メディアグランプリ

不測の事態はいつやってくるか分からない


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記事:鹿内智治(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「え! それ! オレの下着かも」
「どうしよう。なんて言えばこの人は快く脱いでくれるか?」
 
先日、家族で栃木県の那須に旅行に行った。
子どもを連れて、子どもからお年寄りまで幅広い人気のあるホテルでそれは起った。
6歳の息子と大浴場に行って、気持ちよく汗を流して、「ふー!」と言いながら、脱衣所に戻ってきたときである。
 
私が脱いだ浴衣と、タオルが無くなっていたのである。
見間違いかと思った。
他の棚を見てみたけれども、自分が置いた場所に、何もかも無くなっていたのだ。
 
もの盗りかと思った。
最悪、もの盗りだとしても、盗られたものは、ホテルの浴衣とタオル、それに下着とカードキーのみなので、大した被害ではない。
カードキーはフロントに連絡すれば、すぐに使えなくできるだろうから、困るほどのことでもないと思った。
でも、それをフロントに伝えるにも、今は裸なので、どうすることもできない。
 
息子は服を別の棚に置いてあって、盗られずにすんだ。
でもタオルは私の棚に入れていて、盗られたようで、タオルで息子の体を拭けず、どうしようかと、焦っていた。
 
そのときたまたま、私の後ろで着替える、見知らぬおじいさんが目に入った。
どうやらそのおじいさんは、風呂から上がって、もう浴衣を着終わるところだった。
パッと、そのおじいさんの足元を見た。
私がバスタオルを入れてきた袋に似た袋が置いてあったのだ。
特徴のない普通のビニール袋。
私が入れてきたバスタオルが袋に入っているように思った。
 
「もしや、うちにバスタオルかも?」
 
ただ絶対の自信はない。
どう聞けば、相手に悪い気を持たれずに、袋の中の見せてもらえるか?
考えたが、ストレ―トに聞いてみたら、おじいさんは自分だと答えた。
 
それはウソだと思った。私が入れたタオルだと思った。
厚みからして2枚は入っている。私と息子の分である。おじいさんが2枚持ってくるはずない。おじいさんに付き添いの人は見当たらない。
おじいさんの受け答えから、少し痴呆症があるのかもと思った。
 
疑うのは申し訳ないと思ったが、このまま裸ではどうにもできない。
思い切って、さらに聞いてみた。
 
「この袋、私が持ってきたものに似ているので、中を見てもいいですか?」
「ああ、いいけど、私のだと思うよ」
 
もしこれで、私のものではなかった場合、クレームを言われて、大変なことになるかもしれないリスクはあった。
そんな最悪の場合を想定して、ドキドキしながら、袋からものを出した。
そうしたら、私がさっき乱雑に入れたタオルが入っていたのだった。
しかも、2人分入っていた。
おじいさんに、2枚持ってきたのかと聞いたら、それはないと言った。
タオルは「私が持ってきたもの」と認定されて戻ってきた。
 
ただ、袋に入れたはずの下着がない。
ユニクロのTシャツとボクサーパンツである。
どこにいったのか? おじいさんの側に落ちていない。
ということは…。
想像したくなかったが、おじいさんが着ているかもれない。
おじいさんの浴衣から見えるシャツの色は白。私の持ってきたTシャツも白。
白だけでは確信が持てない。
 
もう、おじいさんにパンツを見せもらうしかない。
勇気してお願いして、おじいさんのズボンを下ろさせてもらった。
そうしたら、私がもってきたグレーのボクサーパンツを履いていたのだった。
 
「これ私のです、おじいちゃん」
「ああ、そうなのかい。すまないね。最近健忘がひどくてね」
 
おじいちゃんには全て脱いでもらって、私のものは救出された。
 
じゃあ、おじいちゃんの着替えはどこに?
子どもが、おじいちゃんの手につけたロッカーの鍵に気付いた。
私も気付いて、その鍵で、番号のロッカーを開けてみたら、おじいちゃんの着替えが入っていたのだ。
 
ホッとした。ひとまず一件落着になった。
でも、少し悲しそうなおじいさんの顔が忘れられない。
 
それにしても、とても焦った。
まさか持ってきたものが全てなくなると一度でも思うとは。
 
普段の生活では、高齢化社会を感じることはまずないが、こうして体験すると、身近にあることを痛感させられる。
相手は悪気がないだけに、どう話を進めたらいいかとても迷う。
徐々に論理的に言えばいいのか?
最初にはっきりと間違っていることを伝えた方がいいのか?
相手に悪い気をさせず、混乱して怒りだしたりしないようにはどうしたらいいのか?
それは、優しく話しかけるのが最も良い方法だと思ったのである。
 
今回はたまたま着替えている途中だったから助かったが、もしそのまま着て部屋に戻られたらどうしようもなかったと思ったのである。
当たり前だが、これからは鍵のかかるロッカーにちゃんと入れよう。
ロッカーがないならば、誰にでも分かる目印を付けておこうと思った。
そして、万が一、盗られたときの連絡をどうするのかを考えてから風呂に入ろうと思ったのである。
不測の事態はいつやってくるか分からないのだから。
 
 
 
 
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2019-10-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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