか、と。
だが、とても楽しみにしている自分がすでにいる時点で、もう認めている様なものだ。
とりあえず、映画のBlu-rayは必ず予約しよう。
何たって、大好きな俳優が二人も出演しているのだから。
 
そうそう、「凪のお暇」はテレビで、「引っ越し大名!」はまだ映画館で見ることができる。
 
イラっとして、笑って、泣いて、感動したい方はぜひ見て欲しい!
 
高橋一生さん、そして俳優のみなさん、
真面目で不真面目なお姿拝見できるのを、これからも楽しみにしております。
 
 
 
 
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2019-09-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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