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「おもてなし」とは心のシャッターを開けること


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:深谷百合子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
その日私は中国から一時帰国して、日本の百貨店の化粧品売場にいた。中国人の友人から頼まれた化粧品を買うためだ。
そのブランドの商品が陳列されている場所に行くと、頼まれたのと似たようなクリームが有る。しかし、名前が微妙に違う。これとは違うのだろうか? 私は友人から送られてきた写真を見ながら近くにいた店員に声をかけた。
 
店内は三連休の初日でごった返していた。店員は「順番にご案内しておりますので」と言って、番号を書いた1枚のカードを私に手渡した。「え? ちょっと聞きたかっただけなのに、順番待ちかぁ」と、少し不満を抱えながら待つことにした。確かにどの店員も皆、接客中で忙しそうだ。
 
その辺にある商品をぼんやり見ながら待っていると、向かい側から中国語が聞こえてきた。店員に何かを聞いているようだ。次の瞬間、店員は困惑した表情を浮かべ、ずっと先の方向を指さしながら「Chinese, information center」と答えた。「その場所へ行けば、中国語が分かる人が居るから、そこで聞いて下さい」という意味なのだろう。しかし、中国人の彼女には伝わっていない。店員は待たせている他の客の案内もしないといけないのだろう、少し焦っている様子だ。中国人の彼女も自分の聞きたいことが聞けずに困っている。
 
どうしようか? 私は少しだけ中国語ができる。うまく対応できるかどうかはわからないが、ここは声をかけるべきかもしれない。私はちょっと勇気を出して、「お手伝いしましょうか?」と中国語で声をかけた。聞いてみると、どうやら渡されたカードの意味が分からなかったようだ。カードには小さく中国語で説明も書かれているが、そもそも中国ではそんな習慣はないから理解できなかったのだろう。
 
中国では、店員が他の人の接客をしている最中でも、自分が聞きたいことがあれば割り込んで気軽に聞くことが多い。店員も気軽に応対する。その間待たされる他の客も、別に文句は言わない。だから、それと同じノリで、日本に来ても接客中の店員に声をかけるということが多いのかもしれない。うがった見方をすれば、この順番待ちカードは、そんな「日本人にとっては迷惑な行為」の対応策なのかもしれない。
 
「あなたも順番を待っているの?」と聞かれ、「そうです」と言いながら私のカードを見せると、彼女は少し顔をしかめながら「仕方ないね」と答えた。私はそのしかめっ面を見ながら、彼女の日本に対する印象が悪くならなければよいが……と複雑な気持ちがした。
 
とかく私たち日本人は外国語に対して自信がない。学校で何年も習った英語ですら、街で不意に話しかけられたら逃げ腰になる。英語以外の言語だったら、尚更だ。最初から「わからないから」と言って心のシャッターを閉ざす。
 
私だってそうだ。もしも、あの化粧品売場で困っていたのが韓国人だったとしたら? 私は韓国語を知らないし、文字だって書けない。お手上げだ。「どうせ聞いてもわからないし、答えられない」、そう思って見て見ぬ振りをしただろう。
 
でも、「どうせ聞いてもわからない」というのは、実は思い込みに過ぎない。ひょっとしたら片言の英語でも理解し合えるかもしれないし、商品の写真を見ればわかるかもしれない。翻訳アプリを使って用が足せる可能性もあるのだ。ところが、そこまで思いが至らずに「あー、無理無理」と思ってしまう。その時に考えていることは「自分は〇〇語はわからない」という「自分」のことだけだ。この人はどうしたいのだろう? という「相手」のことは考えていない。
 
あの日の化粧品売場の店員も、急に中国語で話しかけられて動揺したのだろう。けれど、もし、「私は中国語はわからないから」と心のシャッターを閉ざさずに、「何かできることは無いか?」とか「とりあえず、聞いてみよう」と思って一歩踏み出すことができていたら、違った対応ができたかもしれない。例えば、中国人の質問に対応できる人がいるインフォメーションセンターまで連れて行くとか、図を描いて説明するとか、あるいは、中国人の彼女が買いたいと思っている商品の写真を見せてもらって先に用件を理解しておくとか、困っていた彼女のために何かできたかもしれないのだ。
 
「おもてなし」とは何だろう? 行き届いたサービスのこと? 確かにそれもあるかもしれない。でも、「おもてなし」の根底にあるのは、相手の気持ちを推し量り、相手が期待していることを考え、相手の期待以上に応えることだと私は思っている。自分が相手の言葉を理解できないからという理由だけで、その人のために行動を起こせないというのは、何とも残念なことではないか。
 
困っている外国人を見たら、たとえ言葉がわからなくても、勇気を出して心のシャッターを開け、相手の気持ちを聞こうとすること、そして何とかして伝えようと努力してみよう。上手く伝わらなかったとしても構わない。見知らぬ土地で自分のために一生懸命になってくれた人が居たということこそが、相手にとっては忘れ難い思い出になるのだから。
 
 
 
 
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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2019-10-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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