メディアグランプリ

お父さんを亡くしたお父さん


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記事:櫻木聖子(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「あのとき聖子を見て泣きそうになったよ」
ベッドの上で永遠と泣き続ける私に、お父さんはこう言った。
「聖子が来てくれて良かった。遠くからありがとう」
私はもっと泣いた。だって、お父さんが泣いていたから。顔を下に向けて堪え切れぬ涙を拭いながら。幼いころから単身赴任で一緒に暮らしていなかったお父さん。お父さんの泣く姿を見たのはこれが初めてだった。
 
2019年7月、おじいちゃんが亡くなった。そう、お父さんはお父さんを亡くしたのだ。その知らせを聞いた私は飛行機に飛び乗ってひとり先に福岡へ向かった。お母さんとお兄ちゃんはどうしても外せない仕事があったからすぐには帰れなかった。葬儀場に到着してすぐお父さんを見つけた。目があったが言葉を交わすことはできなかった。葬儀社との打ち合わせに追われていたからだ。私は叔母さんに迎えられ、おじいちゃんに挨拶をした。忙しい両親に代わって私の面倒をみてくれたおじいちゃん。かなり頑固者で意見の衝突もしたけど、私のことをたくさん愛してくれた。まさかもうおじいちゃんとお別れの日が来るなんて思ってもいなかった。5月に帰ったとき、ちょうどそのタイミングでおじいちゃんは緊急入院した。癌だった。その時に病院で会ったのが私とおじいちゃんの最後だ。なんとなく帰らなきゃと思って帰った5月。このなんとなくはなんとなくではなかった。きっとおじいちゃんとのお別れを予告していたのだろう。お父さんといえば、大阪に単身赴任中だった。おじいちゃんが亡くなるちょうど連休に福岡に帰っていた。おじいちゃんの最期をみとることができたようだ。
 
私はそれまで身近な人を亡くした経験がなかった。だから人が亡くなる悲しみを実感したこともなければ、人が死んでからどんなことをするのかも知らなかった。おじいちゃんが亡くなった知らせを聞いても、正直よくわかっていなかった。ただ、すぐに帰らなければと思ったのだ。もちろんおじいちゃんと最後のお別れをするために、そして死んだあとにしなければならないことを知るために。そして何より、お父さんがおじいちゃんとお別れする姿を目に焼き付けるために。ちゃんと見ておかなきゃと思ったのだ。親とお別れする親を。
 
お父さんは初めて務める喪主に苦労しているようだった。葬儀の打ち合わせや参列者への挨拶、火葬、納骨、初七日をどこでどうするのか葬儀社の方やおばあちゃん、叔母さんたちと話し合いが続いていた。高齢の親戚たちの厳しい声が容赦なく聞こえてくるが、お父さんはおじいちゃんに似て頑固で真っ直ぐだった。そんな忙しいお父さんを私は遠くからずっと見ていた。少し落ち着いたときに、やっとお父さんと言葉を交わした。
「無事に着いてよかった。おじいちゃんに挨拶はもうした?」
「うん、したよ」
「そっか。聖子にお願いがあってね、参列者の受付をしてほしい」
「わかった、任せて」
少しでも父の助けになれば、と思った。
「あと、孫代表でおじいちゃんにお別れの言葉を用意しといてね」
突然で、戸惑った。
「え、私が?」
「まだ時間あるから、お願い。長くなくていいから、お兄ちゃんの代わりに聖子お願い」
どんなことを言えばいいのかさっぱりわからない。
「思いのままにおじいちゃんに伝えればいいから」
そう言われとりあえず引き受けた。
 
そうしてお通夜が始まった。遺族代表で前にでて挨拶をするお父さん。参列者に向かって話す姿はかなり気を張っているように見えた。まるでパンパンの水風船状態。一瞬でも気が緩んでしまうと壊れそうな感じだった。最後まで涙をこらえ呼吸を整えて話すお父さんは表向きの強いお父さんだった。私には無理だった。孫代表で前に出たものの、綺麗なお花に包まれたおじいちゃんを前にすると息ができなくなった。おじいちゃんにお別れの言葉を伝えたいのに、涙がそれを邪魔した。目の前におじいちゃんがいるのに、もうここにはいなんだ。「聖子さん」ってもう呼んでもらえないんだ。そのときはじめて実感した。おじいちゃん死んだんだって。
 
そのまま葬儀・告別式が行われその日は終わった。
そして翌日、火葬場で本当に最後のお別れをした。
初七日法要・精進落としを済ませ一段落して家族で自宅に戻った。
 
私は少しでも気を抜くと涙が勝手に出てしまった。最愛のパートナーを亡くしたおばあちゃんのことや、お父さんを亡くしたお父さんのことを考えるともっともっと悲しくなって涙が止まらなかった。
 
そんな私に気づいたお父さんはティッシュ箱を持って部屋に入ってきた。
 
「おじいちゃんね、綺麗に息をひきとったんだよ。家族みんなでおじいちゃんの最期をみとったよ。その日はね家族で川の字になって寝たよ。おじいちゃん逝っちゃったよ……」
お父さんは声を上げて泣いた。お父さんはお父さんのお父さんを亡くしたんだ。親を亡くしたんだ。泣き崩れるお父さんをみてまたおじいちゃんの死を実感した。お葬式のときにみた表向きのお父さんの何かが私の目の前でそのときプチっと切れた。
「聖子が来てくれて嬉しかったよ。おじいちゃんも喜んでるよ、きっと。ありがとう、ありがとう」
親を亡くした親の泣く姿は言葉では表しきれないものだった。悲しみ、後悔、寂しさ、感謝、愛、父から出てきた言葉にはおじいちゃんへのいろんな気持ちがまじりあっていた。
いずれ向き合わなければならない親の死。私にもそのときがくる。お父さんを亡くしたお父さんの立ち振る舞い、表向きの強さ、本当の姿。今まで知ることのできなかったお父さんの一部が見れた気がした。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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