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「僕、○○ちゃんじゃないし!」と言い放つ息子へ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:わかいく(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
小6の息子が、リビングでランドセルをあけ放ち、明日の準備をはじめた。
夕食後のいつもの光景だ。
壁のマグネットボードには「今月の給食献立表」と「今週の時間割表」の2枚。
まずは、献立表を覗きこみ、「いいねぇ」とご機嫌な声をあげた。
きなこ揚げパンか、いわしの梅煮か、お気に入りのメニューを見つけたのだろう。
次に、時間割表をチェックして、今度は「あ~あ」とため息まじりの声。
一転して憂鬱な空気をしょいこんだ息子に、水を向けてみた。
「明日、苦手な授業でもあった?」
「苦手じゃなくて、嫌いな授業」と息子。
「何の教科? 算数?」
返ってきたのは、ちょっと意外な答えだった。
「どうとく」
 
「僕は道徳が嫌いだ」なんて言う子は、マイペースの自由人タイプか、はたまた掟やぶりの破天荒タイプかと思われそうだ。
いやしかし、私の息子は、少々あまのじゃくではあるけれど、世の中のルールや場の調和を重んじる、いたって常識派のほうのタイプである。
 
私は、35年以上前の自分の記憶から、「道徳の授業」をひっぱりだそうとした。
一瞬、モヤッとした感覚が沸き上がった。
何のモヤッと感なのかはわからないまま、会話を再開した。
「道徳の授業の、どういうところが嫌なの?」
息子は、興奮気味に返してきた。
「僕、〇〇ちゃんじゃないし!」
「ん?」
「まず教科書のお話を読んで、その後に『〇〇ちゃんはどんな気持ちだったでしょう?』って質問されるんだけど」
「うんうん」
「僕は〇〇ちゃんではないのでわかりません、っていつも思う」
「……」
息子のミもフタもない言いように、若干の焦りを感じはじめる私。
「そうなんだけどね、そこを頑張って想像しようとすることに、意義があるんだよ」
「どういう意義?」
「たとえば、友達とケンカになっちゃったとするよね」
「うん」
「相手の気持ちを想像してみないで自分のことだけ考え続けてたら、ずっと仲直りできないかもしれないよ?」
「その時は、自分の考えを言い合えばいいと思う」
「それができれば、一番いいんだけどね」
「できるように努力する」
彼は、間違ったことは言ってない。
ただ、「人の気持ちなんてわからない」と言い放つ息子に、それを想像してみることの意義を伝えなきゃ、と思う。
適切な言葉を見つけ出そうとして、私の心は、さまよいはじめた。
 
ネットで調べてみると、日本の小学校では、2018年まで正式な教科とされていなかった「道徳」が、この年から「特別の教科」に格上げされていた。
増え続けるいじめ問題が、主たる背景のようだ。
「特別の」教科の意味は、数値による評価をしないこと。
多様な意見を認めるとともに、比較や、良し悪しの評価をしないこと。
教科書が見たくなった。
道徳の教科書を学校に置いてきたと言うので、5年生のときの教科書を二人で開いた。
読み物や伝記があって、そのあとにいくつかの問いかけが用意されている。
登場人物の心情や、「自分だったらどうするか」を問うものが多い。
 
「僕は伝記を読むのは好きだし、ほかのお話も、結構面白いと思うんだけど」
「そっか。じゃあ、そのあとの質問が嫌なんだね」
「そう」
「先生に何か言われるから?」
「先生は、『考え方はいろいろあっていいので、答えはありません』って言うだけだよ」
「答えがないなら、思う通りでいいじゃない」
「でも、そうじゃないよね」
「なにが?」
「求められている方向みたいなものがあるよね? だから、それを意識して答えてるよ」
「……ああ、なるほどね」
たしかに、私にも覚えがあった。
当時感じたモヤッと感も、一緒に思い出していた。
 
高学年ともなると、問いかけの意図するところが、透けて見えるようになる。
特別こざかしい性格というわけでなくても、いたし方ない気がする。
息子は、問いかけに対して、自分ごととして考えるより先に、せっせと模範回答をつくってしまっているのだ。
私個人としては、道徳教育の是非について、特に強い意見はない。
何がいじめになるか、なぜだめなのかを教えることで、いじめが減るならば意義があると思う。
ただ、価値観に触れる道徳の授業というものは、どんなに気をつけても、生徒側のモヤッと感をゼロにするは難しいのかもしれない、とも思ってしまう。
何より、そういう難しさをはらんだ授業にあたる先生方の苦労は、察するに余りあるが。
 
自分の頃は、どうだったか。
標語のような言葉を思い出す。
「思いやりをもちましょう」
「相手の気持ちになって考えましょう」
前段に「これが正しくて良いことなので」という言葉が、隠れていると感じさせる。
モヤッとする。
自分で経験して考えるより前に、決まりごとのように言われてしまうことの違和感。
かなり、モヤッとする。
大きく息を吸い込んで、全部、吐き出した。
胸式呼吸で、モヤモヤのかたまりを吐き出した。
 
私が息子に教えたかった、人の気持ちを想像してみることの意義。
これは、私が言葉を駆使して教えることではなく、息子本人が、人との関わりを通してこそ学びとっていくものだろう。
たとえば、大事な友達に、思いやりをもてなかった自分に気づいたとき。
それから、自分自身が、誰かのくれた思いやりに救われたとき。
そういうときに、「思いやりをもちたい」という気持ちが生まれるチャンスがくる。
そのチャンスをつかまえるかどうかは、本人次第。
 
肩の荷を下ろした私は、自分の実感を話してみた。
「人の気持ちを一生懸命想像してみたら、いいことがあったよ」
「どんなこと?」
「その人に優しくなれたこと」
ちょっとした間があった。ばかにするのかな、とも思った。
「ふうーん」
息子は、何かを考えているような表情のまま、ゆっくりと声を出した。
少し高めに発されたその声で、興味をひかれていることがわかった。
人に優しくなりたいという希望が、彼のなかに確かにあると感じた。
 
あとは、彼自身が経験して、感じていくことだ。
なにしろ、日々、学校という場でクラスメイト達とかかわりながら、いろんな道徳を学んでいるはずだ。
今後の彼に、委ねよう。
これからの人生、たくさんの実感から得た収穫が、いつか彼の希望を叶えていくことを願って。
 
 
 
 
***

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2020-08-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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