メディアグランプリ

方向音痴はなおさない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:畠山朱美(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「次はー、ばくろちょうー、ばくろちょうー」
横浜まで行くために、新日本橋駅で電車に乗った。
タイミングよく来た電車に乗り込んだ時から、なんとなく違和感があった。
前の日から、グーグルマップと駅すぱあとでしっかりと調べたのだ。この電車、総武本線快速で、よかったはずだ。
待てよ、11時49分 新日本橋駅発って書いてあったな。
今は……あれ?11時46分? なぜ?
と、アタマの中が混乱しているうちに、
プシュー、バタン!
電車は、馬喰町を出発。
慌ててスマホを出して見ると、チェックした電車は「11時49分 逗子行」とある。
あれ? この電車、千葉行になっていたような……
え? 千葉ってどっち方面? あれれ?
ひとり大混乱しつつ、スマホで検索。
「 総武本線快速 停車駅 」と入力。検索ドン。
「 総武本線快速 停車駅一覧(10駅) 」というタイトルに、東京から千葉までの10駅が並んでいた。もちろん、そこには「横浜」という文字はなく、そこで、間違いを確信する。
ああ、またやってしまった……
「きんしちょうー、きんしちょうー」
電車は錦糸町に到着。慌てて飛び降りた。
そして、反対側のホームで電車を待った。
先週の話である。
 
わたしは方向音痴だ。
 
小さい頃から方向音痴の自覚はあった。
スーパーやデパートで、お手洗いから親のいる場所に戻ってくるだけでも迷うのだ。それでも、本格的に迷子になったことがないのは、偶然の幸運でしかないと思っている。わたしは、できるだけ親から離れない、極めて臆病な子どもだった。
 
大人になると、方向音痴はますます手ごわい相手となった。
友だちと待ち合わせれば、待ち合わせ場所に行くまでに迷う。旅行に行けば、道に迷う。免許を取って車を運転すれば、同じ道をぐるぐる。
地図を手にしても頼り、地図を回し、自分も回る。
どこへ行っても迷い道。道に迷った経験は、数知れず。
 
就職試験の時には、バスを乗り違えて、自衛隊の駐屯地まで行ってしまった。行き先を尋ねるわたしに、バスの運転手さんは「随分遠くまで来ちゃったね」と言った。なんとか試験には間に合ったが、どうやって会社に行き着いたのかは忘れてしまった。ただ、運転手さんの気の毒そうな顔だけは覚えている。
 
就職し、こんなわたしがなぜか営業になった。
東北6県を担当し、電車や車で取引先に行かなければならなくなった。ナビもグーグルマップもスマホもない時代に、道路地図マップルが頼みの綱だった。6県分、6冊のマップルを手元に置いて、行きたいところの道順を事前に、念入りに確認した。
しかし、準備はしてもうまくいかないのが、方向音痴たるもの。
どうしてもたどり着けないことも少なくなかった。その時は取引先に電話で助けを求めた。
岩手の遠野の得意先では、何回訪問しても迷ってしまって電話をするので、
「カッパに化かされているんだねぇ」
と言われ、親切にもカッパ淵というカッパの伝承地を案内してもらった。
 
だいたい、わたしが「コッチ」というと必ず逆なのだ。直感はまったく当てにならない。住み慣れた町でさえ、店から出て逆の方に進んでしまうことも、今だに日常茶飯である。方向音痴は50歳を過ぎた今も衰えることはない。
 
けれども、これだけ迷っていると、迷ったからこそ出会う景色や経験がある。
迷い込んだ場所になかなか良い景色があったり、良いお店に出会ったり。仕事では、迷子の面白い子と言われて、すぐ覚えてもらったり。
まあ、迷うことも悪くない。
そう思うようになった大きなきっかけは、20代の頃の中国旅行でのことだ。
 
わたしは、中国の歴史が好きで考古学の先生たちと何度か中国を旅した。ツアー旅行と違って、かなりへんぴな場所にまで遺跡を見にいくような旅だった。
その日もマイクロバスで、現地の運転手とガイドさんを乗せて、ゴビ砂漠へ遺跡を見に出かけた。かなりマイナーな場所で、ガイドさんも行ったことがないとのことだった。8時間以上かかる行程で、途中は砂漠だけでお店もないので、ホテルから水と小さなお弁当を手渡され、朝早くに出発した。
砂漠の広大な景色が素晴らしく、喜多郎の「シルクロードのテーマ」のカセットテープをかけたりして、わたしたちは上機嫌だった。3時間以上過ぎた頃、運転手さんとガイドさんが何か話し出した。何だろうと思っていると、ガイドさんが一言。
「迷った」
運転手さんもこの辺りは詳しくなく、砂漠の中の車の跡を走ってきたが、ここにきて、どこに向かえばいいかわからなくなったとのことだった。
見渡しても誰もいない。広大な砂漠と青い空。砂漠には道はない。
 
人生最大の迷子!
 
何もない砂漠のなかに立ち尽くすわたしたち。
とにかく人がいる場所まで走ろうということになり、ラクダに乗った人に出会ったのは1時間以上経ってからだったと思う。
結局、運転手さんがラクダのおじさんに道を聞いて、なんとか目的の地にたどり着くことができた。何の目印もないのに、運転手さんがどういう風に道を聞いて理解したのかは謎である。
砂漠の中で途方にくれた経験は、わたしにとって貴重なものだった。
そして、その時の砂漠の広さと空の青さは、今でも心に残っている。
 
迷うことは、悪いことだけじゃない。
迷うからこそできる、たくさんの経験がある。
方向音痴、いいじゃないか。
これからも方向音痴とともに生きていこう。
 
 
 
 
***
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 
http://tenro-in.com/zemi/102023
 

天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


2019-11-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事