メディアグランプリ

コーンスープと私


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:大内礼子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「明日人生が終わるとしたら、最後に何を食べるか」問題について、あなたは迷いのない答えをお持ちだろうか?
 
不定期にやってくるこの質問に、私は長い間スパッと答えることができず、その場しのぎの答えを繰り返していた。
ある時は「おばあちゃんの作った卵焼き」と答え、おばあちゃんっ子をアピールし、
ある時は「卵かけご飯」と答え、シンプルなものへのこだわりを装い、
ある時は「ステーキ」と答え、高級食材への憧れを全開にした。
 
いずれも好きは料理ではあるものの、その場でなんとなく思いついた答えに過ぎず、これを食べて人生を〆るというレベルには至らなかった。
 
しかし、今月、ついに迷いのない答えに辿り着いた。
それが「コーンスープ」である。
 
答えに辿り着くキッカケは、突然やって来た。
 
「お土産はコーンスープがいい。私、小さい頃からコーンスープが大好きだから」
と、北海道のお土産をリクエストしたときの自分の一言。これが、コーンスープと私の関係を改めて考えるキッカケとなった。
 
コーンスープとの出会いは、幼少時代に遡る。
当時私は、自宅から少し離れたところにある幼稚園に、スクールバスで通っていた。
土曜日など幼稚園が早く終わる日は、母が車で迎えに来てくれた。お迎えの日は、近くのレストランに寄り道して、2人でランチを食べて帰るのがいつものパターン。そこは、ハンバーグが美味しい洋食レストランで、時々家族でディナーを食べに行く場所だった。
 
早生まれだった私は、同学年の中でも一番体が小さかった。食も細かったため、ハンバーグを一人前食べきることは難しく、いつも母からシェアしてもらっていた。その代わりに、毎回注文していたのが「コーンスープ」だ。レストランのコーンスープは、濃厚で、甘くて、とても美味しかった。少食の私でも、ペロリと食べきることができた。
いつもは父と母と姉と来るレストランに、母と2人こっそりやって来て、美味しいコーンスープをいただく。父や姉は知らない、母と私2人だけの秘密だ。何とも言えない特別感があった。
 
それ以降、大人になってからも、コーンスープを良く飲んでいる。
例えば、仕事場のデスク隣にある袖机の一番下の引き出しには、お湯を注ぐだけで飲めるタイプのコーンスープを3個常備している。これらは、仕事中に小腹が空いたときの楽しみだ。
今年の夏は、豆乳入りの冷たいコーンスープにハマっており、近所のナチュラルローソンに売ってる200mlパックを大人買いしていた。仕事に行く前に1パック、仕事から戻ったら1パック飲むのがスタンダード。疲れて帰った夜には、贅沢に2パックを一気に飲み干す。これは、がんばった自分へのご褒美だ。
 
今まで、意識せずに飲んでいたコーンスープだが、こうして振り返ると、コーンスープに対して他の食べ物にはない感情を持っていることに気がつく。
私がコーンスープを飲むと、どんな時でも「特別感」に満たされる。それは、幼い頃に美味しいスープを母と2人だけで味わった秘密の時間のように。
 
仕事中にコーンスープにお湯を注ぎ、甘く広がる香りを楽しみ、一口飲んだ後の特別感。冷蔵庫に入っているコーンスープを楽しみにしながら帰路につき、「待ってました!」と言わんばかりに飲み干す時の特別感。
ちょっと大変だな、疲れたな、と思う時でも、コーンスープを飲めば思わず「ムフフッ」と笑顔になってしまう。
 
これは、コーンスープをフックにして、幼い頃に味わった「特別感」が蘇るからだ。実に、不思議な現象。
コーンスープは、どんな時でも「特別感」を呼び起こすてくれる。味が美味しいとか、豪華だとか、そういうレベルを超えていてる存在。
私にとってコーンスープは、「特別感」を演出するスイッチなのだ。
 
「明日人生が終わるとしたら、最後に何を食べるか」問題は、単純に料理について質問をしている訳ではなく、その料理と共にある感情への質問なのかもしれない。
 
私たちは、料理を食べながら、様々な感情を抱く。
それは、母親のお味噌汁を飲んでホッとした気持ちになったり、旅先のご当地メニューを食べてその土地が好きになったり、山の頂上でカップラーメンを食べながら登山の達成感をかみしめたり。
そうした感情は記憶されていき、「この料理を食べると、○○な気持ちになる」といった料理と感情のセットが少しずつストックされていく。
 
「明日人生が終わるとしたら、最後に何を食べるか」という質問は、「明日人生が終わるとしたら、あなたのストックの中のどのセットで人生を〆たいか」という事を聞いているのだと思う。
 
迷いのない答えを持っている人は、人生の最後をどんな感情で過ごしたいかを分かっている人なのかもしれない。
 
私は、コーンスープを味わいながら、かつて母と過ごした時間に感じたような、温かくて、幸せで、愛されてる特別感を噛み締めて「ムフフッ」と笑って人生を〆たい。
だから、私の答えは「コーンスープ」なのだ。
 
先日、北海道土産として、6種類ものコーンスープが届いた。
東京では見たこともない、こだわりの商品ばかりだ。私は、その中から「十勝で育ったとうもろこしのスープ」を手に取り火にかけた。その味は、濃厚で、甘くて、とても美味しかった。
北海道から戻ってきたパートナーと共に過ごす、特別感のある土曜日のブランチとなった。
コーンスープへの思いを再確認できた私は、何だか幸福度が高まった気がしている。
お土産のコーンスープは、まだ5種類も残っている。考えるだけで、「ムフフッ」が止まらない。
 
 
 
 
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2019-11-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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