しがらみの真実
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記事:海野そら(ライティング・ゼミ5月開講通信限定コース)
「しがらみって何? 本当に存在する?」
昔見たドラマのセリフだ。ドラマの内容も誰が言ったのかも全く覚えていない。けれど、偶然にも私を救うこととなったこの言葉だけは忘れることはない。
わたしたちが生きる世界はその人の価値観がうつしだされた世界だ。固定された視点でみている限り永遠に世界が変わることはない。
裏を返せば、多角的な視点をもてば自分の見方一つで世界は変わるし、むずかしいと思っていた問題を解決することができる。
私がそんな経験をしたのは高校生の時だった。
私は名古屋で生まれた。
母方も父方も祖父が会社を創立し、母方のおじさんは皆祖父の会社で働いていた。父方の会社は私が生まれる前に祖父が他界していて、父のすぐ上の兄が会社を継いでいた。父はその下で働いていた。
二人のおばさんはそれぞれ会社経営者の元に嫁いでいた。
親戚関係が仕事でつながっているという環境だった。
父は八人兄弟の七番目、母は五人兄弟の四番目。兄弟の中で二人ともが弱い立場にあった。
成長するにつれいろいろなことを理解した。父の立場。母の立場。仕事だけでなく私生活にまで親戚が口をだしてくること。父も母も親戚の目を気にしながら暮らしていること。本家と分家には格差があること。
人はそうあるべきという固定観念にとらわれると、自由に考えることができなくなる。固定観念が自らの心を支配し、行動を規制する。宿命は変えられないと観念していたのだろうか。おとなしく保守的な父と母は、そんな不当とも思える世界を当たり前のように生きていた。
しがらみとは見えない檻だ。とらわれたら抜け出すことは難しい。
変わることのない、とらわれた世界で苦労している親の姿をみて、口には出せなかったが子供心に世の中の不公平さをひしひしと感じていた。
大学附属の中高一貫女子高に通っていた私は、当然エスカレーター式に附属の大学に進学するものと周りから思われていた。名古屋には、玉の輿にのせて結婚させることが娘にとっての一番の幸せである、そんな風潮がはびこっていた。大学附属の学校に通わせている娘がわざわざ失敗するかもしれない危険をおかし外部受験をして、しかも東京の大学にいくなんてありえない。なんのために私立の学校に入れたのかと、親は猛反対した。もちろん親戚も干渉してきた。親にそんなことはあきらめさせるようにと圧力をかけてきた。私にも直接、正気の沙汰ではないといって反対した。
親だけでなく親戚にまで干渉される生活に閉塞感や不自由さを感じていた私は、ここから抜け出すチャンスは今しかないと切迫していた。女のくせにと言われることにも強い抵抗を感じた。そんな思いが原動力となり毎日のように親に掛け合い、一年以上説得し続けた。
ついに親は根負けした。すべり止めは通っている学校の附属の大学。浪人はなし。受験に失敗したら専門学校に行くことを条件に東京の大学を受験させてもらえることになった。
今思うと、親は私と親戚の板挟みになって大変だったと思う。でも、最後には私を守ってくれた。自分が親になってみてわかる。自分は我慢できても子供には我慢させたくない。そんな親の思いと私の切迫した思いからくる熱量が親の心に変化をもたらしたのかもしれない。
そんな時だった。 あのドラマを見たのは……。
「しがらみって何? 本当に存在する?」 というセリフが心に突き刺さった。
そして自分にその疑問を投げかけてはじめて気づいた。
当時の私には、目に見えない檻にとらわれている親の姿がありありと見えていた。あんなにもありありと見えていたはずの檻が、私の心が勝手に作り上げた産物だったことに突然気づいた。
愕然とした。しがらみにとらわれていたのは親ではなかった。私自身だった。そんなものは初めから存在しなかったのだ。
もしあのまま、しがらみの真実に気づくことがなかったら、今の私はここにいるだろうか? 東京の大学を受験することは、初めはしがらみから逃げるための手段だった。そんな気持ちでは、たとえ大学に合格したとしても、結局世界は思うように変わらず、自分が勝手に作り上げた見えない檻の中で一生を送っていたかもしれない。
しがらみの真実に気づいたことで、東京の大学を受験することは、見えない檻から抜け出す扉のカギから自分の可能性を大きく広げる自由への扉のカギへと変わった。何物にもとらわれない心で目標に向かって進むことができた。そして、無事希望の大学に合格することができた。意識が変わると、見える世界が一変した。
世の中は希望であふれる心で見れば、自然と希望に目が向くようになる。親戚の干渉も全く気にならなくなった。自分の気持ち一つで現実は変えることができるのだ。
もしあなたが、今しがらみの中で身動きが取れず苦しんでいたとしたら、自分自身に問いかけてほしい。「しがらみって何? 本当に存在する?」
しがらみの真実に気づくことができたら、現実が変わり未来を変えることができる。
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