メディアグランプリ

ていねいに生きていくために必要なこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:鈴木 里枝(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「全然楽しくない!」
21時の玄関。ドサッと大きな音を立てて重たいバッグを肩から下ろすと、小さく叫んだ。
「社会人は楽しいよ」と周りの大人から聞いていたはずなのに、社会に出て2年が経っても忙しい毎日を乗り切るのに精一杯。毎朝の満員電車も思い通りに進まない仕事も、それによって発生する残業も上司との付き合い方も、何もかも慣れないし全然楽しめていなかった。
 
さらに、連勤が続けば着々と散らかる部屋を見て、帰宅後いっそう疲れてしまうのだった。
連休最終日は友達と飲みに行って職場の愚痴大会で発散。休日はお昼頃に起きてきて、溜め込んだ洗濯や掃除をこなしているだけであっという間に過ぎていく。
 
このままじゃいけない気がする。心にも体にも余裕がない。
分かっているけれど、どうすればいいんだろう。
ソファに寝転んでため息をついた。
 
そんな日が続いた帰り道、駅前の本屋で一冊の本が目に留まった。
『今日もていねいに。』というタイトルのその本は、エッセイストで編集者の松浦 弥太郎さんが書いたものだった。私の生活に欠如した「ていねいに」というワードに惹かれて、吸い寄せられるように手に取るとそのままレジへと向かった。
 
ページを繰ることは歩を進めることに似ている気がする。
知らない道を歩くなかで、目の前に現れる景色や登場人物たちの会話を楽しむ。わくわくする場所はスキップで、暗くてこわい場所は早歩きで。
『今日もていねいに。』は、天気のいい日にのんびり散歩をするように読むことができた。慌ただしい毎日の色々に流されていつの間にか落としていたものを、一つひとつ拾い上げてポケットにしまい直しながら。
 
その晩はいつもより夜更かししてしまったけれど、翌朝起きた時、気持ちが軽やかなのに気がついた。私は思った。ていねいさを取り戻すために、松浦さんの生き方をとり入れてみよう。さっそく、心に残った2つのことを実践してみることにした。
 
1つ目は、「やることリストを作ること」だ。
松浦さんは毎朝、今日やるべきこと、やりたいことを書いた箇条書きのリストを作っているのだそうだ。
いつも仕事を優先している平日だけど、思いきって仕事以外に頭に浮かんだことも書いてみる。
 
やろうやろうと思っていたことがあった。「歯医者の予約」を一番上に。
トイレの電球も切れていたな。「電球を買う」を追加。
億劫になっているランニングも再開したい。一応加えようか。
 
書いてみると、自分が今日やるべきこと、できればやりたいことが明確になってくる。
仕事の休憩時間に歯医者に予約の電話を入れた。電球を買うためにホームセンターに寄りたいけれどたしか20時までだっけ、この時間までに電車に乗りたいな。自然と仕事にも計画性が出てくる。
 
その夜トイレの電球を替えながら、私は小さな達成感を味わった。
いつも通りの慌ただしい一日。上司にも怒られた。それでも、歯医者の予約と電球の交換はできたじゃないか。30分早く帰宅できた自分に少しだけ自信がついた。
 
リストの中身は翌日以降に繰り越してもいい。
ランニングは明日の一番上に書こう。リストを活用すれば、仕事ももっと効率よくできるかもしれない。
 
2つ目は、「一人になること」。
松浦さんは「孤独」と向き合う時間を大切にしていると書いていた。パーティーや飲み会にできるだけ行かずに自分の生活リズムを守り、おだやかな気持ちで過ごすのだそうだ。
 
居酒屋で友達と飲むのがストレス発散法だった私には考えられなかったけれど、生活を振り返るとたしかに、一人の時間が少ないことに気がつく。
仕事の日はもちろん一人でいてもSNSで常に誰かとつながっていて、自分と対話する時間を持とうと思ったこともなかった。
日々たくさんの人とかかわるなかで、知らず知らずに振り回されている自分がいるのかも……。
 
その週の金曜日は飲み会を断って帰宅し、自分で作った晩ごはんを食べることにした。
そういえば最近、料理していなかったな。
野菜を切ったり炒めたりしながら自然に、仕事の失敗や先輩に言われて嬉しかったこと、今週起こった様々なことを思い返した。
 
「おいしかった」とひとりでつぶやいた。
簡単なものだったけれど、出来立てのあたたかい料理に心が満たされて疲れが和らぐようだった。
頭の中で絡まった一週間の出来事は、手を動かしながら一つひとつに思いを寄せると少しずつほどけていって、食べ終わる頃には不思議とすっきりしていた。
 
「やることリストを作ること」、「一人になること」。
どちらにも共通しているのは、自分の声に耳を傾けることだった。
慌ただしく同じように過ぎていく毎日をていねいに過ごすために、自分が何をしたいのか、やらなければいけないことは何なのか、小さな目標を積み重ねてメリハリをもつこと。
自分と対話する時間を作って、心をおだやかな状態に保つこと。
 
部屋を見回す。相変わらず散らかっている。だけど、今なら片づけられそうだ。
仕事だってできるようになったわけではない。でも、これからは大丈夫な気がした。
 
松浦 弥太郎(2012)『今日もていねいに。』PHP出版.
 
 
 
 
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2019-11-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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