メディアグランプリ

しーちゃん、こころから


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:菅原ともえ(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「さぼりたいならさぼればいい。でも、私は絶対にさぼらない」
 
グループでの課題提出は、学生時代に誰もが経験しているだろう。
もしくは、合唱コンクールの放課後練習。
もしくは、教室の掃除当番。
 
「みんなで協力して達成しましょう」という意図のもと、他人とともに何かを終わらせなければならない時。
集団の中に、必ずと言っていいほど「ばっくれる」やつがいなかっただろうか。
 
学生時代はどちらかと言えば「やりたくないこと」を「やらない」選択がしやすい時期ではないかと思う。
グループ課題に協力しなくても、合唱コンクールの練習に参加しなくても、掃除をやらなくても、それが直接通信簿に影響することはない。社会人のように給料が下がる訳でもない。
 
自分以外の誰かが頑張ってくれるだろう。
そうやって、ひとりでもばっくれるやつが現れると、途端にまじめに作業をするのがあほらしくなる。
 
「なんで私たちばかり、やりたくないことをしなきゃいけないの?」
「あの子もさぼってるし、私たちも帰っちゃおう」
「誰も見てないし、ばれたとしても、悪いのは私たちだけじゃないでしょ」
 
周りから、そうささやかれたこともあるんじゃないだろうか。
 
しかし、私の姉はそういう場に直面しても、周囲の甘いささやきを、ぴしゃりと一蹴するようなひとだった。
 
「あとで絶対後悔するから」
 
そう付け加えて、自分ばかり損をしたくないとワアワア騒ぐ友人を尻目に、もくもくと作業に取りかかるひとなのだ。
 
私と姉は、年子ということもあり、背丈も顔面もよく似ていた。
小さい頃の写真はほとんど2人セットだ。母が作ったおそろいの洋服に身をつつみ、おそろいの髪型をして、同じ表情で寄り添っている。
 
外見だけは鏡のような姉妹だったが、性格はあまり似ていなかった。
 
幼い頃、使っていた子供部屋をふたりで片付けるよう言われた日(と言っても、たぶん散らかしたのは私ひとりだ)、いざ一緒に掃除をはじめようと立ち上がった瞬間、私はトイレに駆け込んだ。そこでしばらく時間をつぶし、姉がひとりで片付けを終えた頃合いを見て、しれっと部屋に戻る。そんなことを何回かやった。
 
最初は特に気にしていなかった姉も、私がトイレに行きたくなったふりをして逃げていたことに気付いたらしく、しこたま怒られた。
その後たしか殴り合いのケンカに発展したが、どう考えても100%私が悪かった。
 
ちびまる子ちゃんの、お姉ちゃんとまる子。
となりのトトロの、サツキとメイ。
 
そう、父や母に例えられるたび、「ははあ、なるほど、うまいこと言うなあ」と思う。
 
私はまる子のように、ぐうたらで、横着で、こずるい妹だった。
そしてメイのように泣き虫で、どこに行くのにも、姉の後ろにくっついて歩いていた。
できれば損をしたくないし、やりたくないことは、できるだけばっくれたい。
部活も、進学も、姉の歩いた道を参考にしながら、無意識に損をしない方を選んできた。
 
そんな私と、姉の性格は対照的だった。
姉は誠実で、しっかりもので、自分に厳しい。
泣き虫なのは一緒だが、誰かに頼らず、自分の意志で道を切り開いていくようなひとだった。
 
周りに「ばっくれるひと」がいたとしても、自分も同じようにしてもいいとは思わない。
姉にとって、それは自分の行動の理由にはならない。
とは言え、あの人ばかり楽をしてずるいとか、自分だってやりたくないとか、感じることはあると思う。
それでもきっと、先の罪悪感を必ず想像する。
 
「あの時、ちゃんとやれば良かった」
 
姉はきっと、良心の呵責に敏感で、悪いことをしてはいけないとか、まじめに生きなければいけないとか、そういう「正論」で行動を決めるひとなのだ。
うしろめたさを感じるようなことは、最初からしない。
そうやってきっと今まで生きてきたし、これからも生きていくのだと思う。
 
だけど、ばっくれたいひとからすれば、そんな正論ばかり言う人間はつまらないかもしれない。
正義感が強すぎる部分を、うっとおしく思うかもしれない。そういうひとから、もしかしたら攻撃されるかもしれない。
でもいじっぱりだから、頼りたいときに頼りたいって言えなくて、ひとりで抱え込むかもしれない。
 
私は、まじめすぎてあまり要領のよくない姉が生きる世界を、想像しては不安になっていた。
 
そんなある日、姉が恋人として紹介してくれたのは、朗らかで、背が高くて大きいくまさんみたいな男のひとだった。
 
一緒にスノーボードに行った日、二日酔いでげろげろだったほぼ初対面の私に、合流早々しじみのカップ味噌汁を差し出してくれた。
約束しておきながら前日飲みすぎた私に呆れるでもなく、「二日酔いには味噌汁がいちばんなんで!」とにこにこ笑いながら、わざわざ近くのコンビニで購入して、お湯を入れておいてくれたのだ。
 
こんな、気遣いのかたまりみたいな男が存在するのか、と思った。
しかも、そんなすてきなひとが、姉の恋人だ。
 
3人でスノーボードを楽しんで、お蕎麦を食べて、足湯に浸かった。
帰りに運転席と助手席で笑いながら仲良くしりとりをしているふたりを見て、私は後部座席に沈みながら、こころからよかった、と思った。
 
他人や自分に嘘をつけず、きっとたくさんの苦労をしてきた姉の恋人が、こんなにもあたたかいひとでよかった。
誠実で不器用な姉を、選んでくれてよかった。
自分に厳しく、甘えられない姉を、やさしく包み込んでくれるひとでよかった。
ふたりが幸せそうで、ほんとうに、よかった。
 
2019年9月8日、姉が入籍した。
もちろん相手はくまさんだ。
 
これから、ふたりは新しい道を一緒に歩いていく。
夫婦になるから、もしかしたらぶつかることもあるかもしれないけれど、
ふたりならきっと、大丈夫だ。
 
年子だから、ずっと近くにいたから、友達みたいに育ったから、
なんだか気恥ずかしくて、やっぱり「お姉ちゃん」って呼べないけれど。
 
これからもずっと、あなたは私の自慢の姉です。
しーちゃん、こころから、結婚おめでとう。
 
 
 
 
***
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 
http://tenro-in.com/zemi/102023
 

天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


2019-11-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事