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メディアグランプリ

このジャムが無くなる頃にはきっと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:なかむらみなみ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
なんで書けないんだろう。
というか、なんで書かなくなったんだろう。
 
グツグツと沸きあがる気泡が次から次へと割れるのを眺めながら、
頭の中でグルグルと同じ問いが回り続ける。
 
鍋をかき回す右手を止めて、友達からのTwitterのリプライに応答。
あぁ。短いつぶやきなら何不自由なく書き込めるのに。
なんで長い文章は書けなくなっちゃったのかなぁ。
 
ん? なんか、焦げ臭い。
鍋から細くて白い煙がスーッと出始めている。
 
やっちまった! 鍋底が焦げ付いたんだ!
ずっとかき混ぜ続けなきゃだめだって聞いていたのに、手を止めたから……。
 
もっと弱火にしておけばよかったなぁ、なんて反省しながらも、
ちょっとの焦げ付きだったから混ぜてごまかした。
お焦げの風味もきっと隠し味になる……はず。
 
ふるさと納税で届いた冷凍イチジクを使って、ジャム作りの真っ最中。
ジャム作りなんて、人生で初めてだ。
まさか自分がジャムを作る日が来るなんて。
イチジクが好きで、ふるさと納税の返礼品で見つけて思わず選択。ちゃんと内容を読まずにいたら、まだ行ったこともない“ふるさと”から思わぬ量でドドーンと届いた。
このままだと冷凍庫がパンクする……。つい最近、肉も届いたばかりなのだ。
溶かしてそのままシャーベットみたいにシャリシャリした状態で食べてもいいけど、一気に加工した方がいいと思い、ジャム作りという手段に出ることにした。
職場で「週末は何かするの?」と聞かれたから、
「家でジャム作りしますっ(はーと)」なんて言ってみたら、「どうしたの?!」と聞き返された。
そうか、やはりキャラじゃなかったか。
「かわいい女子っぽい趣味探しです」と言っても怪しまれ、ことの顛末を話したら笑われた。
ふるさと納税はちゃんと計画的にやろう、と心に誓った瞬間である。
「女子力上がるといいね」と励ましのお言葉をいただいたので、完成後の毒味の約束を取り付けておいた。
 
女子力アップはさておき、私はジャムを作りながら、自問自答を繰り返していた。
 
今からもう10年以上前の話になるけれど、その頃の私は書きたくて仕方ない人間だった。
友人との間で流行っていたSNSで、夜な夜な日記を書いては投稿。
次の日に読んでくれた友人たちからもらうコメントのやりとりも楽しくて仕方なかった。
SNSだけでなく、当時は雑誌制作にも熱中していて、取材して記事を書くことが大好きだった。限られた時間と文字数の中で、伝えたいことを最大限に出すための言葉選びと表現の模索は、良い疲労感と達成感をもたらしてくれた。
 
でも10年ほど前から、私は文章を書かなくなった。
正確に言えば、書けなくなったし、書きたいという欲が無くなった。
書きたいこと、伝えたいことが頭の中にあるような気がするのに、いざ書いてみようとすると、「やっぱりいいか」と手が止まる。
 
先日、久々にSNSに書いていた日記を読み返してみた。
深夜に帰宅して、シンデレラが城から猛ダッシュした時間もとっくに過ぎ、
「それでも書きたい!今この頭の中にあるネタを書きたい!!」
そうして丑三つ時を過ぎて書き上げた日記の内容は、リーゼント頭のヤンキー3人組が、駅のホームで膝カックンし合い、線路に唾を飛ばして飛距離を競い合っていて、つっぱりきれない男たちだった、というような話。
 
どうでもいい。
どうでもよすぎて震える。
でもあのときは、睡眠時間削って翌朝目の下に証拠が残ったとしても、日常の中に溢れている「くだらない愛おしいネタ」を、書きたいあの熱があるうちに書きたかったのだ。
 
書かなくなった理由は、おそらく自分で何となく分かっている。
心に余裕がなくなって、日常の中の愛すべきネタたちにアンテナが反応しなくなったのだ。
度重なった家族の病気、忙しく神経を張り詰める仕事、自分の体調不良……。
日常に潜むネタよりも、目の前に飛び込んでくるものに精一杯。
そして書く手をパッタリ止めたら、鍋底のジャムみたいに、書きたい気持ちも焦げ付いていた。
書き続けなければ、文章はきっと上手く書けない。
かき混ぜ続けないと甘くて美味しいジャムができないように。
 
水気を飛ばしてとろみがつくまでかき混ぜて、熱々の状態で瓶に詰めたイチジクのジャム。
味見してみたら、少し焦げたなんて分からないくらい、甘くて美味しい。
これなら職場で毒味会をしなくて済むぞ。
可愛い瓶に詰めて、プレゼントしよう。
 
私はこのライティング・ゼミで、書くことの楽しさ、難しさ、面白さ、たくさんのことを学ぶだろう。
過去の痛みも人生のスパイスにして、また何か書きたい気持ちが沸きあがったら、今度こそ手を止めずにいたい。
このジャムを食べきる頃には、そんな自分になれている気がする。きっと。
 
 
 
 
***
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2019-12-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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