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「真面目」と仲良くなるまで


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:後藤愛美(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「真面目だね」
 
そう言われるのが怖い。
 
私が中学校の頃通っていた学校は、学力レベルが低く、荒れていた。
一方、母親が塾の教師をやっていたこともあり、私は比較的勉強ができた。
テストでは毎回クラスでトップの成績。
そんな中、友人たちは公園にたむろっては、夜通し遊んでいた。
 
実は私も、その中に混じりたかった。みんなと一緒に、夜遊びをしたかった。
しかし、私の両親は厳しく、夜、外に遊びに行くことは許されていなかった。
 
その度言われるのは、
「ごとうさんは真面目だね」
という一言。
 
そう言われた瞬間、真面目である、頭が良い、という理由で見えない線を引かれ、あなたは私たちとは違うからと、距離を取られる気がしていた。
 
別に、特段いじめられていたわけでも、仲間はずれにされていたわけでもない。私自身も当時辛いと感じた記憶はない。
でも、そうやって線を引かれる感覚が、心の中では苦しかったのではないかと思う。
だって、その言葉を今になっても恐れているのだから。
 
高校は同じ学区の進学校に進学した。当たり前だが、学力レベルもみんな同じくらい。私より頑張って勉強している人、頭のいい人は山ほどいた。
 
それが、とても心地よかった。
 
中学の反動だったのか、私は一気に勉強をしなくなり、クラスで成績は下から数えたほうが早く、テストは毎回赤点。もはや0点を取ったこともある。
 
一方、部活はものすごく真面目に取り組んだ。
でも、そんな私を「真面目だね」という人も、「すごいね」、という人もいない。
 
真面目に頑張ることが、ちゃんと認められている場所。
私には、ものすごく居心地がよかった。
 
その後も、大学、新卒で入社した企業、その後転職したNGOと、とてもよい仲間と仕事に恵まれ、自分の真面目さを武器に、必死に目の前のことに取り組んだ。
 
しかし、日本からカンボジアのNGOに転職をして、拠点をカンボジアに移し、状況は変わった。
 
「真面目だね」
 
そう言われることが一気にまた、増えたのだ。
 
カンボジアにある、日本とはちがった独特のゆるやかさ。
家族や友人との時間を大切にし、「頑張りすぎない」カンボジア人の文化。
旅行客や旅人も多く、夜遅くまで遊んで、飲み明かす人たちもいた。
 
一方で、少しでも新しい環境に馴染もうと必死に頑張る自分。
関係を広げたいと飲み会に顔を出しても、テンションの高い周りの雰囲気にも馴染めない。
次第に、飲み会にも行かなくなった。
 
そんな私を見て、周りの人は、「真面目だね」と言う。
 
実際にその場にいた人が私のことをどう思っていたかはわからない。
でも、「真面目」だと言われるたび、相手は、私が話していることについてどう思ってるんだろうか。
こんな真面目な私といてもつまらないのではないだろうか。
そんなことを考えて、自分らしく振舞えない。
周囲の目に過剰に敏感になり、外に出るのも怖くなった。
 
あまりに苦しくて、辛くて、当時お世話になっていたコーチに相談した。
 
その人は、私が日本で働いていた時から話を聞いてくれていた人で、私の真面目さや、その他の性格をよく知ってくれている人だった。
一気にこれまでのことを話すと、落ち着いた声で、こう言ってくれた。
 
「うん、お前が真面目なのはよぉく知ってる。
でも、真面目で面白くない、と思っているあなたは、真面目だけど素直で、たくさんの人にすごくおもしろいと思われていて、愛されていると思うよ」
 
落ち着いた声で、ずばっと、そう言われた。
数秒たって、涙が出た。
 
「高校、大学、前職を思い出してみなさい。
友達はみんな、お前が真面目だから付き合ってたの?違うでしょう。
他にもたくさんいいところがあって、お前と仲良くしてくれていたんだろう。もちろんお前の真面目さも含めて。
それをちゃんと受け入れないと、これまでよくしてくれてた人にも失礼だよ」
 
心の中に、言葉が深く残った。
 
そう言われた夜、過去の写真を、夜中中眺めていた。
これまで仕事でお世話になった人たち。何気ないことで爆笑して、いつでも楽しく過ごせる友達。そして、どんな時でも自分らしく、素のままでいられる家族。
 
言われた通りだった。
 
自分の周りの人たちは、ありのままの自分を愛してくれていた。
もちろん、私の真面目な部分も含めて。
 
別に、そのままでいいのかもしれない。
それが自分の正直な姿で、別に変わろうとしなくても、いいのかもしれない。
そう思うと、少し気持ちも落ち着いた。
 
今でも、真面目だねと言われるたび、びくっとすることはある。
でも、その度に大切な人の顔を思い浮かべては、大丈夫、と心を落ち着ける。
 
そうすると、不思議と人と話すのも怖くない。
そんな風に、力を抜くと、その場も楽しめる。
なんだ、別に、相手は線を引いてるわけじゃないんだ。
自分が反応して、勝手に線を引いてただけだったんだ。
 
そう気付いてからは、「真面目」な自分と、少し仲良くなれた気がする。
 
でもやっぱり、もう少し真面目な自分じゃなかったら良かったのに、と思う時ももちろんある。
 
そう思うけど、根が真面目な自分は、もう変えられない。
むしろ、自分が真面目だからできたこと、出会えた人、感じられたこともたくさんある。見方を変えると、真面目も自分の大切な一部で、私にとってはなくてはならない部分。
 
きっと誰しもが、自分の好きになれない部分を持っているのではないかと思う。でも、それも、自分を構成する大切な一部。
そんな自分をもっともっと愛して、より仲良く、気持ち良く、毎日を過ごしていきたい。
 
 
 
 
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2019-09-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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