私がトイレの電気を消せない理由
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記事:フジタシン(ライティング・ゼミ5月開講通信限定コース)
「ねぇ! また、つけっぱなしなんですけど!!」
嗚呼。今日はもう3回目だ。今月はもう100回くらい言われている。
これは、僕の「トイレの電気つけっぱなし」問題である。
妻は相当イライラを募らせている。
最近、僕は「トイレの電気を消す」という行為を完全忘れてしまう。
私としては、できる限り気を付けているはずなのだが、気づいたらつけっぱなしなのだ。
この話の奇妙な点は、3か月前まではちゃんと電気を消していたということだ。
なぜかここ最近、異常なほどに忘れっぽい。
若年性のボケなのかもと思ったが、トイレの電気以外のことは特に忘れることは無い。
そのほかに何かを忘れて出かけることもないし、トイレ以外の電気は消すのだ。
それではなぜ、トイレの電気だけを消し忘れてしまうのか。
自分のことなのにさっぱり分からない……。
というわけで、いくつかの仮説を立て、検証を試みた。
仮説①、「トイレを済ませた後のことで頭がいっぱいで、電気を消し忘れる。」
トイレとは、突然行きたくなるものである。
何かをしている最中にトイレに行きたくなった場合、何かを中断してトイレに向かうものだ。するとトイレが終わる前に、中断していた物事のことで頭がいっぱいになってしまって、電気を消し忘れるのではないか? という仮説だ。
しかし、この仮説は正しくなさそうである。
昔から、何か長い時間の作業をするとき、トイレ休憩を挟みながら気分をリフレッシュするクセがあるので、それならずっと前から電気を消し忘れていておかしくない。
仮説②、「トイレに夢中になりすぎて、電気を消し忘れる。」
これは仮説①とは反対に、トイレに集中しすぎて終わった後のことをなおざりにしてしまうのではないか? という仮説だ。
便座に座ると「ホッ」としてしまうことは無いだろうか。少しゆっくりしてしまうことがある。そして丁寧に事を済ませた後、やり切った感で充実した気分になって外に出る。すると、電気を消すという行為をすっかり忘れてしまう、のではないだろうか。
これについても、僕の場合は正しくなさそうである。
僕は昔から「ホッ」とする瞬間が大好きなので、トイレに長居するクセがある。ここ最近、突然電気を消し忘れる理由にはならない。
仮説③、「引っ越ししたため、スイッチの場所が変わってしまって消し忘れる。」
引っ越ししてないので却下である。
仮説④、「スイッチが故障していて、押したのに消せてない。」
確認した結果、故障はしていないので却下。
仮説⑤、「実は昔から電気を消し忘れる癖がある。」
元も子もない。
……いや待てよ。実は的を射ているのかも知れない。
小さい頃、母親に「トイレの電気つけっぱなし!」と怒られ続けていた。
大学生になって一人暮らしをはじめると、なぜかトイレの電球だけ早く切れてしまう。
つまり、結婚するまで、ずーっとトイレの電気を消し忘れていた可能性がある。
そうだとしたら、なぜこれまで妻にバレなかったのだろうか?
3か月前に突然のように消し忘れてしまうようになった理由は何だろうか。
その問題に対して1つの仮説がある。
仮説⑥、「人生に大きな変化があると、当たり前だった習慣を1つ忘れてしまう(ので、トイレの電気を消し忘れる)。」
どういうことかというと、これが私の最近起こる面倒くさい傾向なのだ。
転職をした2年前、なぜか財布を1か月で3回も道に落としてしまった。
新しい仕事、新しい通勤経路、新しい持ち物に気を取られすぎた結果、元々持っていた財布を意識しなくなってしまったのである。
トイレの電気を指摘されるようなった3か月前と言えば、娘が産まれた時期である。
娘が産まれた結果、新婚のうちに頑張ってきたトイレの電気を消すという習慣を忘れてしまったのではないだろうか。
娘の世話するようになった結果、トイレに行っても娘の世話のことを考えすぎて電気を消し忘れる(仮説①)。その上、妻が娘の世話をしているときは、私は自由なのでトイレに集中できる。「ホッ」としてゆっくり時を過ごした後に電気を消し忘れる(仮説②)ようになったのだ。
つまり、仮説①も②も間違いではなかったし、娘が産まれて育児が我が家のタスクに加わった結果、そっちに気を囚われ(仮説⑥)、もともと忘れがちだった(仮説⑤)トイレの電気を消すという行為をすっ飛ばしてしまうようになったのだ。
なるほど!! それは合点がいく。そういうことだったのか!
私は、胸につっかえてきた大きなモヤモヤが取れたような気分になり、大満足のうちに意気揚々と妻にこれまでの仮説検証の流れを説明した。
彼女はニコニコしながら最後まで聞いてくれたが、最後に私にこう言った。
「で、結局トイレの電気は消せないのね?」
そうだよね。
私はトイレのドアに“電気を消す”という張り紙を貼ったのであった。
***
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