メディアグランプリ

GAFAという新しい神様


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記事:かもめ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
経営の神様といえば、松下幸之助。かつて、そのような時代があった。
幸之助は、冷蔵庫や洗濯機といった白物家電を普及させたことにより、松下電器産業株式会社を世界的な大企業に成長させ、そして何よりも、世界中の奥様方を家事労働から解放した。
幸之助は、寒い冬の中、母親が、あかぎれた手でたらいに水をため、洗濯をしている姿を見て、楽させてあげたい一心で、家電の開発、普及に取り組んだという。そして、幸之助の想いは、世界中で受け入れられることになった。
自らの出世欲ではなく、母親に対する思いやりから出発した志は、成功することが予定されていたともいえよう。
 
そして時代は変わり、GAFAを始めとする巨大IT企業が世界中を席巻している。その影響力は、日常の隅々にまで行き渡っている。
例えばこんな具合だ。
 
先日、私は、歩行中にタクシーにはねられるという交通事故に遭い、膝の手術をすることになった。
幸い、手術自体は成功し、2日後には退院できることになった。
手術直後なので、膝は半分くらいしか曲げることはできないが、松葉杖をついてタクシーに乗れば、何とか家に辿り着くことはできそうだ。
さて、入院中は、看護師さんに体を拭いてもらうとしても、家に帰ったら、どうやってお風呂に入ればよいのだろう。私は、包帯でぐるぐる巻きになった膝を見ながら、風呂場で悪戦苦闘する自分を想像した。まだ動きの悪い足を風呂の縁にかけて、患部を濡らさないように入るのだろうか。
 
困ったときのGoogle先生。
私は、ベッドで横になりながら、apple社のアイフォン片手に「膝 手術 風呂」と入力した。
すると、Amazon社のHPに、「膝カバー」がヒットした。私は、早速、ワンクリックして「膝カバー」を購入した。
 
2日後、退院して自宅に着くと、すでに、膝カバーが自宅に届いていた。
私は、早速、膝カバーを装着して温かい風呂に入った。膝カバーは、ビニールでできた大きな靴下のような形をしていて、これを履いてそのまま風呂に入るのだ。膝の上の辺りが、柔らかいシリコンでキュッと締められて、全くお湯が入ってこない構造になっているのだ。
私は、退院したその日から、普通にお風呂に入ることができた。
入院した経験を持つ人ならわかってもらえると思うが、怪我や病から回復する過程は、普通のことができるということが、最高の喜びとなる。
私は、湯布院の温泉に入るよりも、最幸の気分を味わうことができた。
Amazon社のおかげである。
私は、この感動を伝えたくて、思わずFacebookに投稿してしまった。
回復を祈念する励ましのコメントが多数寄せられたことは言うまでもない。
 
便利になり過ぎることに対する警戒や批判もあるだろう。人間がAIに支配されてしまうのではないかとか、ビッグデータが知らぬ間に利用されていたり、独占企業の思うままに生活が変えられてしまうのではないか等々。
しかし、近所のドラッグストアに「膝カバー」など売っていない。GAFAの助けを借りなければ、独力で「膝カバー」に辿り着くことはできなかっただろうし、惨めな格好で、苦痛を味わいながら風呂に入っていたことは疑いようがないことだ。
私は、このとき、時代の流れに着いていこうと決心した。
 
音楽の世界でも同じようなことが言えるかもしれない。
今どきの若者は、もはやCDなど買わない。音楽アプリからダウンロードして聞くか、ユーチューブで無料で聞いてしまっている。
中年のおじさんの書斎を占領しているCDコレクションなど、もはや何の価値もないのだ。おじさんのコレクションのほとんど全てが、女子高生のスマホアプリの中に入っている。
実際に、Amazonミュージックをダウンロードしてみると、少し使ってみるだけで、たちまち私の選曲の傾向を把握し、私好みの曲を薦めてくれる。
そうそう、これを聞きたかったのだよ。
自力でCDショップを探したとしても、到底見つけることが困難な曲。AIは、いとも簡単にやってのけてくれる。
 
確かに、少し怖い気もする。新しいものは魅力的だが、未知なるリスクがある。
かつてソニーのウォークマンを使うと自閉症になる、などと言われていた頃もあったように、古い世代ほど、新しいものを警戒し、排除する理屈を考えようとする傾向がある。
しかし、私はあえてGAFAを肯定しようと思う。
松下幸之助が、白物家電を普及させ、世界中の主婦を家事労働から解放したように、私にとって、GAFAは、生活を劇的に改善させるツールを次々と提供してくれているのだ。
少なくとも、退院後、至福の湯に入らせてくれたGAFAの功績を否定する気にはなれない。
ときには温故知新も必要かもしれないし、アナログが価値を持つこともあるだろう。
しかし、時代が変化している今、私は、新しい神を受け入れる方向に舵を切ろうと思う。
 
 
 
 
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2019-10-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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