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メディアグランプリ

銭湯は、日本を救う!


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:古田篤司(ライティングゼミ平日コース)
 
 
「うぉーーーーー。冷てぇ!」
平田君は、奇声をあげた。
「動いたらあかん! 30秒やで、30秒。そそ、じーっとしてて」
僕は、水風呂へ一緒に入りながら、短くつぶやく。
水の動きが止まり、30秒をすぎると、じわじわと冷たさが消えていく。
「あぁ、ほんとだ。不思議な感じ!」
そして、60秒に至る頃には、何かを達成した気分になる。
身体と心が緩んで、ちょっとした無重力状態が心地よい。
「ほな、上がらなあかんよ。ほれ!ほれ!」
水風呂どころか、湯船に入る習慣のない沖縄出身の彼は、初めての感覚に目をぱちくりさせていた。
この日を境に、東京にいた2年間、銭湯にハマるとは、彼もまさか思っていなかっただろう。
 
平田君とは、沖縄の石垣島で出会った。
石垣島が好きで、年に何度も旅行していた時期だった。
共通の友人を通じて知り合ったとき、彼は地元・石垣商工会の敏腕マネージャー職だった。
そのうち、僕の本業であるまちの活性化とクロスし、一緒に仕事をするようになった。
 
石垣島は、年間140万人が訪れる観光の島だ。
「島の良さを、島の人たちの力で、世界に発信したい!」
「内地(日本本土のことを沖縄ではこう呼ぶ)の資本に頼らず、自立した経済を!」
ミッションを共有した私たちは、島の食材を活かしたローカルフードマーケットの建設計画を進めていた。
 
計画もまとまりかけたある日のこと。
見慣れた着信番号でスマホが震えた。
「古田さん、私、東京へ異動になりました。抵抗したんですけど……」
現場でプロジェクトを取りまとめる彼の異動は、計画の終焉を意味するに近かった。
「平田は、ナイチャー(内地人)と仲良くなりすぎて、飛ばされた」
ずいぶんな噂だと思うが、聞こえてくる声に、胸が痛んだ。
島から2000km離れた東京で、単身赴任である。
「あいつ、変わらず元気やろか……」
ことあるごとに思い出したが、なんとなく声をかけづらかった。
 
そんなある日、「東京で密かな銭湯ブームが起こっている」と知った。
もともと温泉やお風呂は大好きな僕だ。
「裸の付き合いで、励ましあうのもいいかも」
思い切って誘ってみたのは、正解だった。
 
銭湯は、日本の都市文化だった。
1960年代には全国に17,000軒あったが、現在はその1/4以下、4,000軒を切っているそうだ。
斜陽産業と言っていいだろう。
家に備え付けのお風呂が少ない頃、身体を洗うための場所だった銭湯。
住宅形態の変化は、自然とその存在価値を失わせた。
 
ところが最近、若い経営者が、次々に銭湯を再生させ、周りに活気を与えているという。
このギャップは、なんなのか。
体感しないと、気が済まないタチである。
平田君を励ます、と言いつつ、本業のまちの活性化にもヒントになるはず。
気がつくと、羽田へ飛ぶ飛行機を予約していた。
 
二人が合流して向かった先は、東京・高円寺にある小杉湯。
夜12時になってもいっぱい、という人気の銭湯だ。
商店街から路地裏に入ると、小さな電飾看板が見えた。
つらつらと歩き、入口正面に立つと、寺社建築に多い「くねっ」と曲がった屋根。
「唐破風(からはふ)」と言って、昔ながらの銭湯建築の典型だ。
 
暖簾をくぐり、扉を開けると、今度はパッと明るくなった。
壁には絵画、本棚には漫画がいっぱい。
クラフトビールなんぞ飲みながら、
老若男女、ジモティも他所モンも一緒。
思い思いに語らい寛いでいる。
なんだか不思議な空間が、そこに広がっていた。
 
どうやら、少し分かってきた。
ここは「まちのサードプレイス」なのだ。
家でも職場でもない、第三の居場所。
個人が思いのままに出入りでき、心地よく寛ぐことのできる居場所。
もうひとつの家。明るく会話を楽しめ、気楽に過ごせる居場所。
銭湯は、そんなところに変わってきているのか。
そう言えば、風呂屋の定番・あんま機は、ない。
 
裸になり、脱衣場を抜けると、風呂場に至る。
正面には、富士山のペンキ絵と湯船。
うーん! 江戸の銭湯、って感じ。ええやん!
 
ん、ちょっと待てよ。
なんでこんなに、ぼーっと腰掛けている人が多いのか?
のぼせている?
違う。湯あたりではなさそうなのだ。
よく見ると、水風呂の周りに人が集まっている。
そう、水風呂を待っている人と、水風呂を上がった人たちが腰掛けているのだ。
 
小杉湯は「交互温冷浴」の聖地、と言われている。
1分~1分30秒、温浴・冷浴・外気浴。
合わせて3つを、短い時間でサイクルする。
体調や体力に合わせて、2回~7回、繰り返すとあら不思議。
身体が軽くなってきて、頭もクリアになってくるのだ。
周りの音も不思議とよく聞こえる。
これを銭湯好きは「整う」と言っている。
サウナでも、水風呂と合わせて行われることが多い楽しみ方だ。
 
周りにうつ病や原因不明の体調不良に襲われる人の多いこと。
他人事ではなく、自分も何度か、そうなりかけた自覚がある。
今や、自律神経失調症は国民病だ。
 
運動や休息と合わせて、この交互温冷浴をするといい。
交感神経と副交感神経の切り替えを促す、というこの入浴法を行うと、
銭湯を出て1時間もすれば、完全にリラックスして眠くなる。
そして、安眠と熟睡の時を迎えるのだ。
 
この日を境に、僕の中に強い思いが生まれた。
「銭湯は、日本を救う!」
僕の新しいミッションの誕生だ。
2年後、50歳でまちづくりの業界はセミリタイアし、銭湯経営者になりたい。
そして、気持ちを軽くすることのお手伝いをしていきたい。
心からそう思っている。
 
結局、次の転勤でも石垣島に帰れなかった平田君は、今、沖縄那覇にいる。
以前とは違い、水風呂はもちろん、湯船さえない沖縄に物足らなさを感じているに違いない。
「なんなら、一緒に銭湯作ろうか? まちの活性化にもいいぞ!」
今度会ったらそう呟いて、大好きな沖縄で一緒に仕事ができれば、いいかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2019-11-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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