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問題児は、大人を評価する「先生」である

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:渡辺みゆき(ライティング・ゼミ冬休み集中コース)
 
 
「息子のかんしゃくがひどいんです!」
心療内科の先生を前にして、私は今にも泣きそうな表情で訴えた。
 
息子は4歳。思い通りに物事が進まないと、耳をつんざくような金切り声で泣き叫ぶのだ。
 
叱ってもダメ。
なだめてもダメ。
無視してもダメ。
 
聞きかじった話を元に色々試したが、効果が出なかった。私は暗闇の中に突き落とされた感覚に襲われ、息子の顔を見るのも、声を聞くのも怖くなってしまった。
 
しまいには、息子の金切り声がスイッチとなって、私の心臓の鼓動は激しくなり、呼吸も荒くなる。口の中に金属がある様な味覚障害も出て、手も震えるようになった。
 
「このままでは、親も子も自滅する……」
 
私はインターネットで検索し、口コミで評判の良い心療内科に行くことにした。この病院は、小児発達にも対応している。市の支援センターの心理士も「あそこなら大丈夫」と太鼓判を押していた。
 
しかし、その先生の風貌見ると、かなり胡散臭い。えり足まで伸びた白髪まじりの髪はスズメの巣のように乱れてボサボサで、ヒゲも伸ばしたまま。さらに先生の背後にあったノートパソコンには、某オークションサイトが表示されていて、正体不明の古美術品がリストアップされていた。
 
これはマズい場所に来た。そう思ったが、診察室に入ってしまった以上、何もしない訳にはいかない。意を決して、息子のかんしゃくに困っていることで、精神的に参ってることを訴えたのだ。
 
心療内科の先生、通称「ヒゲ先生」は、息子のかんしゃくについて
 
「いつから?」
「どんな状況で?」
「その時、お母さんはどう対応してるの?」
 
などと質問を重ねてきた。
 
「半年前から、息子の思い通りにいかない状況で、金切り声をあげて泣き叫びます。」
「叱っても、なだめても、無視してもダメなんです! もうどうしようもないんです!」
 
と、思いつく限りの言葉を吐き出した。するとヒゲ先生はため息をつく。
「あのねぇ、どうしようもないんじゃないんだよ」
 
え? じゃあ、どうすればいいの? 分からないから相談しにきてるのに!
そう言いたくなったが、感情がたかぶりすぎて、口が動かない。
 
「じゃあ、ちょっと例をだすね」
ヒゲ先生は、冷静を保ったまま話を続ける。とある親子のやりとりだ。
 
ヒロシくんは、お母さんと一緒に買い物に行きました。
ふと見ると、とってもほしいお菓子がありました。
 
ヒロシ「これ買って」
母「だめ!」
ヒロシ「やだ! 買って!」
 
ヒロシくんは、とうとう大声で泣き始めました。
お母さんは仕方なく、そのお菓子を買うことにしました。
 
話を聞く限り、買い物にきた時によく見かける光景だ。
「ここでね、ヒロシ君は『大声を出したらお菓子を買ってもらえる』って学習しちゃってるんだよね」
ヒゲ先生は、こう解説づけた。
 
え? そんな学習ってあるの? なんで? 私の頭の中は「?」でいっぱいだった。
「つまり、こういうことだよ」
ヒゲ先生は続ける。
 
「グズったら、自分の意図が通る。だから今後もグズる」
「駄々をこねたら、買ってもらえた。だから今後も駄々をこねる」
「文句を言ったら、相手が折れてくれた。だから今後も文句を言う」
 
なるほど。どれもこれも心当たりがある。私がやってることばかりだ。
 
「いい? 親は子どもが文句言ったりグズったりした時に、いちいち反応しちゃダメ」
反応しちゃダメ? では、具体的にどうするんだろう?
「見て見ぬフリだよ、徹底的に。そしてね、子どもがグズらなくなった時に、すかさず褒める。これ大事」
 
ヒゲ先生は、こんな話もしてくれた。学校での問題行動が目立つ男の子の話だ。
 
授業中に席を立って歩き回る子(A君)がいた。
先生が何度も注意したけれど、効果がない。
「これはキツく言わないとダメだ」と思った先生は、
厳しい口調で注意するようになった。
するとA君は、歩き回るだけでなく、
大声をあげて物を投げつけるようになったのだ。
 
「これはね、立ち歩く行動だけに注目してるから、余計にひどくなっちゃうんだよ。座って過ごしてる時に注目して対応してあげたら、A君が座ってる時間もだんだん長くなる。そして最終的には、全く立ち歩かなくなるわけ」
 
私は目を丸くした。
「そんな簡単に変わるものなんですか?」
ヒゲ先生は、ハハッと笑って首を横に振った。
「簡単じゃないよ。対応の仕方も、子どもによって違うからね」
ですよね。と、私はため息をついた。
 
「でもね、おたくのお子さんは、かんしゃく起こしたら、取り合わずに見て見ぬフリするだけ。スルー。これでだんだん治まるよ」
ヒゲ先生は簡単そうに言ってくれた。
 
しかし、息子が大声を出してる時に見て見ぬフリするのは難しい。どうしても周囲の目が気になってしまう。
 
「そんな時は、子どもを抱っこして場所を変えればいいよ。それだけで静かになる時もあるから」
ヒゲ先生は、私が疑問に思っていることに、次々と答えを返してくれた。なるほど、これならできる気がしてきた。
 
いつの間にか、胡散臭いヒゲ先生の風貌が、アインシュタインのように見えてきた。
なんかすごい……。
 
「これは親御さんみんなに言ってるんだけど、問題児を創ってるのは大人なんだよ。子どもの問題行動はね、周りの大人の対応が間違ってることを教えてくれてるわけ」
 
なるほど。息子のかんしゃくは、私の対応が間違ってたことを教えてくれていたのか。そう考えると、ありがたいことである。
 
「で、あなた自身も参ってる状況だよね。お薬出しておくから、またおいで」
ヒゲ先生から薬を処方してもらい、私は病院を後にした。
 
それからヒゲ先生のいうとおりに、息子のかんしゃくをスルーし続けてみた。最初はうろたえそうになったが、根気良く続けると、本当に息子のかんしゃくは治まったのだ。
 
子育てに正解はない。しかし、正解に近づくために、親が学ぶべきことはたくさんある。子どもは時に「先生」になってくれるのだ。
 
 
 
 

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2019-12-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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