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人生事業計画書


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:中川 南慧(ライティングゼミ・日曜コース)
 
 
人生、あと何年、生きられるのか。
 
先日、高校時代の後輩が亡くなった。
小学校の頃から、ずっと弟のように可愛がってきた1人。
まだ40代後半の働き盛りだった。
 
ちょうど1年くらい前だっただろうか。
彼のお母様から、余命半年と連絡を受けた。
彼は運命に抗って、頑張って生きた。
 
彼は1つ下で、私と同じ高校に入学した。
入学式の後、彼のご両親に久しぶりにお目にかかった。
その時、直接ご両親から頼まれた。
 
「なえちゃん、あの子の事をどうかよろしくお願いします」
 
昔、彼から聞いていた話を思い出して、ご両親に尋ねた。
ご両親は寂しそうに微笑み、ただ頷かれただけだった。
ショックだった。ただただ、ショックだった。
 
彼は幼い頃から「長くは生きられない」と、言われてきたらしい。
中学の頃、私は本人からそう聞いていた。
その頃はまだ、その深刻さが解らずに、冗談だと思っていた。
 
それから何年かが過ぎた。
 
「ねぇ、ノブさぁ、無事に二十歳になったねぇ。ほんと良かったわ。
これから、何かやりたいこととか、将来の夢とかあるの?」
 
ノブというのは、子供の頃からの彼の呼び名だ。
彼は私のことを、昔から「姉さん」と呼んでいた。
彼が成人式を迎えたお祝いに、誘って飲みに行った。
 
「夢かぁ……俺、自分のレストランを開きたいなぁ……。姉さんは?」
「私? うーん、世界中の遺跡を巡ってみたいなぁ……」
「あれっしょ、神話とか言いながら、世界のアヤシい伝説巡りっしょ?」
「あはははは、そうかもねぇ。ノブがレストラン開いたら通うわ!」
「マジで? ほんじゃ、ウマいもん作るよ」
 
そして数年後、彼は本当に調理師になった。
結婚もせず、仕事に邁進してキャリアを積んでいった。
私は彼が勤める店に、ちょくちょく顔を出すようにしていた。
そして35歳になった頃、ノブは念願のレストランをオープンした。
 
ある時、高校の部活同窓会を開く事になった。
部長だった私に、後輩達からリクエストが来たのだ。
折角なので、ノブの店でやろうという事になった。
 
宴も酣にさしかかる頃。
酔っ払ったノブの同期の1人が悪ふざけて言った。
 
「結婚もせずに、オマエ、なんでそんなに仕事ばっかりしてるんよ?
相当、お金ため込んでんじゃねーの!? 俺にちょっと貸してくれよ~」
 
カチンときた私は「おい!!」と声を荒げてしまった。
するとノブは、私を目で制して笑顔で言った。
 
「これが俺の生きる証なんだよ。俺が生きた証になるからさ」
「何だよ、証って! 格好付けて婚活せずに、終活でもしてるのかー!?」
 
私は静かに席を立ち、いつもの笑顔を消した。
 
「な、なんすか、部長!?」
「飲み過ぎだよ、外に出な? 久しぶりに説教してやるよ」
 
私の真剣な表情に、何か察したのだろう。
後輩は、バツの悪い顔をしながら外に出た。
 
悪ふざけが過ぎた後輩に、炭酸水を渡す。
私は静かに、ここまでの話をする。
 
ノブは20代の頃に、フランスやイタリアへ料理修行に行った。
30代の頃には、一流ホテルの調理場を経て、念願のレストランをオープンした。
40代になる頃には、死期を悟って終活を始めた。
 
「40代で終活だよ。50歳が迎えられないって。オマエに考えられるか?」
「部長……、ホンマなんですか、それ……」
 
後輩は、大人気も無く泣きじゃくる。
大人の男が、ここまで泣く姿をかつて見たことがあっただろうか。
そんな事をぼんやり考えながら、背中を擦ってやる。
 
「……そんなの、俺ら、聞いて無いっすよ……」
「ノブらしいよね。同期の誰にも話してないなんてさぁ……」
「あいつ、みんなに黙って……、ひとり逝く気なんですか?」
 
酔いを覚ますかのように、夜風に涼む。
 
「さあねぇ……、私もそこまでは知らない。
でも学生の頃、ノブが言ってたよ。自分の人生は、全部逆算して考えてるって。
期限が解ってるから、悔いなく生き切りたいって。
俺の人生まるごと、事業計画書みたいなもんなんだって」
 
