本当に何の変哲もない激ウマレシピ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:星野美緒(ライティング・ゼミ 日曜コース)
「これは何か魔法がかかっているのではないか」というおそるべき料理に出会ったことがある。
いや、きっとどんな人でも、誰しもが人生で何度かは「これはおそるべきウマさだ」と思う料理に出会ったことがあると思う。
料理は一種の魔法である。
例えば、土から掘り起こした硬くて味気のない生のジャガイモ。これが湯がいただけで食欲をかきたてる存在になり、ちょっとバターを乗せただけでごちそうになる。この変わりようは本当に魔法のようだ。
まだ私が高校生だったころのこと。私にとっては「おばあちゃんの肉じゃが」がまさに魔法にかかっていたに違いない、おそるべきメニューだった。
他の肉じゃがは好きでも嫌いでもないという程度で、そもそも玉ねぎとにんじんがあんまり好きではなかった。
でもなぜなのか、おばあちゃんの肉じゃがは本当に美味しかった。
お肉の味とちょうどよい甘みと塩味、絶妙なじゃがいもの溶け具合。あまり好きでないにんじんでさえ美味しい。
その頃、私は自ら料理をすることはなかった。もちろんレシピなんて一つも頭に入っていなかった。
しかしながら何とかこのレシピは自分でも覚えておこうと思ったのだ。
そしてある日、私は作り方を教えてほしいとおばあちゃんに頼んで、二人で台所に並んだ。
おばあちゃんの作る手順を見て、しっかりとメモをした。その内容を公開したいと思う。
<おばあちゃんの肉じゃが>
・材料
牛肉1パック、玉ねぎ2個、にんじん2/3本、じゃがいも4個、サラダ油、砂糖、酒、みりん、しょうゆ
・手順
1. 玉ねぎはくし形切り、にんじんは乱切り、じゃがいもも一口サイズに切る。
(「玉ねぎはこうやって切ると、くしみたいでしょ」とおばあちゃん。私「くし形切り」をメモ)
2.深めのフライパンにサラダ油を薄く敷き牛肉と玉ねぎを炒める。
(「肉じゃがはフライパンだけで作れるから簡単よ」とおばあちゃん)
3.牛肉に火が通ってきたら、にんじんとじゃがいもを入れて水を入れ、煮る。
(「だいたいでいいのよ」とおばあちゃん。この時点で鍋からはいい匂いがする)
4.砂糖、酒、みりんを入れて煮る。煮立ってきたらアクをとる。
(「お砂糖やみりんはどれくらいの量を入れるの?」と私。「ええ、そうね、これくらい」と適当にジョボジョボ入れるおばあちゃん)
5.最後にしょうゆを入れて、全体に味がまわったら完成。
(「しょうゆはどれくらい?」と聞く私。「うーん、これくらい」とジョボジョボ入れるおばあちゃん。味見をしたら、あら不思議、完璧!)
これが、激ウマ肉じゃがのレシピである。
結局、何の変哲もないごくごく普通のシンプルなレシピだ。
さて残念なことに、このレシピにはあまり再現性がなかった。今見返してみても、そらそうだろう、としか思えないが。
調味料の量や火加減も、まさにおばあちゃんの匙加減なのである。
こんなシンプルなレシピで絶妙な味のバランスを生み出すのだから、おばあちゃんはきっと魔法使いであったのだ。凡人の私には、魔法が使えなかったのだ。
くやしまぎれのように聞こえるだろうが、巷にあふれるレシピはほとんど再現性がないと私は思っている。
しょうゆの味だってメーカーが異なれば違うし、野菜の味だって品種や時期によって違うのだ。火加減だって炒める時間だって、気温や鍋に左右され、他の場所で再現なんてできない。
つまり完全に再現できるレシピなんてそもそも存在し得ないのだ!
と、思っていたのだが、実はおばあちゃんから受け継ぐことができたレシピが一つだけあった。
おせちの黒豆である。
おせちは毎年おばあちゃんと一緒に作っていたのだ。年に一回だが、毎年毎年メモを見ながら一緒に豆を煮た。「下ごしらえをしておいて、朝から弱火でコトコト6時間」を毎年繰り返した。
すると、どうだろうか。
凡人のはずの私が、一人で、ふっくらつやつやでじんわり甘いお豆さんを再現できるのだ。
これでわかったことがある。本当のレシピとは、何回も見て聞いてやってみて身につけるものなのだということ。
そう、魔法使いは、一日にしてならず。
年月を経て身につけた「感覚」と「勘」と「経験」が、魔法を生み出していた。
あの何の変哲もないシンプルなレシピはこうやってできていたのだ。
なお、最後に、おばあちゃんの肉じゃがの秘訣は「良いお肉を使うと美味しいのよ」であることも付け加えておく。
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