メディアグランプリ

憧れの先輩は5歳


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記事:umi ライティングゼミ日曜コース
 
 
あこがれ。
こんな風になりたいなあ、と思う先輩はいますか?
これまで、あまり身近に生き方の手本、特に同性の憧れの先輩がいなかった私だが、いま、こんな風に生きれたらいいなあ、と思う先輩いる。
 
Aさんは、ある分野では有名な女性の方で、80歳を超えた現在も、全国各地での講演会、執筆活動にと毎日忙しくされている方。
それまでに数回お会いしただけのAさんと海外のセミナーでご一緒させていただいたのが数年前のことだ。
行きの成田空港での待ち合わせから滞在中、まさに寝食共にすごした6日間、少女のようなこの女性から沢山の事を学ばせてもらった。
失礼な言い方だが、このお歳、それもご自身の専門分野では大家である方なのに、まったく別の分野のセミナーに参加して学ぶことを続けている、それも海外でという事は、それだけでも尊敬する生き方だが、Aさん、私と同い年の友達Tさん、そして私、3人のこの旅はまさに珍道中で、毎日いろいろな事があり、セミナーの内容ももちろん素晴らしかったのだが、セミナーの時間以外も忘れられない旅になった。
 
まず、行きの飛行機が目的地の空港に到着したところから、事は始まった。
Aさんは、パスポートの写真が本人と違うと入国審査で引っかかり、頼まれて成田の免税店で買っていった煙草は本数制限で没収され、宿泊先のホテルについてチェックインする際にはパスポートの提示を求められたのに見つからないと大騒ぎ。
トラブルは難なく回避できたのだが、コンドミニアムの部屋に到着するまでに、Aさんのトラブルに私もTさんも、ぐったり、先が思いやられた。
しかし、これは序章にすぎず、ここからAさん台風に巻き込まれたかのような濃厚な数日間が始まったのだった。
 
最初は、大先輩だし、私たちもそれなりに気遣いをしていたのだが、Aさんの自由奔放さに、たびたび絶句することも続いた。
 
セミナー会場は宿泊先の部屋から歩いて15分ほど、緑に囲まれたなだらかな坂道。「荷物持ってもう歩けないわ~」というAさんの荷物を持って、十メートルほど先に歩いていると、「猫がいたの~」と、どう見てもAさんの荷物より数倍重いであろう3歳児くらいの重さのありそうな、大きな猫を抱えて嬉しそうにスタスタ歩いて私たちに見せに来たこと。
その日のセミナーが終わって帰るのにAさんを、何人かで行ったり来たりして探していると、自分だけセミナー講師と嬉しそうにハグ。
1年くらい前から始めたらしいスマホは、歩いていても突然立ち止まって、後ろを歩いている誰かの邪魔になろうとも、気にせず止まって操作し始める。
他にも毎日いろいろな事があったのだが、あまりにもAさん台風の暴風に巻き込まれるような事が続くので、これは同じセミナー受講者の友人とか年齢的に先輩という立ち位置ではなく、いっそ子供、それも5歳の子供としてみてみようと思ったのである。
子供だったら腹も立たないし。
 
そんな視点で見ていたら、Aさんには、自分と他人を分ける壁がない、今現在を楽しんでいる、という事に気が付いた。
大人になると他人優先で自分の事をないがしろにしたり、人に気を使って自分の意見も遠慮したりという事が、ある意味美徳のようになる事もあるけれど、この人にはそれが無い。
周りに気を取られて好きなものに集中できないという事が無いから、大好きな動物たちとも会話をしているように場をつくることができるのか、沢山いた鳥や猫も、Aさんが見ているとじっと動きを止めて見つめあうところを何度も目撃した。
また、道がわからなくて戸惑っていると、すぐ横を通り過ぎる見ず知らずの人の腕を取って片言の英語で話しかける。私だったらまず、親切そうな人を見つけてから、とするところだけれど、Aさんにはその躊躇するところが無い。でも、不思議とみんなが親切に対応してくれる。
アイスクリームも一人だけダブルで頼む。
ごはんも誰よりも沢山食べる。
外国人ばかりの海外クラス、言葉が通じない人とも楽しそうにコミュニケーションをとっている。
入ったレストランで、見ず知らずの外国人の人達を会話に巻き込む。
私たちが寝た後も、遅くまでゴソゴソ自分の部屋で何かしている。
誰よりも話し好きで、朝から次から次へと、出かける時間だよって言わないと終わらないくらいいろいろな話が出てくる。その内容も、著名人や有名企業との交友関係や仕事の関わりが幅広い方なので面白い話ばかり。
 
本来、子供って好きなものは好きと言うし、何か楽しい事をしているとそこに集中できる、他人より自分優先で自分を2番目にする事なんてない、欲しいものは欲しいという、遠慮しないから何でも善悪つけずに受け取る。
 
どうしても大人は、自分と他人という線引きをするから、遠慮をすることや、反対に所有欲が出てくる。
でも、なんでも受取体制万全のAさんを見ていると、その線引きのようなものが無いと感じた。私とTさんも、朝食の準備や、荷物を持ったり、結果お世話していたけれど、なんせ5歳児だから義務感を感じることも無く、高名な方だからと遠慮することも無く楽しい時間を一緒に過ごさせていただいた。
こういう人だから、ご自身の専門分野でファンが多いのだろうと納得もできた。
 
いっしょのセミナーに行くこと、一緒に宿泊することになったのは偶然なのか、必要性があってなのか、Aさんとご一緒した数日間は私が無くしてしまった無邪気さや、子供のような純粋に物事を見る事、受け取ることなど、沢山気づかせてくれた貴重な時間になった。
これまで、同性で憧れる、こんな人になってみたいと思う人はあまりいなかったけれど、Aさんのこの5歳児の部分は、私もこうなりたいと思う憧れになった。
 
でも、次の日は朝4時起きでバスに乗らないといけないという最終日の夜。食事から帰ってきて、楽しかったねと数時間話をしてベッドに入ったのは12時近く。その30分後くらいに寝室のドアをノックしてきたAさんが言った言葉は「いつも持っているバッグが無いの」
5歳はいろいろ物を無くすらしいので、そこは真似したくない。
 
 
 
 
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2019-11-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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