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私は私の家が気に入っている


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:畠山朱美(ライティング・ゼミ特講)
 
 
私は自分の家が気に入っている。
 
家は着慣れたスーツのようだ。
まずは体が動かしやすい。故に、自分らしく行動できる。それでいて、しっかりとした生地と作りで人と会っても恥ずかしくない。そして自分好みのデザインである。故に、自分らしく過ごせる。
 
私の家も自分の暮らしにぴったりとはまっている。暮らしやすく、自分らしい生活ができる。
だから私は、今住んでいる家が気に入っている。
 
20年前、この家を建てるとき、まずは自分たちの住まい方を考えた。
夫婦二人でどう暮らすのかを、今まで住んでいた賃貸のマンションでの暮らしをもとに考えた。
 
「仕事から帰ってくるとヘトヘトだから、食事の用意をするのも、食事をするのも、風呂に入るのも、寝るのも、平面でズルズルと暮らしたいね」
「家ではゴロゴロしたいね。おそらく居間ではゴロゴロして過ごすだろうね」
「掃除洗濯は、週末しかできないから、洗濯物を一気に干せる場所が欲しいね。シーツは一気に2枚干したい」
「別々のことをやっていても気配が感じられるような家がいい。大きなテーブルで端と端で別のことをやっているなんていうのがいいな」
「スリッパは履かない。裸足で暮らしたい」
「本は見えるところに置きたいよ。本に囲まれて暮らしたい」
 
そんなふうに自分たちの希望をどんどん出して、どのように暮らしたいのかを再確認する作業をした。それらを実現する家を建てようと思った。
A4用紙に自分たちの希望をまとめて、ハウスメーカーや工務店に相談に行った。
ハウスメーカーや工務店では、開口一番「いくつ部屋が必要ですか?」と聞かれることが少なくなかった。そのたびに「部屋数というより、わたしたちはこんなふうに暮らしたいと思っていて、それを実現できる家をつくりたいのだ!」と熱く語り、対応してくれた人に困った顔をされたものだった。
 
体に合わせてスーツを選ぶように、家も自分たちの住まい方に合わせて仕立てるべきなのだ。だぶだぶ、キツキツ、袖が長いスーツなんて着られやしないはずなのに、わたしたちの体型も確認せず、採寸もしないで、3LDKだの4LDKだのと勧めてくるのはどういうことか。
 
理解してもらえるまで悪戦苦闘を繰り返し、私たちは、間口6m、奥行き18mのうなぎの寝床のような土地に2階建の家を建てた。1Fは駐車スペースで、2階で生活を完結できるようにした。
「2階に上ってしまえば平屋」がコンセプトだ。
ゴロゴロするために座卓、床は杉の木。長細い家なので真ん中にベランダを作ることでシーツ2枚は余裕で干せる。玄関にはいるとすぐ本棚があり、2階に上ると5mを超える通路に本が並ぶ。
小さな家で部屋数は少ないが、自分たちの住まい方に合わせた作りになったと思う。小ささも含めて自分たちに合っていると思える。
 
自分にとって良いスーツとは、大きすぎず小さすぎず、体に合っているものだ。着ているうちに体型が変わればちょっとお直しをするかもしれない。そうやって、着ている間にさらに着やすくなって愛着がわき、相棒のような存在になるのだろう。
 
家も同じだと思う。
まずは、住む人の「暮らし」に合わせて。そして、家族や暮らし方の変化に合わせて使い方を工夫して。時には手直しをしながら、使い方もわきまえてきた時に、家は暮らしの一部になる。自分の一部になる。家族の一部になる。
 
そんな家づくりは、楽しいけれど、苦しくもある。
家族のあり方やこれからの生き方を考える機会となるが、それは自分自身や家族と向き合わなければならないということだ。きれいごとだけではなく、面倒で後回しにしたいことも含めて、全部引っ張り出して棚卸しをするような作業なのだ。大変なことだ。
 
そんな家づくりが、部屋数だけで語れるわけがないではないか!
と、私は言いたい。
家をつくることは、生き方を考えることだと思う。
 
そして今、私は、そんな着慣れたスーツのようなこの家を手放そうとしている。
人生の大きな転換期。
夫の母親と同居することにしたのだ。仙台から盛岡へと、200km北の土地へ移住する。
 
また新たなスーツの仕立て直しである。
 
「盛岡の寒さ対策は必須! 真冬は氷点下の世界だからね」
「夜8時前に寝てしまうかあさんと私たちの生活時間帯が違うから、お互いストレスにならないようにしたいね」
「お互いが生存確認できるように、それぞれが別のことをしていても気配がわかった方がいいね」
「足腰の問題を考えると、基本は平面での暮らしがいい」
「本に囲まれた生活はそのままでお願いします」
 
こうして、あらためて採寸をするように、これからの暮らし方を想像していく。これからどう生きていくのか、ひとつひとつ考えていく。
そしてまた、新しいスーツに袖を通すように、新しい暮らしがはじまるのだ。
 
私は、今住んでいる家が気に入っている。20年、私を私らしく生かしてくれた家である。すっかり私の暮らしにフィットした愛おしい家である。
名残惜しくはあるけれど、また新しい家で生きていく。
 
おそらく、私は、今度の家も気に入るに違いない。
 
 
 
 
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2019-11-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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