メディアグランプリ

時と写真


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記事:ゆーすけ(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
今では本当に手軽に写真を撮れるようになった。一世紀前までは、カメラの前で何分間かじっとしてようやく一枚の写真を撮るのがやっとだったが、今やカメラがなくとも、スマートフォン1つあれば、好きな街角の風景や、旅行に行ったときに見た珍しいもの、鮮やかな虹や、幻想的な夕暮れの瞬間を手軽に撮ることができる。写真はとっておきの瞬間を永遠に切り取り、記録に残してくれる。
考えてみればこれはとっても素敵なことだ。私たちは写真で切り取ったその瞬間をいつでも見返して、その時を追体験できるのだから。楽しかった旅行の写真を見返せば、その時の楽しい気分に浸ることができるし、学生時代の仲間と映った写真を見れば、甘酸っぱい記憶が蘇る。結婚式の写真を見れば、あの頃は幸せだったなぁ、と思うのかもしれない。
写真というのは間違いなく人類の発明品の中で偉大な物の1つだろう。
 
しかし、現代では写真は盗っ人にもなり得る。注意しないと私たちは生き生きとした時を写真に奪い取られてしまう。
 
例えば、有名な庭園で満開に咲いたしだれ桜、雨に濡れた瑞々しいアジサイ、赤々と燃える紅葉、澄んだ夜空に浮かぶ満月、美しいものを美しいまま記録しようと、私たちは熱心にスマートフォンを構えて、何枚も何枚も写真を撮る。やがて、ある程度の写真が撮れると、私たちは「よし、いい感じ。じゃあ次」といった感じで満足してその場から歩み去ってしまう。スマホのレンズ越しではなく、自分の目でその美しいものを眺める、ということをしないままに。
その時撮った写真はもちろんデータとして残る。しかし、私たちがその写真すべてを見返すことが果たしてあるのだろうか? 本当に見返す写真は2~3枚であり、後の写真は削除するか、削除しないまでも、データに残したまま永久に見返すことはなく、それらはすべて無駄になるのではないか?
そして写真を撮った私たちは、じっくりとその物を観察、鑑賞することで本来得られるはずだった、深い感動や新たな発見を失っているのではないか? すてきな写真を残そうという思いにばかりとらわれて、写真を撮ることだけに心を奪われて、私たちは「その時を味わう」という贅沢を写真に奪われてしまっているのではないか?
 
写真を否定するつもりはないが、私たちは写真には功罪両面があることをもっと認識するべきなのではないかと思う。適切な分量であれば、写真はその瞬間を永遠にとどめ、いつでもその時にアクセスできる強力なツールとなるが、逆に多すぎると、私たちは写真を撮ること自体に心を奪われ、その時味わうべき感動を写真に奪われてしまう。もっと私たち自身の目で美しい現実をしっかりと見ることが必要なのではないか? 自分の目で美しい物や瞬間を深く観察する、そして永遠に記憶に留める。少なくともそういった努力をする。もしかしたら、それらの感動や体験はいつか忘れてしまうのかもしれないが、その時に味わった感動や、感動を得るために自らの感受性を発揮されたことは、私たちの滋養となり、確かに心の奥底に経験値として残っていくものだと思う。そういったものを積み重ねていくことのほうが、何枚も写真をフォルダに積み重ねていくことよりも大事ではないのだろうか?
 
『LIFE!』という映画の中にこういうシーンがある。この映画の主人公はアメリカのフォトグラフ誌で働く冴えない男で、とある理由からその雑誌の表紙を担当する伝説の写真家を探しに、世界のあちこちを冒険することになるのだが、最終的に主人公はヒマラヤの高地でその写真家を見つける。
その写真家はじっとだまって、岩陰に潜みながらその瞬間を待っている。彼は珍しいユキヒョウの写真を撮ろうとしているのだ。
長い間待ち、ようやく岩間からユキヒョウがひょっこりと顔を出す。その写真家はファインダーにそのユキヒョウを収め、主人公にもそのファインダーを見せる。しかし、その写真家はシャッターを切らない。「シャッターを切らないのか?」と主人公が尋ねると、その写真家は主人公にこう語りかける。「時には押さない。もしその瞬間が俺にとって好きな瞬間なら、カメラに邪魔されたくない。その一瞬を大切に味わう」と。ついに、その写真家はシャッターを切ることなく、ユキヒョウは歩み去ってしまう。
 
改めて言うが、写真は決して悪いものではない。ただ、私たち自身が写真を盗っ人にしないように注意を払う必要がある。本当に撮るべき写真は後で思い返すための2~3枚でいい。時には撮らなくてもよい。それよりも、その時に没入し、様々なことを貪欲に体験しよう。私たち自身の目をしっかりと開けて、その瞬間を見逃さないようにしよう。その時を思う存分楽しもう! そうでなければ得られないものがきっとあるはずだから。
 
 
 
 
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2020-08-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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