「カープ女子」が知っていた、まちの再生方法
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:古田篤司(ライティング・ゼミ 平日コース)
「どうしたんですか? お昼、全然食べてないじゃないですか」
中原さんは、僕の箸が進んでいないことに気がついた。
「はぁ。いや、別に今日は食欲がないだけで……」
「なんか、最近痩せましたよね? そんな食べられないくらい、何か悩んでるんですか」
正直に言おうか、一瞬迷ったが、曖昧に首を振った。
「じゃあ、験直しにカープの応援、今度一緒に行きましょうよ! チケットあげるしー」
ライターの中原さんは、プロ野球・広島カープの大ファン。
僕より年上の、いわゆる「カープ女子」だ。
実は、僕も子供の頃からの広島カープファン。
大阪や神戸で「虎ファン」じゃないことを公言するのは、なかなか勇気がいる。
だから、彼女とは仕事仲間だが、同志的な「絆」もある。
僕は、その時悩んでいた。
今から20年近く前、30歳の頃。
本業である、商業地再生の仕事が行きづまっていたからだ。
本務地は、神戸にある旧い商業地・新開地(しんかいち)地区。
かつては「西の浅草」と呼ばれ、神戸一番の繁華街として賑わった時期もあるが、
30年間に渡って衰退したあげく、阪神淡路大震災で多くの建物が全半壊した。
そのまちの再生・活性化を現場で取り組む。
それが、僕の仕事だった。
彼女には、まちのことを、雑誌やミニコミ誌に書いてもらっていた。
「あの雑誌にも、記事載せてね、ってお願いしといたから〜」
気のいい人柄で、頼んでもいないのに、いろんなところを紹介してくれる。
「中原さんには、話してもいいかな。同志だし……」
仕事上の先輩後輩でもなく、かといって仕事を全然知らない仲でもない。
カープファン同士、気取らないで話すのに、ちょうどよい感じだった。
復興で新しいビルが建つのに、賑わいが戻らない。
空き店舗が埋まらず、商店街じゅうから陰口を叩かれている。
集客イベントでお客が集まらず、関係者は喧嘩ばかり。
都市計画で学んだ手法を駆使すること3年あまり。
やることなすこと、うまくいっていないのだ。
もう、どうしたらいいか、わからない。
そう、正直に話した。
うん、うん、と頷いていた彼女。
「ほんと、大変な仕事だよねぇー」と同情してくれる。
ところが、気がついた時には、広島カープの話に戻っている。
「今わたし、ドミニカから来たフェシリアーノっていう投手に注目してるんですよ!」
「ふるたさんも、絶対好みだと思うよ!」
地方の金欠球団である広島カープ。
ファンは「誰それ?」というような、無名選手の成長を語るのが大好きだ。
職場に戻っても、スタッフに魅力を語り、何気に誘っている。
「一緒に球場へ行ってみない? 広島には、美味しいお好み焼き店がいっぱいだしー」
それで、「ご一緒します!」という人が現れるから不思議だ。
野球観戦と関係ない「広島お好み焼きツアー」まで、決まってしまった。
「遊びに行ってる場合じゃ、ないんだけどなぁ……」
変にテンションの高い彼女のノリに、少しイラつき、思わずため息をついた。
そもそも、なぜ彼女はこのまちの仕事を引き受けているのだろうか?
報酬がよいわけでもない。
オシャレでトレンドなまちでもない。
どちらかといえば、ライター泣かせのネタ探しが難しいまちではないのか?
彼女が好んで記事にするのは、
お客の大半はおじさんだけど、継ぎ足し出汁のおでんがある大衆酒場
カップ酒を楽しむ店だけど、なぜか美味しい刺身が並ぶ立ち飲み屋
今時じゃない昭和な感じの店だけど、デミグラスソースがウリな洋食店
底の抜けそうな床がギシギシ言うけど、古めかしい雰囲気の喫茶店
なにかしら難のある、一癖あるお店。
神戸オシャレ女子の多数は、好きと言わないものばかりだった。
当然、女性誌なんかは、おいそれと特集に入れてくれたりはしない……
あぁ、そうか!
そういうことか!
彼女は、この難儀なまちの「ファン」になっているのだ。
流行り廃りと関係なく、彼女が好きなものがここにある。
だから、勝手に魅力を広めてくれる。
そして、「ファン」を増やしたい、仲間にしたくなる。
そうかと言って、みんなが「ファン」になる必要などない。
好きなりそうな人が、好きになってくれたらいいのだ。
彼女と同じように、このまちのファンになる人って、どんな人だろう。
その人たちが集まる企画って、どんなことだろう。
その人たちが、勝手に広めてくれる魅力的なお店やサービスは、どこにあるんだろう。
取り組みの方法が、間違っていた。
まちのファンを作るために、取り組む。
建物を建てたり、まちを綺麗にする前に、やることがあったのだ。
音楽祭、映画祭、落語会。
ウェブに、雑誌に、テレビへのPR
今の店の魅力を発信し、新しい店も創る。
商店街の改修、公園の改修、路地横丁の整備。
その後、吹っ切れたように、多くの取り組みを行った。
「その取り組みをやったら、まちのファンは増えるのか?」
1つ1つの取り組みを、そう問い詰めていって10年。
まちを訪れる人は、年間100万人以上増加。
僕は、そのまちの仕事を卒業し、今は迷うことなく、まちを再生する仕事を続けている。
広島カープは、25年間も優勝から遠ざかっていた。
でも、その間も応援し続けていた「ファン」がいた。
決して多数ではなかったけど、魅力を見つけ、広めることだけは、静かに続いていた。
そして4年前に優勝した時、全国にファンが溢れ、「カープ女子」は流行語になっていた。
ノイローゼになる直前だったあの日。
中原さんという、1人のカープ女子から学んだ、とても大切なこと。
ダメだと思っていたまちにも、必ず魅力があり、再生のための隘路はある。
「私の好きな◯◯がある。だから、あのまちに行ってみない?」
「ファン」たちの誘いの言葉が馴染む頃、
そのまちの姿はきっと、大きく変わっているに違いない。
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