これを聞いた時、私は初めて理解した。
彼がどんな価値観で生きていこうとしているのか。
どんな覚悟で生きようとしているのか……。
 
人生を逆算して考える。
私には、出来ない。
いや、でもそれは、きっとしなければならない事だ。
臨死体験をした時、私にはそれが解ったはずだ。
 
突然訪れる死には、抗う術が無い。
私の臨死体験は、そんな感じのものだった。
 
良くも悪くも、時期が解る死は、準備が出来る。
遺される人達へも、死にゆく自分自身に対しても。
 
半年くらい前だったか。
「死への旅」というイベントに、私は参加した。
それは、余命宣告をされた自分自身を、仮想体験するものだった。
 
遺してゆく家族への想い。
自分が生きてきた人生への想い。
ガイドしてくれる声に従って、ひとつひとつ整理してゆく。
 
自分が抱えている、大切なもの。人。想い。
そしてそれを、ひとつひとつ、捨ててゆくのだ。
自分自身の命が終わる時、最期に手の中に残るもの。
それが、何なのか。
 
これは、その時にならないと、恐らく解らない。
けど、人間は考える事が出来る。想像する事は出来る。
その日が来た、自分自身の姿を……。
 
最期の別れをするために、私は京都まで帰った。
棺の中で眠るノブ。いつもの優しい顔をしていた。
彼は、この日が来る事を知っていた。
大切な仲間達に、ひとつひとつ形見と手紙を遺してくれていた。
もちろん、私にも。
 
彼はどんな想いで、この日まで生きてきたのか。
いや、幼い頃から「長生きできない」と言われて育った日々。
私が知らないところで、どれだけ強い人だったのだろうか……。
 
手紙には、恨み辛みはひと言も書かれていなかった。
感謝と楽しかったという言葉が、沢山並んでいた。
ノブらしいと、私は思った。
私の知っているノブが、まだそこに生きていた。
 
遅かれ早かれ、人はいつか死ぬ。
それは解りきっている。
しかし、そのリミットが切られたら……。
どれだけ、人は冷静に受け止められるのだろうか。
 
ノブの手紙には、こう書かれていた。
 
「姉さん、人生は事業計画書だよ。俺と沢山話した事、忘れないで。
タイムリミットから逆算して考えていって、それを実行していったら、きっと姉さんの人生は、もっと凄くなる。誰も止められなくなるよ。
俺に、「今を大切にして120歳まで生きる!」って、豪語した人、他には居なかった。
ホントにすげぇな、この人って思ったんだよ。
何があっても、絶対に挫けない強さに憧れてた。本当に自慢の姉だよ。
120歳を全うしたら、その後の話を沢山聞かせてよ。楽しみにしてるから。」
 
彼が亡くなる1週間前の日付が記されていた。
 
120歳まで、本当に生きられるとしたら……。
人生、あと70年もある。
いや、70年しか無いと思うべきか。
 
100歳まで、現役で動けると考えるなら?
あと約50年か……。
 
ここから50年分の事業計画書……か。
今からなら、かなりの事が出来そうだ。
この先50年も何もしないなんて、有り得ない。
私のこれからの人生に、そんな選択肢は無い。
 
死後の世界は、多分本当にある。
見てきたから、知っている。
 
だからこそ、ここから50年分の事業計画書を書いてみる。
10年毎、5年毎、3年毎、1年毎。
半年毎、3ヶ月毎、1ヶ月毎、1週間毎……
 
書いてみて解る、人生の短さ!
あっという間に50年ではないか!!
これでは1日たりとも、無駄には出来ない!!
明日から、私の人生、忙しくなりそうだ。
 
 
 
 
***

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2020-08-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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